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23章
異世界人
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アルバムの入った段ボール箱はハガネが持ってくれて、寒いのもあって神社の社の中へ入ると、大人スクルードが好き勝手に社の中を改造したらしく、ソファーベッドに、テーブルやもふっとした大きなクッションが置いてあって、ハガネが「罰当たりなことすんなよなー」と呆れた声を出した。
「親の顔が知りたいねって、まぁ目の前に居るけど」
「ったく、小せぇ時は素直で可愛いのに、どうしてこうなってんだか……」
「俺の教育係はハガネだから、半分はハガネのせい」
「あー? 俺はリュー達も教育したんだぞ? お前だけ、どーしてこうなった!」
二人がコントのような感じで話しつつも、マグカップにほうじ茶を淹れてくれて、小さなスクルードにはホットココアにマシュマロが乗ったものを出してくれた。
「さてと、何を話してたんだっけ?」
「お前の目的だ。異世界を渡り歩いたり、時間移動をしたり……オレは自分の子供にそんな危険な真似をしろと言うとは思えん……余程の理由があるのだろう?」
「んーっ、父上達に協力してもらうつもりはあんまり無いから、サラッと聞き流しといてよ」
大人スクルードはマグカップを両手で持って、ふぅーと息で冷ましながらほうじ茶をすすり、私は小さなスクルードのマグカップのココアを息でふぅふぅと冷ましながら、温度をみつつ飲ませていた。
「俺は今、この大陸の来てる異世界人を、異世界に送り返そうとしてここに居るんだよ」
「この土地にか? 入国は厳しくしているつもりだが……なにか不備があったのか……」
ルーファスが顎に指を置いて考えこむと、大人のスクルードは「そういうんじゃないよ」と首を振る。
「異世界を渡る時や、召喚で大陸から大陸へ移動する時に、この世界と異世界の結界みたいなモノを通るんだよね。一瞬だから気付く人はあんまり無いんだけどさ、その時に結界の一部が付いて、それが【特殊能力】の付与に繋がっちゃうんだ。母上の【聖域】やアリスさんの【聖女】がそれだね。今、この時代に来てる異世界人に付与された特殊能力が【透明化】なんだよ」
「そりゃまた珍しい特殊能力だな」
「アルビーがたまに透明化を使っているが……似たようなものか?」
「アルビーのは光の屈折を利用してるだけ。異世界人のは完全な透明化だから少しちがうかな?」
異世界とこの世界に結界が在るとは驚きの事実だけど、『特殊能力』がどうして異世界人についてしまうのかという長年の疑問はこれで解けたかもしれない。
しかし、透明化できるという事は、入国証明等も要らないということだろう。
「最近この大陸でスリとか物が無くなるとかって、事件が頻発してるでしょ? それもそいつの仕業」
「ああ、そういえばお店の人が気を付けてねって言ってた。私、てっきり……大人のスーちゃんの仕業かと思ってた……」
「えぇっ!? 母上それは酷いよ!」
「だって、私にぶつかって、その後お財布落ちてるよって言うし、屋敷に入り込んでたし……もしかしてって、思っちゃったんだもの……ごめんね?」
大人のスクルードに謝りながら、私は内心ホッとしていた。
人にぶつかってお財布を掏るのは、スリのやり口だと思ってたし、お財布の中身ってロックヘルに繋がっている上に、初代の【刻狼亭】から星降り祭りの度にお金が振り込まれているから、中身が持っていかれても、どのくらい減ったのか増えたのかも分からないのが難点なのもある。
でも、うちの子が泥棒じゃなくて良かったー!! これ大事! うちの子が悪い子に育ってたらと思うと、気が気じゃなかった!!
「まったく、母上は……あの時、お財布盗られそうになってたの助けてあげたのに……」
「そうだったの?」
「馬車を暴走させて、騒ぎにみんなが夢中になっている間に、お財布を抜き取ったみたいでね。母上も被害に遭うところだったんだよ? まぁ、母上やこの世界の人達のお財布って、ロックヘルに登録されてるから、本人以外取り出せなかったりするのを知らないみたいで、手当たり次第に盗んでるみたいだけどね」
そういえば、使う分だけお財布から出せる仕組みなのと、本人以外は取り出せなかったりするんだっけ……。
「えっと、助けてくれてありがとうね」
「うん。感謝してよ? まぁでも、母上が財布を盗まれたからこそ、異世界人と接触があるって分かって、見張ってたから、匂いを覚えられたし、あとは鼻で追えるから助かったよ」
「私のドジもたまには役に立つのね。ふふふっ」
「「アカリ、笑いごとじゃない!!」」
ルーファスとハガネが同時に同じことを言って怒り、私としては子供が怒られたみたいな感じでしゅんとしてしまう。
「でも、どうしてその異世界人は悪さばかりするんだろう? 普通は助けを求めたりするんじゃないかな?」
「それは、異世界ファンタジーっていうのが、異世界の本とかで流行ってて、そいつは異世界に来たかったみたいだからね。特殊能力が能力だから……今のうちに、送り返さないと被害が大きくなる」
「被害? 盗んだりするよりも、もっと酷いことって?」
ここは温泉大陸だから温泉の覗き……とかだろうか? うーん。それはそれで気持ち悪い犯罪者だ。
少し大人のスクルードが言いにくそうにして、私の両耳を塞ぐ。
なにこれ? 聞こえないんですけど???
なにかを喋っていて、ルーファスとハガネが凄く怒った顔をした。なにを言っているのだろう?
ようやく手を離してもらえると、大人のスクルードは小さく溜め息を吐く。
「あとは、エスカレートして、暗殺者になるんだよ。ここは貴族や高ランクの冒険者も多いし、姿が見えなきゃ暗殺し放題だからね。だから、そうなる前に俺はその異世界人を異世界に戻す」
「成程な……それなら、俺や大旦那がお前を時間移動させたのも、納得がいく」
「オレの大陸でそんな好き勝手されてたまるか! オレも手を貸そう」
話が少し見えないけど、異世界人が暗殺者になって、この大陸で人殺しが起きてしまうのは絶対ダメ。
ハガネとルーファスが身を乗り出したけど、大人スクルードは首を横に振る。
「だから、俺は父上達に協力してもらうつもりはないからサラッと流してって言ったでしょ?」
「しかしだな、知ってしまった以上は放置には出来ん」
「あーもう、父上はー……今、そいつにこの大陸から逃げられるわけにはいかないんだよ。下手に動いて勘付かれて逃げられたら、面倒くさい! わかったらチビッこい俺と母上と居てよ」
「しかし……」
「もう! じゃあ、ハガネを借りる! それでいいでしょ? 異世界人に関われば関わるだけ歴史がこじれるから、なるべく派手に動かないで!」
「……わかった。何かあれば、連絡しろ」
自分の腰に手を当てて大人のスクルードが「さぁ、もう話はお終い! ハガネを置いて帰って、帰って!」と、私とルーファスとチビッ子スクルードを追いだし、アルバムの入った段ボール箱をルーファスに持たせると手をヒラヒラさせる。
「ルーファス、帰りましょうか?」
「そうだな……スーを信じて、ハガネから後で話を聞けばいいか……ハァ……スーに面倒ごとを押し付けてしまったようで、何とも言えないな」
「うー?」
キョトンとしてルーファスを見上げるスクルードに、ほんの少しルーファスが申し訳なさそうな顔をする。
そして私は耳を塞がれた間の話が何なのか問いただしてみる。
「さっきの私が聞いたらいけない話だったの?」
「あまり、いい話ではないからな……」
「気になるのだけど……簡単に説明とかは……?」
「そいつは、子供が性的に好きらしい……といえば、わかるか?」
「なっ! やだ、気持ち悪い人だね」
「ああ、だからこの大陸の子供達が被害を受ける前に、スーが送り返す」
「子供の安全を守る為にも、大人が子供を守ってあげないとね」
「アカリも気を付けろ。無理だけはするな」
「はい。なるべく、ルビスちゃんから目を離さない様にしなきゃね」
うちで小さな女の子はルビスちゃんだし、シャルちゃんは小さすぎるから、赤ちゃんを襲う人は居ないだろうけど、ちゃんと気を付けてあげなきゃ。
「当分は、屋敷の中でも気を付けないとな。相手は見えないのだから」
「そうだね」
私はスクルードの手をしっかり握りしめて、守らなきゃと思いつつも、大人のスクルードは大丈夫かと少し気になっていた。
「親の顔が知りたいねって、まぁ目の前に居るけど」
「ったく、小せぇ時は素直で可愛いのに、どうしてこうなってんだか……」
「俺の教育係はハガネだから、半分はハガネのせい」
「あー? 俺はリュー達も教育したんだぞ? お前だけ、どーしてこうなった!」
二人がコントのような感じで話しつつも、マグカップにほうじ茶を淹れてくれて、小さなスクルードにはホットココアにマシュマロが乗ったものを出してくれた。
「さてと、何を話してたんだっけ?」
「お前の目的だ。異世界を渡り歩いたり、時間移動をしたり……オレは自分の子供にそんな危険な真似をしろと言うとは思えん……余程の理由があるのだろう?」
「んーっ、父上達に協力してもらうつもりはあんまり無いから、サラッと聞き流しといてよ」
大人スクルードはマグカップを両手で持って、ふぅーと息で冷ましながらほうじ茶をすすり、私は小さなスクルードのマグカップのココアを息でふぅふぅと冷ましながら、温度をみつつ飲ませていた。
「俺は今、この大陸の来てる異世界人を、異世界に送り返そうとしてここに居るんだよ」
「この土地にか? 入国は厳しくしているつもりだが……なにか不備があったのか……」
ルーファスが顎に指を置いて考えこむと、大人のスクルードは「そういうんじゃないよ」と首を振る。
「異世界を渡る時や、召喚で大陸から大陸へ移動する時に、この世界と異世界の結界みたいなモノを通るんだよね。一瞬だから気付く人はあんまり無いんだけどさ、その時に結界の一部が付いて、それが【特殊能力】の付与に繋がっちゃうんだ。母上の【聖域】やアリスさんの【聖女】がそれだね。今、この時代に来てる異世界人に付与された特殊能力が【透明化】なんだよ」
「そりゃまた珍しい特殊能力だな」
「アルビーがたまに透明化を使っているが……似たようなものか?」
「アルビーのは光の屈折を利用してるだけ。異世界人のは完全な透明化だから少しちがうかな?」
異世界とこの世界に結界が在るとは驚きの事実だけど、『特殊能力』がどうして異世界人についてしまうのかという長年の疑問はこれで解けたかもしれない。
しかし、透明化できるという事は、入国証明等も要らないということだろう。
「最近この大陸でスリとか物が無くなるとかって、事件が頻発してるでしょ? それもそいつの仕業」
「ああ、そういえばお店の人が気を付けてねって言ってた。私、てっきり……大人のスーちゃんの仕業かと思ってた……」
「えぇっ!? 母上それは酷いよ!」
「だって、私にぶつかって、その後お財布落ちてるよって言うし、屋敷に入り込んでたし……もしかしてって、思っちゃったんだもの……ごめんね?」
大人のスクルードに謝りながら、私は内心ホッとしていた。
人にぶつかってお財布を掏るのは、スリのやり口だと思ってたし、お財布の中身ってロックヘルに繋がっている上に、初代の【刻狼亭】から星降り祭りの度にお金が振り込まれているから、中身が持っていかれても、どのくらい減ったのか増えたのかも分からないのが難点なのもある。
でも、うちの子が泥棒じゃなくて良かったー!! これ大事! うちの子が悪い子に育ってたらと思うと、気が気じゃなかった!!
「まったく、母上は……あの時、お財布盗られそうになってたの助けてあげたのに……」
「そうだったの?」
「馬車を暴走させて、騒ぎにみんなが夢中になっている間に、お財布を抜き取ったみたいでね。母上も被害に遭うところだったんだよ? まぁ、母上やこの世界の人達のお財布って、ロックヘルに登録されてるから、本人以外取り出せなかったりするのを知らないみたいで、手当たり次第に盗んでるみたいだけどね」
そういえば、使う分だけお財布から出せる仕組みなのと、本人以外は取り出せなかったりするんだっけ……。
「えっと、助けてくれてありがとうね」
「うん。感謝してよ? まぁでも、母上が財布を盗まれたからこそ、異世界人と接触があるって分かって、見張ってたから、匂いを覚えられたし、あとは鼻で追えるから助かったよ」
「私のドジもたまには役に立つのね。ふふふっ」
「「アカリ、笑いごとじゃない!!」」
ルーファスとハガネが同時に同じことを言って怒り、私としては子供が怒られたみたいな感じでしゅんとしてしまう。
「でも、どうしてその異世界人は悪さばかりするんだろう? 普通は助けを求めたりするんじゃないかな?」
「それは、異世界ファンタジーっていうのが、異世界の本とかで流行ってて、そいつは異世界に来たかったみたいだからね。特殊能力が能力だから……今のうちに、送り返さないと被害が大きくなる」
「被害? 盗んだりするよりも、もっと酷いことって?」
ここは温泉大陸だから温泉の覗き……とかだろうか? うーん。それはそれで気持ち悪い犯罪者だ。
少し大人のスクルードが言いにくそうにして、私の両耳を塞ぐ。
なにこれ? 聞こえないんですけど???
なにかを喋っていて、ルーファスとハガネが凄く怒った顔をした。なにを言っているのだろう?
ようやく手を離してもらえると、大人のスクルードは小さく溜め息を吐く。
「あとは、エスカレートして、暗殺者になるんだよ。ここは貴族や高ランクの冒険者も多いし、姿が見えなきゃ暗殺し放題だからね。だから、そうなる前に俺はその異世界人を異世界に戻す」
「成程な……それなら、俺や大旦那がお前を時間移動させたのも、納得がいく」
「オレの大陸でそんな好き勝手されてたまるか! オレも手を貸そう」
話が少し見えないけど、異世界人が暗殺者になって、この大陸で人殺しが起きてしまうのは絶対ダメ。
ハガネとルーファスが身を乗り出したけど、大人スクルードは首を横に振る。
「だから、俺は父上達に協力してもらうつもりはないからサラッと流してって言ったでしょ?」
「しかしだな、知ってしまった以上は放置には出来ん」
「あーもう、父上はー……今、そいつにこの大陸から逃げられるわけにはいかないんだよ。下手に動いて勘付かれて逃げられたら、面倒くさい! わかったらチビッこい俺と母上と居てよ」
「しかし……」
「もう! じゃあ、ハガネを借りる! それでいいでしょ? 異世界人に関われば関わるだけ歴史がこじれるから、なるべく派手に動かないで!」
「……わかった。何かあれば、連絡しろ」
自分の腰に手を当てて大人のスクルードが「さぁ、もう話はお終い! ハガネを置いて帰って、帰って!」と、私とルーファスとチビッ子スクルードを追いだし、アルバムの入った段ボール箱をルーファスに持たせると手をヒラヒラさせる。
「ルーファス、帰りましょうか?」
「そうだな……スーを信じて、ハガネから後で話を聞けばいいか……ハァ……スーに面倒ごとを押し付けてしまったようで、何とも言えないな」
「うー?」
キョトンとしてルーファスを見上げるスクルードに、ほんの少しルーファスが申し訳なさそうな顔をする。
そして私は耳を塞がれた間の話が何なのか問いただしてみる。
「さっきの私が聞いたらいけない話だったの?」
「あまり、いい話ではないからな……」
「気になるのだけど……簡単に説明とかは……?」
「そいつは、子供が性的に好きらしい……といえば、わかるか?」
「なっ! やだ、気持ち悪い人だね」
「ああ、だからこの大陸の子供達が被害を受ける前に、スーが送り返す」
「子供の安全を守る為にも、大人が子供を守ってあげないとね」
「アカリも気を付けろ。無理だけはするな」
「はい。なるべく、ルビスちゃんから目を離さない様にしなきゃね」
うちで小さな女の子はルビスちゃんだし、シャルちゃんは小さすぎるから、赤ちゃんを襲う人は居ないだろうけど、ちゃんと気を付けてあげなきゃ。
「当分は、屋敷の中でも気を付けないとな。相手は見えないのだから」
「そうだね」
私はスクルードの手をしっかり握りしめて、守らなきゃと思いつつも、大人のスクルードは大丈夫かと少し気になっていた。
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