黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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26章

お酒癖の悪さに低評があります!

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 私は、反省をした。
海よりも深ーく、反省したのである。
だからといって、海の中で反省したいわけでは無い。

 上を見上げれば、まるで水族館の遊泳を眺められるドームの中に居る気さえしてしまう。
実際、同じようなものだとは思うんだけどね。

「怒られることは、間違いないよねぇ……」

 思い浮かんだルーファスの怒った顔に、「ううぅ……っ」と声が出る。
バターンと床に寝転がり、私は頭を抱える。

 思い起こすのは、こうなってしまった日の夜の出来事である。

 一日の終わりにスクルードとコハルを寝かしつけた後、我が家はシンッと静まり返っていた。
夜遅くまでウエディングドレスを縫っていたミルアもナルアも居ない。
学園から卒業して戻ってきた三つ子のティルナールとルーシーも仕事ですでに家を出てしまって、ティルナールはまずは取材アシスタントのような形で新聞社の先輩について行っているし、ルーシーは魔国の王宮で侍女として働いている為に、やはり家に居ない。
エルシオンは、もうアーバント家の養子だからギルさんの屋敷に住んでしまっている為、不在。

 リュエール家族と今は二世帯状態ではあるけど、リュエール家族は夜ウロウロすることが無く、寝かしつけの本を夫婦で読んでいたりして、家族の時間をとても大事にしている。
キリンちゃん達エルフは基本放置されて育つけれど、リュエールは狼族の血から、家族を守るのも育てるのも自分だという基盤があるので、そこは譲らない為に、夫婦で子供を育てている。
私としても、それが普通なので良い事だと思っています。

 ドラゴン達はこちらの屋敷と旧女将亭を行ったり来たりで、気分で寝床を変えている状況な上、今日は旧女将亭で酒場を開いている日らしく、全員出払っていた。
お酒好きなドラゴン達は、お客さんが居なくても自分達で勝手に酒盛りをして盛り上がるから、今頃はどんちゃん騒ぎしていることだろう。

 あと今日は、ルーファスが馴染なじみ客と飲みに行っているのもあって、私は久々の一人の夜といえる。
ハガネは毎日、スクルードと魔力の訓練をしていて、疲れ切って寝てしまうと朝まで起きないしね。

「んーっ、あっ、お酒というお供があるじゃない!」

 いつもは周りに止められて、なかなか一杯飲めないし、お酒癖はちょっと悪いけど、家の中だし……折角おつまみに丁度いい肴もあるから、ちょっとだけ。
なにより、コハルの断乳に成功したのもあった。

 
「ふふふ……ふはー……」

 でも、そのちょっとだけが悪かったのだ。
お酒を飲んで、少し気分の良くなった私は、もう少しおつまみが欲しいと【刻狼亭】の調理場でほんの少し、ガサガサとお料理を漁っていた。
うん。酔っ払いは性質が悪い。悪気が無くやっている分ね。
しかし、代替わりした【刻狼亭】の当主リュエールは、容赦がない。

 あらかじめ、店仕舞いした後に従業員達が居なくなった後に出入りすると、魔道具で泥棒として幽閉される物を設置している。
私も、まさか息子がそんな物を設置しているとは思わなくて、はちみつ漬けの梅干しの壺を手に持ったまま、魔道具の中に吸い込まれてしまった。

 甘くて酸っぱくて美味しい、はちみつ梅を口に入れて、私は幸せいっぱいお酒でふわふわ状態で……寝入ってしまい、目覚めた時にはこの海底ドームの中でした。

 ちなみにこれがどうしてリュエールの魔道具だとわかったかと言うと、ドームの中にリュエールの綺麗な字で『刻狼亭に深夜盗みに入った者へ告ぐ』と、警告文が貼ってあったからである。

「うちの長男様が気付いてくれることを待つばかり……ああ、でもリューちゃんにもルーファスにも怒られる」

 ダブルパンチで怒られるのは勘弁してほしい。
あと、二日酔いで頭がガンガンする。ついでに私自身がお酒臭い……

「お風呂入りたーい」

 この魔道具、リュエールが設置しただけあって、中からは魔法は使えないし、魔道具の類も使えない。
おかげで腕輪も使えないし、移動魔法も使えない。
うちの長男様がえげつない。でも、本当の泥棒なら、ちゃんとした設備だと言えますから、お母さん的には花丸をあげたい。

 見上げた天井には、海の中が広がって見えてとても綺麗で楽しいと言えば、楽しいけど……これ、いつまで入って無きゃいけないんだろう?

「そろそろ、お仕事時間だと思うんだけどな―」

 ついでに言えば、朝ご飯の支度もしてないし、コハルがお腹を空かせて癇癪かんしゃくを起す頃かもしれない。
我が家のお姫様はとても時間にうるさいお姫様なのだ。
でも、ハガネが居るから、私が不在の間はハガネの美味しいご飯が食べられるから、それはそれで文句が無いかもしれない。
ハガネには今度ボーナスを出して労わねば。

 はちみつ梅を口に入れて「美味しい~ッ」と、アーネスさんのレシピ通りに作られた梅干しに舌鼓を打つ。
真っ白な白米が欲しい。あとお茶漬け。ほうじ茶も欲しいわね。
これに魚の塩焼きが加わればとても贅沢な朝ご飯だわ。ああ、欲を言うなら、きんぴらとか、卵焼きも欲しい。

「んー……お腹空いたぁ」

 二日酔いでも食欲があるのは良いことよ。うん。そこまで酷い二日酔いじゃないということだからね。
呑気な私はこの時点では焦りはゼロだった。
そのうちリュエールが気付くだろうし、ルーファス達も、私が台所でお酒やおつまみを広げて、一人お酒を楽しんでいたのは見ればわかるから、直ぐに私がどう動いたかはわかると高をくくっていた。

 でもね、そのうち喉がカラカラに乾いてきて……梅干し食べてればそうなるし、お酒は水分というには喉を潤してはくれない。
一体、何時間ここに居るのー!? と、次第に焦り始めた私である。

「ふわわぁぁぁーッ!! リューちゃん! 反省したから出してぇ―!」

 ベシベシとドームを叩き、涙目で騒ぐ私の出来上がりだった。
結構な時間を海底で過ごした私は、コハルとスクルードの心配で頭がいっぱいになり、やはり幼い子供を残したままというのは、母親としては焦りが募る。
ハガネやキリンちゃんにルーファスが居るといっても、子供は目を離せない。
大人が思わない危険な行動を平気でとるものなのだ。

「お願いだから、もうここから出してー!」

 焦りと後悔と反省、その三つの気持ちを持って、騒ぎ立てたところ。
ドームが開き、中に大量の海水が入ってきて「ヒイィィィ~ッ!」と、大騒ぎした所で、私を見下ろす黒い影が周りにあった。

「ようやく反省したみたいだね。まったく、母上は、どれだけ反省しないのさ?」

 ハァーッと、溜め息を吐いて私を見下ろしたのはリュエールで、「仕方のない番だな」と、抱き上げたのはルーファスだった。

「ルーファス~ッ! リューちゃんに酷い目に遭わされたよぅ~」
「アカリ、そういう所が反省が足りなくて、魔道具から出してもらえなかったんだぞ?」
「魔道具が、どうして?」
「この魔道具は心からの反省が無ければ、開かない。アカリは反省するのに三日も掛かった」
「ううっ、そんなに経ってるの? でもね、リューちゃんが出してくれると思ったんだよ?」

 ルーファスの首にしがみ付いて首を振ると、リュエールが額に青筋を立てていた。
うちの長男様が怖い。

「母上、本当に反省してないでしょ! この魔道具は反省さえすれば、小さな子供だって簡単に出れるのに!」
「ひえっ! でも、私だって、酔ってたんだもの……仕方ないじゃない」
「そういう甘えが、三日間も出てこれなかった理由だよ!」
「まぁまぁ、リュー、アカリも反省したから出てこれたのだし、許してやれ」
「父上が母上を甘やかすから、こんな事になっているんです! 母上は猛省して! 父上も!」

 怒れる長男リュエールに、少しだけ反省して、ハガネに「アカリがわりぃ」とデコピンされ、グリムレインには「嫁は反省しない生き物だ」と頷かれた。

 屋敷の大広間に行くと、ケルチャとケイトとアルビーがスクルードとコハルの相手をしていて、スクルードは私を見ると、ダッシュで駆けてきて、ルーファスの足にしがみ付いた。

「ははうぇー、おかえんなさーい!」
「ただいまー。なんだか、三日の間に『うぇー』呼びになってない?」
「ああまー!」
「はーい。コハルもただいまー」

 コハルの周りに花がポンポンと出て、喜んでくれているのが一目でわかる為に、これは中々にむず痒くて嬉しいかも?

「アカリ、随分と反省しなかったみたいね?」
「うぐ……っ、ケルチャ、もう散々リューちゃんに怒られたから、やーめーてー」
「うふふ。ドジなんだからどうしようもないわね」

 コハルを抱いたケルチャはクスクス笑って、コハルと「ねー」と言って仲良さげに笑っている。
私の居ない三日間に仲良し度が上がっているようだ。
 
「アカリ、三日間も閉じ込められていたんだ。何か欲しい物はあるか?」
「とりあえず、お水とお風呂に入りたい! あと、ごはーん!」

 私がそう言うと、ぐぅ~っとお腹が鳴り、リュエールに「やっぱり、母上は反省が足りない」と、お小言を貰ってしまった。
皆がドッと笑って、私が反省するまでの三日間を皆がどうやって過ごしたかを、お風呂の後にご飯を食べつつ聞いて、また反省させられたりもした。

 迷惑をかけてしまった事は深く反省しているし、とりあえず、酔っても【刻狼亭】につまみ食いしに行かないようにしようと心に誓った。

 
 そして、夜。
皆が寝静まった後で、ルーファスに個人的に心配をかけて、迷惑をかけた事を体でお仕置きさせられた。
おかげで次の日も朝ご飯の支度はハガネだったけど、私が悪いわけだから、反省はしよう。
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