黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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25章

おヨメさまと熱

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 ベッドの上でルーファスを背もたれに、ルーファスの読む新聞に目を通す。
五つの塔の話題で新聞は持ち切り状態のようで、ベネティクタ都市発行の新聞らしいともいえる。

 水の塔の被害者は、グリン・エレクトロという魔法使い。
意識不明となっているが、土の塔の情報では意識は大分回復してきたらしい。
元々、仲の悪い塔の人間関係が、少しの言い合いで拗れて今回の騒動になったという___。

 火の塔、土の塔、風の塔、雷の塔、水の塔、はそれぞれ大隊長という、それぞれの属性の人間で自分達の利益と成りやすそうな者をスカウトする為に1年間程、ベネティクタ都市から離れて旅をするらしい。
そして、今回、その大隊長が集まる集会のようなものが開かれる。
その準備で塔の関係者はピリピリしているところに、今回の事件が起きたことで、新聞は面白おかしく伝えている。

「レベンさんは大隊長だったから、私達と同じ汽車だったんだね」
「オレを勧誘しようとしていた風使いも大隊長なのだろうな」

 そういえば、そんな人も居た。
子猫のじゃれ合い程度の魔法使い達しかいないと、ルーファスが旅行の前に言っていたけど、子猫程度だからこそ、外の世界にスカウトに行く大隊長達がいるというのも、なんだか自分達の都市だけでなんとかすれば良いのにと思わなくもない。
ルーファスが子猫程度というなら、温泉大陸の住民達は虎かなにかだろうか?

「んー……アカリ、少し熱があるな」
「コート無しで歩き回ってたのと、疲れて筋肉が発熱してるのかも?」

 私のおでこに後ろから手を当てて、ルーファスが「ふむ」と心配そうな声をあげる。
そんなに心配しなくてもヒドラのクリスタルで風邪とか引かないし、昨日無理し過ぎただけの発熱なのだけどね。

「フロントで氷枕で貰ってこよう」
「そこまでしなくても、大丈夫だよ?」
「アカリは体が弱いのだから、大丈夫とは思えん」
「もぅ、ヒドラのクリスタルで丈夫になったよ。そんなに心配なら、喉に良さそうな蜂蜜のお茶が欲しいかな?」
「わかった。蜂蜜をフロントに無いか聞いてくる」

 ベッドからするりと出て行くとルーファスは部屋を出て行く。
心配しすぎ……と、言っても私が長い間、虚弱だったのもあるから心配するのはデフォになっているのかもしれない。

「うぐっ……筋肉痛がぁ~……」

 ベッドから下りて、ルーファスにソファに追いやられた私のルーファスポプリのお人形を手に取って、再びベッドに戻る。
ちなみにアカリポプリのお人形は「襲いたくなるから、スーに土産にしよう」と早々に仕舞い込まれてしまった。
襲うって……お人形を? でも、犬とかってお人形の目玉ブチ―ッてかじり取ったりするの好きだよね。
ベッドに戻ってお人形を枕に横になっていると、少しウトウトして頭の上に冷たい手が置かれる。

「あ……、グリムレイン。えへへ、冷たくて、気持ちいね」

 少しだけ、楽し気なグリムレインの顔にへらっと笑い返すと、グリムレインがおでこにキスをして熱がおでこから引いていく。

「もぉー、ルーファス以外は駄目なんだから、でも、ありがとう。グリムレイン」

 フッとグリムレインが笑って、すぅと消えて行った。
あれ? どこに行くんだろう? そう思いながらも、ウトウトとした眠気に負けて、微睡まどろみながら寝ていると、再びおでこに手が当てられる。

「ん? 熱が下がっているな」

 目を開けるとルーファスが目を細めて「起きれるか? ホットレモネードを作ってきた」と白いカップを見せてくれる。
起き上がると、筋肉痛で熱を持っていた足も熱が引いて、体の芯の方に鈍い痛みが残っているだけのようだ。
ルーファスから白いカップに入った黄色いレモネードを受け取る。
レモーネの柑橘系の香りが鼻をくすぐる。
 一口飲むと、酸っぱくて皮の苦みもある、でも蜂蜜たっぷりなのか甘さが凄い喉にくる……味のバランスが凄いなぁ。
あれ? ルーファス、作ってきたって言った? 

「味はどうだ?」
「ふふっ、凄く美味しい」
「そうか。良かった」

 嬉しそうに尻尾を振るルーファスに、「私の為に、ありがとう」と言うと「今日はアカリの世話をすると約束したからな」と頬にキスをくれた。
ああ、うちの旦那様が優しい。

「それと、先触れが届いていた」
「どこから?」
「風の塔、雷の塔、土の塔、水の塔、火の塔、全部だな」
「あらまぁ……人気者。でも全部は無理だし、火の塔は無視していいかな?」
「そうだな。どうせ火の塔の一番上が謝罪したいだけだろうしな」
「きっと、リューちゃんにチクチクやられて、ストレスで頭が大変なことになってるんだよ。可哀想に……」

 でも、仲良くみんなでつるんつるんな頭になってしまえ~。
私達の旅行を邪魔した罪は重い!

「アカリは熱が引いたようだが、オレ一人で対応しもいいが、どうする?」
「一緒に出迎えるよ。歩けるかは分からないから、抱き上げてくれたら嬉しいけど」
「歩かせるわけ無いだろう? 一応、この宿の応接間を使わせてもらうことにしている。アカリは温かくしておかないとな」

 ホットレモネードを一気に飲み干して、少しむせながら、ルーファスにベッドに服を出してもらって着替えると、ルーファスが初めて見る女物のコートを出してきた。

「それは?」
「アカリがさっき寝ている間に買ってきた」
「私、そんなに寝てた?」
「一時間くらいなものだ」

 少しウトウトしていただけなんだけど、結構時間が経っていたみたいだ。
新しいコートは、黒い色でノーカラーコートで黒いレースとバックリボンに青い刺繍でドラゴンが描かれていた。

「可愛いね。ありがとう」
「アカリに似合いそうだと思ってな」
「でも、ドラゴンの刺繍なんて珍しいね」
「そんな刺繍あったか?」

 ルーファスに刺繍を見せようとコートを持ち上げると、刺繍は消えていた。
あれ? 見間違い?

「見間違いみたい……青いドラゴンの刺繍を見た気がしたんだけど……」
「まだ熱があるんじゃないのか? 大丈夫か?」

 ピトッとおでこに手を当てられて、「ふむ。熱はないな」とルーファスに心配されつつ服を着替えて、コートを羽織ったのだった。
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