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21章
白い着物に染め氷
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新しい年になってひと月くらい経った頃、私、朱里・トリニアは氷竜のグリムレインと一緒に氷山にある温泉……らしいけど、凍らないだけで冷たい池に来ていた。
「グリムレイン、寒いよぉぉ!!」
「我には丁度いいが? むしろもっと冷たい気温の方が心地いいな」
あー、駄目だ。氷竜の好む気温なんて私には無理だ。お付き合い出来ない……。
ブルブル小刻みに震えながら、グリムレインに背負わせていた葛籠を下ろしてもらい、葛籠から今まで私がルーファスにプレゼントされていた白い女将の着物を取り出していく。
この着物は私が【刻狼亭】の女将という証だった白色の着物。
でも、もう私の立ち位置は息子嫁のキリンちゃんに譲り渡したので、今は白地に近い淡い色の着物が多い。
そして、この白い着物も袖を通さないのは勿体ないので、こうしてグリムレインと一緒に『染め』にきたのである。
「グリムレイン、染めるのに丁度良さそうな物って、どこにあるの?」
「もう染めるのか? 嫁は感傷に浸ったりはせんのだの」
「んー……、確かに白色は私だけの色って今までは思っていたけど、息子達の代になったんだもの。潔さも肝心だし……それに、まだリューちゃん達に任せられないお客様は私も白い着物を着て対応する事もあるから、全部の白い着物が無くなるわけじゃないしね」
ルーファスも黒い着物から、少し落ち着いた藍色の着物に変わったし、私も手放さないといけない。
感傷に浸らないわけではないけど、私という人間が着物の色で変わるわけじゃないし、今までの私の『女将』としての存在が無くなるわけでもない。
ただ、一言で言い表すなら『寂しい』かもしれない。
私の時代が終わって、新しい時代に切り替わったのが何ともいえず、寂しい……という感じだ。
ふるふると左右に頭を振って、グリムレインを見上げて「染めるぞー!」と声を出す。
グリムレインはそんな私を気遣っているのか、いつも通りなのか、「よし、嫁の為に良い氷を探すか!」と声を出す。
「氷なの? 染める物って言うから、木の実とか花とかだと思ったんだけど」
「ふふーん。嫁の為に我だけしか使えぬ氷魔法を使ってやろうというのだ」
「ふぅん? どんな魔法なの?」
少し勿体ぶるようにグリムレインが私の周りを飛び、「行ってくる」と私を残して飛んで行ってしまった。
ううっ、せめてドーム魔法で温めてから行って欲しい……まぁ、私も魔法は使える様にはなっているから、凍えて死ぬって事は無いけど、相変わらず私はこの世界の病気なんかには弱いので、そこら辺は注意してほしいところなんだけどね。
ちなみにスクルードは冷えてしまうといけないのでルーファスが屋敷の中で面倒を見てくれている。
まだ乳飲み子なので色んな場所へ連れ回すのは、私よりも体が弱いだろうから出来ないんだよね。
搾乳しておいたし、保温魔法を哺乳瓶にかけておいたからルーファスにミルクをあげて貰えば食事も心配ない。
「うーっ、でも寒い! グリムレインまだなのー!」
葛籠の中の着物を腕に巻きながら、足をジタジタと足踏みしていると頭の上からコンコンと小さな氷の欠片落ちてきて、上を見上げれるとグリムレインが一畳分はありそうな氷を持って帰ってきた。
「待たせたの。丁度いい花の氷が見つかったぞ」
「花の氷? ああ、氷の中に花が入ってるんだね」
「うむ。綺麗に入っているのを見つけるのに少し苦労した」
苦労したという割りには早く戻ってきた気がするけど……グリムレインは持って帰ってきた氷と白い着物を合わせながら、池の中に着物と氷を持って入っていく。
「グリムレイン、大丈夫ー? 私手伝う事あるー?」
「いや、いい。嫁はそこで我の働きを見ておくがいい」
「はーい」
それならば、私はおとなしくグリムレインの魔法を見ておこう。
グリムレインが池の中で着物を氷で挟むと、白い着物に氷の中に閉じ込められた花がそのまま移り、池の澄んだ青色に染まる。
グリムレインが着物を池で濯ぐと、青い色は淡い色になる。
「うわぁ。素敵な色だね」
「そうであろう。我の氷色だ」
「他に色はつけられないの?」
「出来るぞ。他にも色々つけていくか」
「うん。折角だから色んな色をつけてみたい」
「よしよし、やるかの」
グリムレインが池の場所を移動して魔法で氷の色を変えて、着物の色を変えては氷に閉じ込めてある草花を移して、最後の仕上げに乾燥魔法でパリッと乾かして葛籠に戻していく。
グリムレインが葛籠を背中に背負って、私の移動魔法で屋敷の前に帰ると、屋敷の庭ではルーファスがスクルードを抱っこして歩いていた。
「アカリ、おかえり」
「ただいま。ルーファスどうしたの? スーちゃん寝付かない?」
「少しばかりアカリが居ないと泣くのでな……庭で気晴らしをさせていた」
「あらら。スーちゃん、母上が帰りましたよ。ん、泣いてないから、ルーファス頑張ったんですね」
「スーの代わりに、オレが泣きそうだったよ」
ルーファスが少し情けない声になりながら、スクルードを私に渡してきて、グリムレインから着物の入った葛籠を受け取り、「茶でも淹れよう。グリムレイン、美味い菓子があるぞ」と言って、屋敷の中に入りグリムレインと私も後に続き入っていく。
次の日にグリムレインに染めて貰った着物に袖を通してルーファスに見てもらうと、着物全体にグリムレインの魔法が染みついた物になっているらしい。
着物を着ている時は氷属性の魔法との相性が上がる仕様らしい。
元々、グリムレインと主従契約しているから氷属性の魔法との相性はあるほうなんだけど、冬の寒さも着物でコントロールできるようになるらしい。
私の着物はこうしてリニューアルされたのである。
「グリムレイン、寒いよぉぉ!!」
「我には丁度いいが? むしろもっと冷たい気温の方が心地いいな」
あー、駄目だ。氷竜の好む気温なんて私には無理だ。お付き合い出来ない……。
ブルブル小刻みに震えながら、グリムレインに背負わせていた葛籠を下ろしてもらい、葛籠から今まで私がルーファスにプレゼントされていた白い女将の着物を取り出していく。
この着物は私が【刻狼亭】の女将という証だった白色の着物。
でも、もう私の立ち位置は息子嫁のキリンちゃんに譲り渡したので、今は白地に近い淡い色の着物が多い。
そして、この白い着物も袖を通さないのは勿体ないので、こうしてグリムレインと一緒に『染め』にきたのである。
「グリムレイン、染めるのに丁度良さそうな物って、どこにあるの?」
「もう染めるのか? 嫁は感傷に浸ったりはせんのだの」
「んー……、確かに白色は私だけの色って今までは思っていたけど、息子達の代になったんだもの。潔さも肝心だし……それに、まだリューちゃん達に任せられないお客様は私も白い着物を着て対応する事もあるから、全部の白い着物が無くなるわけじゃないしね」
ルーファスも黒い着物から、少し落ち着いた藍色の着物に変わったし、私も手放さないといけない。
感傷に浸らないわけではないけど、私という人間が着物の色で変わるわけじゃないし、今までの私の『女将』としての存在が無くなるわけでもない。
ただ、一言で言い表すなら『寂しい』かもしれない。
私の時代が終わって、新しい時代に切り替わったのが何ともいえず、寂しい……という感じだ。
ふるふると左右に頭を振って、グリムレインを見上げて「染めるぞー!」と声を出す。
グリムレインはそんな私を気遣っているのか、いつも通りなのか、「よし、嫁の為に良い氷を探すか!」と声を出す。
「氷なの? 染める物って言うから、木の実とか花とかだと思ったんだけど」
「ふふーん。嫁の為に我だけしか使えぬ氷魔法を使ってやろうというのだ」
「ふぅん? どんな魔法なの?」
少し勿体ぶるようにグリムレインが私の周りを飛び、「行ってくる」と私を残して飛んで行ってしまった。
ううっ、せめてドーム魔法で温めてから行って欲しい……まぁ、私も魔法は使える様にはなっているから、凍えて死ぬって事は無いけど、相変わらず私はこの世界の病気なんかには弱いので、そこら辺は注意してほしいところなんだけどね。
ちなみにスクルードは冷えてしまうといけないのでルーファスが屋敷の中で面倒を見てくれている。
まだ乳飲み子なので色んな場所へ連れ回すのは、私よりも体が弱いだろうから出来ないんだよね。
搾乳しておいたし、保温魔法を哺乳瓶にかけておいたからルーファスにミルクをあげて貰えば食事も心配ない。
「うーっ、でも寒い! グリムレインまだなのー!」
葛籠の中の着物を腕に巻きながら、足をジタジタと足踏みしていると頭の上からコンコンと小さな氷の欠片落ちてきて、上を見上げれるとグリムレインが一畳分はありそうな氷を持って帰ってきた。
「待たせたの。丁度いい花の氷が見つかったぞ」
「花の氷? ああ、氷の中に花が入ってるんだね」
「うむ。綺麗に入っているのを見つけるのに少し苦労した」
苦労したという割りには早く戻ってきた気がするけど……グリムレインは持って帰ってきた氷と白い着物を合わせながら、池の中に着物と氷を持って入っていく。
「グリムレイン、大丈夫ー? 私手伝う事あるー?」
「いや、いい。嫁はそこで我の働きを見ておくがいい」
「はーい」
それならば、私はおとなしくグリムレインの魔法を見ておこう。
グリムレインが池の中で着物を氷で挟むと、白い着物に氷の中に閉じ込められた花がそのまま移り、池の澄んだ青色に染まる。
グリムレインが着物を池で濯ぐと、青い色は淡い色になる。
「うわぁ。素敵な色だね」
「そうであろう。我の氷色だ」
「他に色はつけられないの?」
「出来るぞ。他にも色々つけていくか」
「うん。折角だから色んな色をつけてみたい」
「よしよし、やるかの」
グリムレインが池の場所を移動して魔法で氷の色を変えて、着物の色を変えては氷に閉じ込めてある草花を移して、最後の仕上げに乾燥魔法でパリッと乾かして葛籠に戻していく。
グリムレインが葛籠を背中に背負って、私の移動魔法で屋敷の前に帰ると、屋敷の庭ではルーファスがスクルードを抱っこして歩いていた。
「アカリ、おかえり」
「ただいま。ルーファスどうしたの? スーちゃん寝付かない?」
「少しばかりアカリが居ないと泣くのでな……庭で気晴らしをさせていた」
「あらら。スーちゃん、母上が帰りましたよ。ん、泣いてないから、ルーファス頑張ったんですね」
「スーの代わりに、オレが泣きそうだったよ」
ルーファスが少し情けない声になりながら、スクルードを私に渡してきて、グリムレインから着物の入った葛籠を受け取り、「茶でも淹れよう。グリムレイン、美味い菓子があるぞ」と言って、屋敷の中に入りグリムレインと私も後に続き入っていく。
次の日にグリムレインに染めて貰った着物に袖を通してルーファスに見てもらうと、着物全体にグリムレインの魔法が染みついた物になっているらしい。
着物を着ている時は氷属性の魔法との相性が上がる仕様らしい。
元々、グリムレインと主従契約しているから氷属性の魔法との相性はあるほうなんだけど、冬の寒さも着物でコントロールできるようになるらしい。
私の着物はこうしてリニューアルされたのである。
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