黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
778 / 960
24章

刻狼亭と風雷商とグリスニャタール貿易

しおりを挟む
 事務所の奥から怒号が聞こえ、一瞬ソファからピョンッと小さく飛び上がってしまったが、今のはルーファスの怒りの声なのは確かで、次にリュエールの怒号に唸り混じりの喧嘩腰な声が聞こえる。

「うへぇー……大旦那もリューもおっかねぇな」

 用意された山芋を生地にして作られた餡子入りのお饅頭を食べながらハガネが小さな耳をピクピク動かしている。
他の事務員さんは一瞬、手が止まったものの、直ぐに平常通りという感じで手を動かしている。
流石、テンの部下達なだけはある。

「うー? ちちうーガウガウー!」
「うん、父上もリューちゃんもガウガウだねぇ」

 私の隣りで折り紙……の残骸と化した紙をクシャクシャにして遊んでいたスクルードも目をパチパチさせて、今の怒号に驚いていたが、怯えたりはしないので案外、根性逞しい子かもしれない。

『ふざけるなッ! 貴様、何様目線で物を言っている!』
『自分の息子すら管理出来ない者が、うちと提携? ハッ、おこがましいにも程がある!』 

 ルーファスとリュエールの声がまた聞こえ、揉めているなぁという感じである。
話の内容からして、グリスニャタール貿易の会長さんがなにか失言でもして、うちの二人を怒らせてしまったのだろう。

「あー、もうこりゃ駄目だな。【風雷商】も手を引くみてぇだし」
「内容はどうなってるの?」

 私には大きな怒号の時の声だけは聞き取れるけど、他は揉めてるなーって、だけで内容までは聞こえないが、獣人のハガネには内容は聞こえているようだ。
と、言っても魔法通信の部屋は防音はされていて、ハガネはむじななので地面などの振動で声を拾って魔法でそれを聞きやすくしている。
なんというか、ハガネのこういう特殊な魔法は悪い匂いの感じではあるけど、身内なので敵じゃなくて良かったって感じかな?

「まぁ簡単に要約すると、今回の詫びに温泉大陸との貿易をするから、それで許してくれってことをグリスニャタール貿易の会長が申し出た。それを大旦那とリューが蹴った。んで、【風雷商】は今回の詫びに、グリスニャタール貿易とは今後一切、交渉をしない。縁を切って、今まで【刻狼亭】から委託されていた販売物の取り分を今後、五年間は無利益で委託販売するっつー話をしてるな」
「おおー、風雷商さん太っ腹~」
「いや、そうでもねぇーだろ? どっちかっつーと、【刻狼亭】に縁切りされたら、痛手でマイナスイメージが付くから、もう少し色を付けるぐれぇしねぇと、こっちが割に合わねぇ」
「そういうもの?」
「商売つーのは、そういうもんだ」

 ふむ? 私としては【風雷商】さんには色々と暇さえあれば新しい製品を作って貰って、試行錯誤で色々と『女将亭』の商品を増やしているので今後ともいいお付き合いで行きたいものだ。
ついでに『女将亭』の商品開発にかかる料金をお安くしていただけると、凄く有り難い。
実は、『女将亭』の商品開発は、『女将亭』の売り上げでやっているので【刻狼亭】とのお会計は別々だったりするのだ。
キリンちゃんの為にも、今後のレーネルくんのお嫁さんに受け継がれた後の為にもお安くしてほしい。

「まぁ、バカ息子の詫びが、なんで温泉大陸との貿易をしてやることでチャラになるなんて思うのか、俺にゃー理解出来ねぇな。たかだか一介の貿易商が、本当に何様だっつーの」
「グニャニャスタール貿易って大きいところなのかな?」
「グリスニャタール貿易な。大きさは【風雷商】よりねぇが、そこそこだな」

 やはり言いづらいグリスニャタール貿易!!
もっと短くて言いやすい名前に改名することを希望します!

「そこそこ?」
「北国周りの貿易を一手に引き受けてるとこだな」
「あー、北国は大きいよねぇ。ならそこそこ大きいのでは?」
「んー、だから、そこそこでけぇ……が、北国との貿易なら既に酒関係で大旦那が去年のミシリマーフ国の氷祭りからやってっし、グリムレイン経由でも北国からの品は入って来てるからな。温泉大陸には喉から手が出るほど欲しいって、貿易じゃねぇーな」

 ああ、そういえば去年の氷祭りでルーファスが樽酒のお店をやって流通を確保したんだっけ?
グリムレインが毎年、氷リンゴのお酒とかチョコをお土産に持って帰ってきたりするから、いつの間にか事前に北国から『今年の新作です』って、贈呈されるようになってしまって……毎年美味しく頂いているのである。

『たかが? たかが見習いだと!? 貴様、うちを何処だと思っている!?』
『聞き捨てならないな! 潰される覚悟での発言と取っておこうか!』

 再びの怒声に、「ひゃっ!」と私は小さく声を上げて、飛び跳ねる。
ハガネは「ヒュー」と口笛を吹いて、スクルードは「ガウガウ―!」と楽しそうだ。
そして事務員達は通常通りだ。

 バンッと奥の部屋のドアが壊れそうな勢いで開いて、ルーファスとリュエールが怒り心頭という顔で出てきた。
後に続くテンは、グリスニャタール貿易の息子さんを引きずって出てきて、『テン』の小鬼が嬉しそうにテンに駆け寄っていく。
 流石に小鬼にも三社会議は聞かせられないので、事務所で書類仕事をしながらテンを待っていた小鬼だったりする。

「テンさん、どうなりましたか?」
「ん~っ、小鬼にお仕事ですよ~。【刻狼亭】と【風雷商】はグリスニャタール貿易関係の者と縁切りをしますので~、関わっている職や人等調べ上げて、『グリスニャタール貿易との縁を切らない限り、【刻狼亭】と【風雷商】は出入り不可、貿易等も不可』と情報を流してください~」
「はいです! 久々に情報がいっぱい動きますね! 『温泉』の小鬼やりますよ!」
「了解です。『テン』の小鬼は足を引っ張らないで下さいね?」
「ムキィ~!」

 小鬼達がキィキィ騒ぎながら、真っ白な紙の上に立ち、左右の端からペンでグリスニャタール貿易の関わっている商売人等の店名と人物名に家族等を書き記していく。
左右に別れて別々の作業をしているのに、同じ店名や名前が被らないのは流石という感じである。

「ルーファス、リューちゃん、お疲れ様。喉乾いたでしょ? お茶淹れてきますね」
「ああ、頼む」
「うん、お願い。流石に怒鳴り過ぎたー……ったく、ああいうバカは虫唾むしずが走るよ」

 二人が疲れた顔で溜め息を吐くので、相当お疲れのようだ。
給湯室でお茶を淹れて直ぐに飲めるように、ぬるめに温度を調節してから二人に差し出すと、二人は一気に煽るように飲み干した。

「はぁ……少し、納まった。テン、悪いがソイツを捨てて来てくれ。目に入る範囲に居ると噛み殺しそうだ」
「はぁ~い。解りました~」

 ぐぇぇっと声をグリスニャタール貿易の息子があげながら、テンに引きずられて事務所から出て行った。
ルーファスに「大丈夫?」と聞くと、「ああ」と短く答えられてギュッと腰に手を回される。
頭の上に顎を乗せられて、「精神疲労は、アカリで治すに限る」と暫く抱きつかれたままで、スクルードが「スーの!」と私の足にしがみ付くまで続いた。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。