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プロローグ
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郊外にある緑の多い公園。
いつもならば、賑やかな子供たちの声に、犬の散歩をする人たち、普通の人々の何気ない憩いの場のはずだ。
しかし今日は非日常が服を着て公園を占拠している為に、自分以外の普通の人間が居ない。
「サキさん、今日はとてもいい天気だと思いませんか?」
自分に話しかけてくる非日常を連れてきた男、メイデル・コラムを俺は睨みつける。
白髪混じりの四十代の男で、背は百八十センチ近くあり、西洋人らしい彫りの深い顔に人懐っこそうな笑顔をしている。
黒いスーツを着こなした紳士に見える……が、とんでもない。
こいつの茶色い目の奥では、凶暴なものが隠れている。
「そうですね」
ぶっきらぼうにそう答え、今日はどう頑張っても売れそうにないホットドックをアルミホイルに包み、店仕舞いを始める。
「今日はもう、お店をたたむのですか?」
諸悪の根源が何をほざくやらである。
この公園でホットドックとコーヒーを売って、日銭を稼ぐ商売を育ての親から譲り受けて早二年……。
『男が怖いので店仕舞いします』という、情けない理由で引き上げるなんて思いもよらなかった。
まぁ、この仕事はただの見せかけではあるが……こんな理由で仕舞いにするのは、泣きたい。
名執咲、一生の不覚である。
メイデルは幸せそうに微笑んで、勝手にアルミホイルに包んだホットドックを開いて食べる。
「んーっ。流石、私の『番』だ。味が良い」
「一つ、三百五十円」
コッペパンに、焼いたキャベツをカレー粉で混ぜた物に、フランクフルトを挟んだ。それだけの物を、大げさに喜ぶなと言いたい。そして、金を払え。
手の平を出して金を請求すると、そのまま手首を掴んで口元に持っていくと軽く唇を指先につけてきた。
「サキの指先は、良い香りがしますね」
「ええい、離せ!」
俺が手を払いのけると、非日常の黒服軍団はスーツの中に手を入れ込み、素早く銃を取り出して俺に向けてくる。
カチャリと銃の安全装置が外された音がしている時点で、本気のようだ。
メイデルの表情が変わり、目だけで周りの黒服を睨めつける。
そのひと睨みで、黒服たちは竦みあがって身動き一つ取れなくなってしまう。
「メイデル」
仕方なしに声を掛ければ、据わった眼をしていたメイデルの表情は脆くも崩れ去り、だらしのないニヤけ顔になる。
本当にこいつは、史上最強と言われた悪魔のアルファなのだろうか?
「何だい? 私の可愛い『番』」
俺の目を見て目を細めた悪魔に、なんでこんなことになったかと半目になる。
平和……とはいかないまでも、三カ月前まではこんな物騒な奴等に囲まれるなんてことは無かったはずだ。
三カ月前のことを思い出して、深い溜め息が漏れた。
いつもならば、賑やかな子供たちの声に、犬の散歩をする人たち、普通の人々の何気ない憩いの場のはずだ。
しかし今日は非日常が服を着て公園を占拠している為に、自分以外の普通の人間が居ない。
「サキさん、今日はとてもいい天気だと思いませんか?」
自分に話しかけてくる非日常を連れてきた男、メイデル・コラムを俺は睨みつける。
白髪混じりの四十代の男で、背は百八十センチ近くあり、西洋人らしい彫りの深い顔に人懐っこそうな笑顔をしている。
黒いスーツを着こなした紳士に見える……が、とんでもない。
こいつの茶色い目の奥では、凶暴なものが隠れている。
「そうですね」
ぶっきらぼうにそう答え、今日はどう頑張っても売れそうにないホットドックをアルミホイルに包み、店仕舞いを始める。
「今日はもう、お店をたたむのですか?」
諸悪の根源が何をほざくやらである。
この公園でホットドックとコーヒーを売って、日銭を稼ぐ商売を育ての親から譲り受けて早二年……。
『男が怖いので店仕舞いします』という、情けない理由で引き上げるなんて思いもよらなかった。
まぁ、この仕事はただの見せかけではあるが……こんな理由で仕舞いにするのは、泣きたい。
名執咲、一生の不覚である。
メイデルは幸せそうに微笑んで、勝手にアルミホイルに包んだホットドックを開いて食べる。
「んーっ。流石、私の『番』だ。味が良い」
「一つ、三百五十円」
コッペパンに、焼いたキャベツをカレー粉で混ぜた物に、フランクフルトを挟んだ。それだけの物を、大げさに喜ぶなと言いたい。そして、金を払え。
手の平を出して金を請求すると、そのまま手首を掴んで口元に持っていくと軽く唇を指先につけてきた。
「サキの指先は、良い香りがしますね」
「ええい、離せ!」
俺が手を払いのけると、非日常の黒服軍団はスーツの中に手を入れ込み、素早く銃を取り出して俺に向けてくる。
カチャリと銃の安全装置が外された音がしている時点で、本気のようだ。
メイデルの表情が変わり、目だけで周りの黒服を睨めつける。
そのひと睨みで、黒服たちは竦みあがって身動き一つ取れなくなってしまう。
「メイデル」
仕方なしに声を掛ければ、据わった眼をしていたメイデルの表情は脆くも崩れ去り、だらしのないニヤけ顔になる。
本当にこいつは、史上最強と言われた悪魔のアルファなのだろうか?
「何だい? 私の可愛い『番』」
俺の目を見て目を細めた悪魔に、なんでこんなことになったかと半目になる。
平和……とはいかないまでも、三カ月前まではこんな物騒な奴等に囲まれるなんてことは無かったはずだ。
三カ月前のことを思い出して、深い溜め息が漏れた。
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