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21章
土竜は眠る①
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【刻狼亭】の裏手にある大旦那屋敷ではトリニア家の三つ子の子供達が木箱で作ったカートに、岩の様な卵を乗せてこっそりと移動している。
「ティル……父上にバレたらおこられるよ?」
「だったらエルはそこに居なよ」
「二人共、声大きいよ。父上に気付かれちゃう」
眉をハの字にしたエルシオンがオロオロと耳を下げながら、兄のティルナールと妹のルーシーを見るが、ティルナールもルーシーも強気な顔でエルシオンの止める声に耳を傾けてはくれない。
一番、姿も目の色もルーファスに似ているエルシオンではあるが、泣き虫で臆病なところは昔から変わっていない。
「母上にも怒られちゃうよ?」
「エル! 困っている人がいるんだから、仕方が無いだろ!」
「これは人助けなんだよ!」
伝家の宝刀である母親のアカリの事を持ち出すと、ティルナールとルーシーはカッと怒る様に大声でエルシオンに食って掛かる。
エルシオンは耳を下げながら、二人が母親に構って欲しいだけなのだと思っている為に、どうにか止められないか考えあぐねている。
「―……ねぇ? 声がするけど、ティル達帰って来てるのー?」
アカリの声に三人はビクッと小さく飛び跳ねて、慌ててティルナールとルーシーは木のカートを引きながら走って敷地内から出て行ってしまう。
「二人共、駄目だってばー!」
キュゥゥンと鳴いて、エルシオンが耳をぺシャリと下げると、屋敷の勝手口からアカリが顔を出して首をかしげてエルシオンを見付けると、ふわっとした笑顔を向けてくる。
「エルおかえりさない。どうしたの? 泣きそうな顔して、二人は?」
「ははうぇぇ~っ」
泣きながらアカリにしがみ付いてきたエルシオンに、アカリが「あらあら」と頭を撫でて、後ろで小さく首をかしげているルーファスに笑顔を向ける。
「エル、アカリの腹の中のお前の弟か妹が泣き声を聞いているんだぞ? お兄さんなんだから泣き止め」
「ルーファス、そういう言い方は駄目ですよ? お兄ちゃんだって泣きたい時はあるんだから」
「うーっ、ちちうぇぇ……ティルと、ルーシーが、ニクストローブ連れて、行っちゃったぁ~」
「「ニクストローブを?」」
アカリとルーファスが、意味が分からないと小さく眉間にしわを寄せる。
ぐしぐしと手で涙を拭きながら、エルシオンが頷く。
「知らない人に、ドラゴンの卵が無いと死んじゃう人がいるからって言われて、二人が人助けだって……」
「まぁ! まさかそれを信じたの!?」
「チッ、アカリ、【刻狼亭】の従業員を何人か物取りに回す様に伝えてくれ!」
ルーファスが獣化して走り出し、アカリはエルシオンを連れてナナメ横の【刻狼亭】の調理場の勝手口から料亭内へ入っていく。
料亭内の調理場では昼食時間を過ぎて甘味時間のピークも過ぎた時間帯なので、夕方に向けての仕込み料理の為に料理人は忙しく手を動かし、配膳担当の従業員達はまったりとしている所だった。
「手の空いている人がいたら、『物取り』を手伝って欲しいのだけど、誰か手が空いてないかしら?」
暇をしていた配膳担当達がワラッと集まって手をバッと上げる。
「大女将、物取りってどういうのですか?」
「荷物とかですか?」
「それとも戦闘ありの『捕り物』の方ですか?」
相変わらず、血気盛んな従業員達にアカリが笑って、ファイティングポーズをする。
「戦闘があるかもしれません。どうやらドラゴンの卵をうちの子供に持って来いって言った人がいるみたいで、今、ルーファスが子供達を追っているの。ドラゴン・ハーフが誕生してしまうかもしれないから急いで卵を取り返したいの」
「おっしゃー! 久々に暴れるぞー!」
「ちょっと、アンタはこの間、客とやり合ったんだから、今回はアタシ達に出番寄越しなさいよ!」
「早い物勝ち! 大女将、犯人は何処に?」
アカリがエルシオンの背を押して「はい。エル説明」と促す。
エルシオンが少し従業員の気迫に気圧されながら、耳を下に下げておずおずと口を開く。
「あのね、卵を欲しいって言った人は、露店商街の奥にある獣騎置き場の近くの人で、赤い獣騎の荷馬車の人」
「赤い獣騎? 随分目立つ色だな」
「それなら簡単に見つかりそうだね」
「んじゃ、行くかー!」
従業員達が勢いよく飛び出していくと、残された調理場の人間達は少し溜め息を吐く。
「全員で行って、誰が店を回すんだかね?」
「あらあら、リューちゃんに怒られちゃいそう。仕方がないわね。私が配膳のお手伝いに回るから、誰か旅館の方から従業員のヘルプ呼んできてくれる?」
「いや、大女将こっちはこっちで何とかしますから、大人しくしててください」
「大旦那に大目玉食らっちゃいますって!」
お願いだから大人しくしていてくれと、祈るようなポーズで調理場の人間がアカリを宥めると、アカリは「平気よー」と、配膳カウンターにスタスタ回っていってしまう。
ニコニコと配膳盆を持って、料亭内に姿を消したアカリに調理場の人間は「大旦那と旦那にどやされる……」と青ざめて、慌てて旅館の方へヘルプの従業員を呼びに行った。
「ティル……父上にバレたらおこられるよ?」
「だったらエルはそこに居なよ」
「二人共、声大きいよ。父上に気付かれちゃう」
眉をハの字にしたエルシオンがオロオロと耳を下げながら、兄のティルナールと妹のルーシーを見るが、ティルナールもルーシーも強気な顔でエルシオンの止める声に耳を傾けてはくれない。
一番、姿も目の色もルーファスに似ているエルシオンではあるが、泣き虫で臆病なところは昔から変わっていない。
「母上にも怒られちゃうよ?」
「エル! 困っている人がいるんだから、仕方が無いだろ!」
「これは人助けなんだよ!」
伝家の宝刀である母親のアカリの事を持ち出すと、ティルナールとルーシーはカッと怒る様に大声でエルシオンに食って掛かる。
エルシオンは耳を下げながら、二人が母親に構って欲しいだけなのだと思っている為に、どうにか止められないか考えあぐねている。
「―……ねぇ? 声がするけど、ティル達帰って来てるのー?」
アカリの声に三人はビクッと小さく飛び跳ねて、慌ててティルナールとルーシーは木のカートを引きながら走って敷地内から出て行ってしまう。
「二人共、駄目だってばー!」
キュゥゥンと鳴いて、エルシオンが耳をぺシャリと下げると、屋敷の勝手口からアカリが顔を出して首をかしげてエルシオンを見付けると、ふわっとした笑顔を向けてくる。
「エルおかえりさない。どうしたの? 泣きそうな顔して、二人は?」
「ははうぇぇ~っ」
泣きながらアカリにしがみ付いてきたエルシオンに、アカリが「あらあら」と頭を撫でて、後ろで小さく首をかしげているルーファスに笑顔を向ける。
「エル、アカリの腹の中のお前の弟か妹が泣き声を聞いているんだぞ? お兄さんなんだから泣き止め」
「ルーファス、そういう言い方は駄目ですよ? お兄ちゃんだって泣きたい時はあるんだから」
「うーっ、ちちうぇぇ……ティルと、ルーシーが、ニクストローブ連れて、行っちゃったぁ~」
「「ニクストローブを?」」
アカリとルーファスが、意味が分からないと小さく眉間にしわを寄せる。
ぐしぐしと手で涙を拭きながら、エルシオンが頷く。
「知らない人に、ドラゴンの卵が無いと死んじゃう人がいるからって言われて、二人が人助けだって……」
「まぁ! まさかそれを信じたの!?」
「チッ、アカリ、【刻狼亭】の従業員を何人か物取りに回す様に伝えてくれ!」
ルーファスが獣化して走り出し、アカリはエルシオンを連れてナナメ横の【刻狼亭】の調理場の勝手口から料亭内へ入っていく。
料亭内の調理場では昼食時間を過ぎて甘味時間のピークも過ぎた時間帯なので、夕方に向けての仕込み料理の為に料理人は忙しく手を動かし、配膳担当の従業員達はまったりとしている所だった。
「手の空いている人がいたら、『物取り』を手伝って欲しいのだけど、誰か手が空いてないかしら?」
暇をしていた配膳担当達がワラッと集まって手をバッと上げる。
「大女将、物取りってどういうのですか?」
「荷物とかですか?」
「それとも戦闘ありの『捕り物』の方ですか?」
相変わらず、血気盛んな従業員達にアカリが笑って、ファイティングポーズをする。
「戦闘があるかもしれません。どうやらドラゴンの卵をうちの子供に持って来いって言った人がいるみたいで、今、ルーファスが子供達を追っているの。ドラゴン・ハーフが誕生してしまうかもしれないから急いで卵を取り返したいの」
「おっしゃー! 久々に暴れるぞー!」
「ちょっと、アンタはこの間、客とやり合ったんだから、今回はアタシ達に出番寄越しなさいよ!」
「早い物勝ち! 大女将、犯人は何処に?」
アカリがエルシオンの背を押して「はい。エル説明」と促す。
エルシオンが少し従業員の気迫に気圧されながら、耳を下に下げておずおずと口を開く。
「あのね、卵を欲しいって言った人は、露店商街の奥にある獣騎置き場の近くの人で、赤い獣騎の荷馬車の人」
「赤い獣騎? 随分目立つ色だな」
「それなら簡単に見つかりそうだね」
「んじゃ、行くかー!」
従業員達が勢いよく飛び出していくと、残された調理場の人間達は少し溜め息を吐く。
「全員で行って、誰が店を回すんだかね?」
「あらあら、リューちゃんに怒られちゃいそう。仕方がないわね。私が配膳のお手伝いに回るから、誰か旅館の方から従業員のヘルプ呼んできてくれる?」
「いや、大女将こっちはこっちで何とかしますから、大人しくしててください」
「大旦那に大目玉食らっちゃいますって!」
お願いだから大人しくしていてくれと、祈るようなポーズで調理場の人間がアカリを宥めると、アカリは「平気よー」と、配膳カウンターにスタスタ回っていってしまう。
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