狼兵は運命の番を逃がさない

ろいず

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蛇に睨まれたカエルは逃げ出したい

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 ほどなくしてルームサービスがワゴンで届き、ホテルに備え付けのカウンターテーブルは食べ物で溢れかえった。
 メイデルに食事を勧められて、炭酸水だけ貰ってペロリと平らげていくメイデルに驚きを隠せない。
 四十代か五十代だろう外見で食欲が落ちないのは凄い。
 まぁ、ガウンから覗く腕の太さに太ももや胸板は、元軍人だと言うだけあって、筋肉量が俺の腕三本か四本束にしないといけないかもしれない。

「どうかしましたか?」
「よく夜にそこまで食べれるなぁって……」
「体が資本ですから。サキさんはそれだけでいいのですか?」
「あー、うん。俺はこういう時は、食欲なくなる性質だから」
「なるほど。覚えておきますね」

 笑顔で覚えなくていい。
 すぐに帰るつもりだったのに……壁ドンで凄まれて、タイミングを見失ってしまった。

「シズクくんからは、連絡無しですか?」
「まだ、無い」

 指先でメールボックスを弄るも、新しい返信は無い。
 シズクにメールをしたのに、返事は戻ってきていなくて、つい心配で何度も見てしまう。
 まだ遺体の修復をしているかもしれないし、新しい遺体が見つかって回収に行っているかもしれない。
  
 俺達の遺体探しは、裏に点在する遺体放棄場所というものがある。
 なんというか、遺体は組織的に捨てられる放棄場所もあれば、素人がランダムに捨てているようで、実は捨てやすい場所というものがある。
 そうしたところを『ハゲタカ』と呼ばれる情報屋から、俺達は情報を貰って回収に行く。
 ちなみに俺達は『プレゼンター』と呼ばれている。
 遺体を綺麗な状態にして身内に返すことから、そう呼ばれているわけだ。

「サキさんは、情報屋だと言いましたが、この件に関しては、どれだけ知っているのです?」
「まだ全然。むしろそれを探りにきたわけだけど?」

 メイデルにジッと見つめられると、やはり蛇に睨まれたカエル状態で身構えてしまう。
 あと、首を狙われているせいか……首の後ろがチリチリした感じがずっとしている。

「サキさん。危ない世界から足を洗った方が、貴方の為だと思います」
「別に危なくないけど?」
「先ほど、銃撃されそうになっていたのに?」

 それを言われるとぐうの音も出ない。
 銃で撃たれていたら今頃どうなっていたやらとは、思うんだけどね。思うんだけど、元軍人のアルファにホテルに監禁されるよりかは、マシなような気がしてくるのは、何故でしょうかね?

「それより、首のこれ外して欲しいんだけど?」
「私に噛まれる覚悟が出来たという事で?」
「それは無い。でも体が熱い分、レザーネックだと蒸れて痒い」
「まだ完全に抑制剤が効いているわけではありませんから、私の理性が持つかどうか自信が無いですね」
「そこは自信持ってほしい。いや、俺が家に帰れば、物理的距離が出来るから、俺が帰れば万事解決」
「それは却下します」

 笑顔で提案し、笑顔で却下される。
 この際、レザーネックは諦めよう。家に帰ってハサミで切ろう。
 シズクが笑顔で遺体用のハサミを持ち出してきそうな気がするけど……シズクも怒らせると怖いから、俺としては今日の仕事が失敗した事でどれだけ嫌味を言われるかと脅えている。
 メイデルも怖いが、シズクはもっと怖い。

「あのさ、メイデルのその口調は、何なの?」
「何なのとは?」
「出会い頭は、怒った感じだったし、何か俺の事怒ってたよね?」
「怒っていた訳ではなく、余裕がなかっただけです。あの状況下では、口調が荒っぽくなっただけの事です。私はサキさんの誘惑香で理性が飛びそうでしたからね」
「うぐぐ……」

 あれは怒っていた訳では無かったのか……なんで少し嬉しく思ってしまったんだろう。
 それが非常に悔しい。
 俺が、メイデルの番……ねぇ? うーん。よくわからない。
 抑制剤で頭が半分寝ている状態だから、余計にわからない。
 桜樹やササメみたいな見目好いカップル……にはならないだろうな。
 筋肉なおっさんと地味男でしかない。
 実に残念な運命の番ではないだろうか? 

「メイデルは、何歳なんだ?」
「私は四十七です。サキさんは?」
「二十三」
「十代かと思っていましたが、二十歳過ぎですか」

 日本人は年齢がよく分からないと言われがちで、若く見える。とは、言うけれど……十代は無いな。
 しかし、年齢差が親子ほども離れているのは、理想の運命の番とは言い辛いだろうな。と、少しだけ思った。
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