黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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21章

土竜は眠る③

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 東国風の大きな屋敷の庭にドラゴン達がそのままの姿で集まり、ルーファスとアカリと話し合っている。
中心にはニクストローブの岩の様な卵が置かれており、小さく心臓の音がトクンと鳴っている。

「ティルナールとルーシーは、この屋敷から出す」
「ルーファス!?」
 
 目を大きくして驚いた表情のアカリに、ルーファスはドラゴン達に向かい合い、頭を下げる。
ドラゴン達も少し困惑気味で、お互いに目線を合わせて首をかしげている。

「ルーファス、そこまでしなくても無事だったし、ニクストローブも怒らないと思うよ?」
「駄目だ。これは親として、ドラゴン達へのけじめとしても決定事項だ」

 アルビーがルーファスの頭にコツコツと自分の頭を擦り付けて、考え直さないかな? と、困った顔をするが、ルーファスは表情を崩さない。

「ルーファス……確かにニクストローブを危険な目に合わせてしまったけど、あの子達はドラゴンは不死身だと思ってたからで……」
「不死身だろうと不死身で無かろうと、無抵抗の者を他人に差し出した事は許せる事では無い。子供といえど、そこまでの分別がつかない様に育てたオレ達の責任でもある。だからこそ、あの子達とは距離を置く」
「あの子達も反省してるよ? 今回だけ大目に見てあげる事は出来ない?」
「駄目だ。ニクストローブが孵化するまではあの子達は、この屋敷の敷居を跨ぐことを許可しない」

 アカリが眉を下げて、ルーファスをどう説得させるべきかを必死に考えて言葉を探して、ルーファスの着物の袖を握る。

「婿は頭が固いのう。我らとてそんな風に幼子を親元から引き離してまで謝罪をされても、困るというものだが?」
「そうよー。ニクストローブだって、そこまで反省させてるなら怒らないわよ」
「ルーは少し大袈裟よ。ニクストローブが無事なんだから、良いじゃない?」
「ケイトもいいと思うの」
「それより、私達の主様が泣き出しそうだわ」

 ドラゴン達がルーファスに頭をコツコツぶつけて、考え直せと促して、アカリの心配もしている。
その様子を縁側から、リュエール達兄妹も少し心配そうな顔で見届けている。
ティルナールとルーシーは自分達の部屋で荷造りする様にルーファスに言われて、荷造りをしている為に、この話し合いの場には居ない。
居るのはエルシオンだけで、今にも泣き出しそうに目に涙を溜めている。

「兄上……ひっ、ふぅっ、ぐすっ」
「エル、僕に言っても、子供の権限は父上にあるからね、僕じゃどうしようもないよ」
「オレにも無理。リューに無理な事は、権限のないオレにはもっと無理だからね」

 キュゥゥンと声を出しながらリュエールとシュトラールを見上げて、鼻をすすりながら次はミルアとナルアを見る。

「姉上ぇぇ……ひぐっ」
「可哀想ですけど、仕方がないのですわ」
「こういう時に力になってくれるのは、ハガネくらいですわよ」

 四人の兄妹は「ハガネならねー」と、うんうんと頷く。
しかし、残念ながらハガネはアカリの頼んだ買い出しに隣りの大陸へ出掛けていて不在である。
エルシオンの耳がぺしゃんと下がり、四人の兄妹達も小さな弟に同情してしまう。

「こればかりは、ニクストローブが孵化して話し合いに出て来てくれないと駄目だろうね」
「ニクストローブは1年以上卵のままだしね」
「大きなドラゴンですから、力を溜めるのに時間が掛かっているのでしょうか?」
「卵大きいですものねぇ」

 エルシオンが縁側から飛び降りると、ニクストローブの卵の所まで走っていく。
卵にしがみ付くと、泣きながら卵を叩く。

「ニクストローブ、起きて! お願いだから! ティルとルーシーを助けて! お願いだからぁ!」
「エルシオン! 止めろ!」

 卵にしがみ付くエルシオンの首を片手で掴むとルーファスが引き剥がすと、エルシオンがウウウと唸り声を上げながら、反動を付けてルーファスの腕を両足で掴んで引き剥がして地面に降りる。

「父上! ティルとルーシーを許してあげて!」
「……エルシオン、お前も二人を止められなかった責任がある。これはお前への罰でもある」
「二人は、ただ、父上と母上に構って欲しかっただけなんだよ!」
「毎日顔を突き合わせて、時間の合う限り話もしていた筈だが?」

 エルシオンは首を横に振って、アカリを見る。
アカリとしてもルーファスと同じ様に子供達には出来る限り、話をしていた筈だと記憶している。
むしろ上の子供達よりも、三つ子は一緒にいる時間も多かったと思う。

「父上も母上もお仕事で【刻狼亭】で忙しくしてて、やっと兄上に代替わりしたから、二人共、父上と母上にいっぱい構って貰えると思ってたのに、二人は旅行の計画したり、赤ちゃんが出来るとお昼寝してばかりだし、だから、二人は父上や母上に少しでも自分達を認めてほしくて、『人助け』って言葉に騙されちゃったんだよ! あんな怪しい事、いつもの二人なら信じるわけないのに!」

 ルーファスとアカリが少し呆気にとられた顔でエルシオンを見て、お互いに自分の顔に手を当てる。
 ルーファスは一人っ子で、小さい頃から親に構って貰う環境には無かった。むしろ叔父であるギルに構い倒されて従業員達に構われていた状態で、父親が早くに亡くなっていたのもあり、自立は早かった。
 アカリも一人っ子状態な状態で両親は共働き、祖母しか構ってくれる人は居なかった。妹が出来てからようやく母親が家に居る状態になった。自分の子供の頃に比べれば、随分構われている子供達は幸せだと、思っていたが……。

 自分達の当たり前は、子供達にとっては寂しい思いをさせていたのかと、二人は肩を落とす。
ああ、これは親として反省すべき点だと、アカリは項垂れてルーファスに寄り掛かる。

 パキョンと、音が響いて、岩の様な卵から岩肌色の小さな手が出て来る。

「「「あっ!」」」

 パキョパキョと卵から幼竜のニクストローブが孵ると、小さく欠伸をして伸びをする。
自分の体についた卵の殻をモグモグと食べながら、ニクストローブは金色の目を細めてルーファス達を見渡す。

「ニクストローブ! ティルとルーシーを許してあげて!」

 エルシオンがニクストローブに「お願い!」と頭を下げると、ニクストローブは自分の殻で地面に縦と横に線を引き丸印を書く。

「これは……?」
「キュウウ」

 ニクストローブが自分の殻をエルシオンに1枚渡し、地面を叩く。
アカリが地面を見て「丸バツね」と、言い、ニクストローブが頷いて、アカリがエルシオンに「エルはバツ印で書くのよ」と言う。

「簡単な陣取りゲームだな」
「ニクストローブが『ひとまずワシとゲームをしよう。勝てたら許そう』って言ってる」

 アルビーがニクストローブの言葉を通訳して、エルシオンとニクストローブの小さな陣取り合戦が始まった。
引き分けが続き、エルシオンが涙を溜めながら何度目かの勝負をしている。

「エルシオン、泣くな。真剣勝負で泣くのは既に心が負けている」

 ルーファスの言葉にエルシオンが涙を手で拭いて、地面にバツを書く。

「……負けました……」

 地面にエルシオンの涙が吸い込まれると、ルーファスがエルシオンの手から殻を取る。

「選手交代だ。オレが相手になる」
「キュキュー」
「『婿殿相手ならワシも本気を出すしかないな』だって」
「フッ、吠えずらをかくなよ?」
「キューゥー」
「『婿殿がな』だってさ」

 引き分けが何度か続き、十数回目に勝負はついた。

「キュキュ」
「『仕方がないのう』だってさ」
「まぁ、あの子達に反省はさせる」

 ニクストローブがルーファスの肩に止まり、頭をコツコツと擦り付けると「すまないな」と謝って、主従契約をして、再びルーファスの従者にニクストローブが加わった。
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