黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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25章

おヨメさまと白い蝶

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 体中が温かい……を通り越して、熱い! と、なって目を開けると獣化したルーファスのお腹に抱き込まれるようにして上から布団まで掛けられていたらしい。
布団を手で払おうとして、自分の手が白い狼の手のままだと気付く。

 とりあえず、熱いから出ようと起き上がると、胃の中の気持ち悪さに再び力が抜ける。
うーん……ぐるぐるして気持ち悪い。「ヒューン……」出た泣き言は動物口調のままだった。

「どうしたアカリ? 起きたのか?」

 ルーファスが私の顔をペロペロ舐めて、なんだか毛づくろいってこういう感じ? と、思いつつ「キューン」と声を出してルーファスに頭を擦りつける。

「まだ陽が明けるには早いな。もう少し寝ておいた方が良い」

 布団を口に咥えてブンブン振ると、「寒くは無いか?」と言われてコクコク上下に頭を動かす。
ルーファスが小さく尻尾を振って私の首筋に顔を摺り寄せて、鼻と鼻をつんとくっつける。
こうした行動は子供達とばかりルーファスはしていた気がするけど、私が狼だから狼風に挨拶してくれるのが少し嬉しい。

 あ、そういえば、リュエールとハガネはどうしたんだろう? 首を傾げると、ルーファスが私の首を甘噛みしながら自分に引き寄せてベッドに横になる。
ルーファスの体にぴっとりとくっついて横になると、ルーファスの匂いが凄く感じ取れる。
 今のわたしの鼻でポプリを作ったら、もっとルーファスに近い香りが作れるかもしれない。

「リューは屋敷に戻った。ハガネはソファの上で寝ている」

 見れば、ソファの上で足が収まりきらずに出して寝ているハガネがいる。ハガネは大きいから仕方がない。

「スーはミルアやキリン達が面倒を見てくれているから、心配はない」

 コクコクと頷いて、ハガネがここに居るのだからスクルードの面倒を見る人は必然的にそうなるよねぇと、キリンちゃん達にお土産を追加しなきゃと思う。

「アカリをシルビアに診せたんだが、よく分からないそうだ。獣人の医師か獣医に頼る方が良いかもしれないと言われた。明日、リューが獣人の医師を探してきてくれる。それまで少し耐えてくれ」
「クフゥーン……」

 まぁ、シルビアさんはお医者さんだけど、狼の私では診察外だものね。
気にしないでいてくれればいいけど、温泉大陸に戻ったら、シルビアさんが獣医の勉強もしそうで怖い。
なんだかお腹が空き過ぎて胃が気持ち悪くなっている感じにも似ているけど、食べたいわけじゃないし……悪阻つわりは、昨日の今日では早すぎだろうし、うーん。
目がぐるぐるする。

「大丈夫か? 獣人なのにアカリの言葉一つ、わかってやれなくてすまない」
「キュー……」

 私も、今まで獣人の耳や鼻がどう感じ取れているのか、妊娠中に少し体験はしても、ここまでハッキリと聞き分けたり嗅ぎ分けたりは出来なかったし、体の構造も色々違うんだなって初めて知ったよ。
だから、気にしないでね? そう想いを込めて頭を擦り付けて、私は再び気分の悪さに眠りに落ちていった。


 フワッと香る香りにまた目を覚ますと、部屋の中に陽が入り込み夜が明けたことを知る。
部屋に白い花が舞っていた。白い花……ガバッと起きると、部屋に白い蝶がヒラヒラ飛んでいた。

 ルーファスを足でグイグイ押して起こし、ルーファスが目を覚ますとベッドから下りてハガネをソファから引きずり下ろして起こす。

「んあ? ってぇ~……っと、こりゃまたすげぇ花の量だな」
「ハガネ、蝶は居るか?」
「……居た! こいつか!」

 ハガネが蝶を目で追い、話し掛け始める。

わりぃんだけどよ。アカリを元に戻してほしい。……はぁ? 随分とふりぃ言葉だな……」
「ハガネ、その精霊はなんと言っているんだ?」
「あー、ちょい待ち。こいつの言葉が古すぎて、噛み砕くのに俺の頭が追い付かねぇ」
 
 古風な言葉遣いの蝶なのだろうか?
首を傾げると、ルーファスに鼻と鼻でつんつんと突かれる。
ルーファスの方が獣化な分体が大きいけど、私に合わせて獣化のままでいてくれるのは嬉しい。
ルーファスの顔を舐めると、舐め返されて耳をグイグイと擦り付けられる。
耳の裏の匂いがなんだか、濃いルーファスの匂いな気がして、私も自分の耳をルーファスに擦りつける。
うーん。とっても獣人気分……というか、動物気分。

「アカリ、お前精霊の古代語を使ったのか?」

 そんなものを使った覚えはない。首を傾げると、ルーファスがひらがな表を口に咥えて持ってきて私の前に置く。

『つかってない』

「コイツが言うには、古代語を使ったから女神が気に入って願いを叶えた……っつー話なんだけどよ」

 古代語? 女神とは大聖堂の像オードリーのことだろうか?
だとしたら、古代語とは英語のこと? 英語……そういえば、式の時にAll my love と発言した。
それなら記憶にある……やらかしたのは、私、かな?

 ああでも、願いってなんだろう? 私は願いなんて口にしてないと思う。
狼になりたいなんて言ってない。それに花も断ったのに、なんで今日も花を届けに来たのか?

『ねがい いってない』

 手でひらがな表をペシペシ叩くと、ハガネが蝶と話し始める。
ハガネが頬をポリポリと掻いて私とルーファスを見て、眉を下げる。

「子供を孕めと狼が言い、女は了承した。それを叶えた……つーんだけど。心当たりはあるか?」

 うぎゃぁぁぁ!! 心当たりはあるけど、あの時居たの!?
ルーファスをバッと見ると、「うぐぅ……」と声を出している。

「心当たりは、ある。ドラゴンに『祝福』を貰ったからな。しかし、それで何故、アカリが狼になる必要がある?」

 それです! それを私も聞きたい! 
ハガネが再び蝶と話して、眉間を手で押さえる。

「狼の子なら、女も狼にすれば出産は早いってことらしいんだが、動物の狼の出産はいつからいつだったか……大旦那わかるか?」
「狼だと二ヶ月程だな。まさか、アカリは出産が終わるまでこのままなのか?」

 え? 嘘でしょ? それ凄く困るんですけど!?
あわわと慌てる私に、ハガネが「そうらしい……女神の力が働いた以上は感謝しろっつーありがた迷惑なことを言ってっけど……」と言い、私は再び気が遠くなりそうだった。
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