黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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26章

夏祭り お化け林

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 温泉大陸の夏祭りでは、街いぶら下がっている提灯ちょうちんが縦長になる。
普段は丸い提灯で、色は刻狼亭は黒に白字で、他の店舗は赤にお店の名前があるものになる。
この街には街灯があるので、提灯が必要かと言われたら、それ程でもないのだけれど、店の宣伝みたいな物なのでイベントごとに提灯は付け替えられて、付け替えの間はメンテナンスに出される。
中の魔石や外側を修復したりする感じかな?

「夏祭り中、客や子供が林の立ち入り禁止区域に入って困ってるんですよ」 
「大旦那様なんとか良い知恵はないもんですかね?」

 そんな相談が我が家に寄せられ、ルーファスが「ふむ……」と案を練ろうとしていた。
少し考えてから対策に取り掛かるとルーファスが言い、街の人は帰っていったのだけど、夏祭りまであと半日しかない為に、立ち入り禁止のロープに見回りをするぐらいしかできないと思う。

「はいはーい! 私、少しやりたいことがありまーす!」

 私は元気に手を上げてルーファスにアピールしてみる。
私の考えとしては、立ち入り禁止区域に入ったら怖い目に遭うぞーっと、お客さんや子供達に分からせればいいのではないか? ということ。

「まあ、オレも少し夏祭り会場で話をまとめたりと忙しいから、アカリに任せるか」
「うん! とりあえず、今夜あたりに少し試してくるよ!」
「アカリ……言わなくてもわかっていると思うが、変なことはするなよ?」
「大丈夫! ちょっと脅かすだけだから」

 少しジト目でルーファスに見られたけど、子供のお遊び程度のことしかしないよ? と、簡単に説明をしておいた。
ルーファスが街の会合に出掛け、私はコハルを背中におんぶしながら作業を始める。


 夏祭りの縦長の提灯を見て、私が思った感想は「提灯お化けみたい」というもので、これに切れ目を入れて長い舌とか貼り付けたら肝試しになりそうだな……と、思ってしまったのだ。
そしてついつい……メンテナンス用に持ち帰られた提灯は全て外身を新しくするというので、切れ込みを入れても良いかな? と、提灯お化けの丸バージョンを量産していった。

 【刻狼亭】の提灯は結構あるからね。
立ち入り禁止の林をお化け屋敷にしてしまおうと思ったのだ。
夜だから多少、玩具のような提灯お化けも本物っぽく見えることだろう。

「ふんふんふん♪」

 調子に乗った私は、番傘も張り替えついでにしちゃえばいいんじゃなかなー? と、番傘で「傘お化け」も作ってみた。足の部分はケルチャに木を生足っぽく出来ないかな? と相談して作ってもらった。
リアリティーのある生足に「わぁお! セクシーな生足なんだけど!」と思ってしまったのは内緒だ。
男の人のごっつい足の方が面白そうだったんだけどね。

 ケルチャを巻き込んだことで、他のドラゴン達も「一緒にやるー」と言って、ドラゴン達に紙で「お化けとはこういう感じです!」と、絵を描いて説明する。

「ローランドは火の玉」
「ニクストローブはぬりかべ」
「スピナは生暖かい風」
「アクエレインは傘お化けの近くで雨を降らせてね」
「他は作ったお化けをコッソリ、見つからない場所に隠して、人が来たら脅かしてね」

 指示としてはそんな感じで、コソコソと準備を進め、夏祭り会場の近くの林に私はドラゴン達と一緒にお化けを隠していった。

 勿論、立ち入り禁止のロープは張ってあるので、入り込んだ人だけを脅かすお化け屋敷……屋敷じゃなくて林かな? を準備したのである。

 私は久々に白い着物を着て、まとめていた髪も解いた。
コハルを連れて行くのは危ないと思ったのだけど、コハルが私が傍に居ないと泣くので、これも演出だと思ってコハルを連れて、夜の林に出掛けて行った。

 夏祭りの期間は夜店や出し物が毎日変わるので、夜遅くまで作業をしているから、お客さんや街の子供達はどんな出店や出し物が次の日に用意されているかを、コッソリ林を抜けて見に来るようなのだ。
しかし、ゴミとかを捨てていくらしくてマナーがなっていない。
ついでにいえば、夜遅くに出回るんじゃありませんと、子供達には言いたいところだ。
夏休暇中の子供達は親達が夏祭り準備で忙しい為に、家から抜け出して遊びに行ったりしているらしい。
是非とも、この朱里さん特性お化け林で怖い夜を体験して、夜遊びをしない良い子になるといい。

 林に提灯をセットして、ドラゴン達が楽しそうに木の上に隠れる。

「よーし、みんな頑張ろー!」
「「「おーっ!」」」

 十分くらい林の中で身を潜めていたら、三人程の子供が立ち入り禁止のロープを超えて林に入ってきた。

「荷物運びで貯まったお給金で何買う―?」
「おれ、祭りげんてーのチョコバナナ!」
「おれもおれも!」

 楽しそうな子供達の声に、少し可哀想な気もするけどドラゴン達にゴーサインを出す。
暗闇に薄ぼんやりとローランドの火力を押さえた火の玉と提灯お化けが姿を現し、子供達は首を傾げる。

「あれ、なんだ?」
「ちょうちん……?」
「なんか火が周りにういてるよー!」

『ここは入っちゃ駄目な森だよ? ねぇ、知ってたぁー!』

 知ってた? と言った辺りで、大きな声をだしながら子供達を提灯お化けが追いかけ、子供達は悲鳴を上げて林からロープの外へ出ていく。

「プーッ、アハハハ」
「こら、ローランド笑いすぎだよ~」
「次、アタシもやるー!」

 ドラゴン達が「楽しかったー! 次まだー?」と騒いでいるうちに、またロープを超えて人が来た。
今度は大人のようだ。

「ねぇ? 立ち入り禁止ってあったけど、入って良いの?」
「大丈夫だって、毎年ここ通ってるし。今年の祭りもきっとこの大陸はなにか新しい出し物を出すだろうから、ちゃんと見て盗んでおかないと、他の土地に広まる前に売り出せねぇんだからな」

 ほほう、うちの大陸のアイデア商品を横取りする気とは、片腹痛い。
ドラゴンにゴーサインを出すと、スピナが生暖かい風を吹かせ、次にグリムレインが足元からひんやりとした吐息を吐きかける。

「なに? なんか風が気持ち悪い!」
「足元がゾクゾクするな……ん? なんだこの壁?」

『ここに立ち入ることはゆるさーん!』

 ズモモモモ……と、ニクストローブが作ったぬりかべが通せんぼをして二人の男女の前を立ち塞ぎ、横から提灯お化けが『ケケケケ』と笑い声を上げて二人を追い回す。
二人の男女は悲鳴を上げて逃げて行き、ドラゴン達は「プーッ! あははは」と手を叩いて喜んでいる。

「ふにゃぁぁん」
「あっ、いけない。コハルのおしめ替えなきゃ」
「にゃぁぁん」
「はいはい。待ってねー」

 私がコハルのおしめを替えていると、後ろから悲鳴が上がり誰かがコケながら逃げて行った。
はて? なんだったのやら……?

 その後も何人かを脅し、雨をアクエレインが出して、傘お化けを握りしめた人が悲鳴を上げたりと、すっかり悲鳴の林になったところで私達は撤収した。

「楽しかったねーアカリ」
「そうだねぇ。これで少しは林に人が来なくなると良いんだけどねー」

 まぁ、逆に肝試しに林に入りそうな人もいそうではあるけれど、夏祭りの期間だけどうにかなればいいだけなので、まぁいいかな?


 __翌日。

立ち入り禁止の林に【刻狼亭】の白い女の子の幽霊が現れた。と、騒ぎになっていたらしい。
いやいや、私は脅かそうとしてたけど、タイミングが無くて出ていけなかったんだよ?

 どうも、異臭を放ちながら「待って」とぶつぶつ言っていたらしい。
そして赤ん坊の泣き声もしたとか……
それ、コハルのおしめを替えていた時かな? と、ハハハと乾いた笑い声しかでない。

 他にも提灯から長い舌が伸びて襲い掛かってきたとか、土壁が喋って動いたとか、傘になまめかしい女の足が生えていたとか……効果は上々のようだ。

 ただ、なまめかしい傘の足を忘れられないという人が何日か林で目撃された。
新しい扉を開いてしまったらしい……いやはや、罪作りな傘お化けだ。

 ルーファスには「程々にな」と言われたけど、夏祭りに林に入ろうとする人は少なくなったし、肝試しに来た人も「行くの止めよー」と騒いでいる間に、「ここは立ち入り禁止だぞ!」と声を掛けられて逃げていくので、お化け効果はあったようだ。

 まぁ、夏になる度に、白い着物の女の子の幽霊が林に出ると噂が広まって都市伝説の様なものとして、毎年夏に語られるのは勘弁してほしい話にはなった。
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