11 / 58
蛇に睨まれたカエルは逃げ出したい
しおりを挟む
ほどなくしてルームサービスがワゴンで届き、ホテルに備え付けのカウンターテーブルは食べ物で溢れかえった。
メイデルに食事を勧められて、炭酸水だけ貰ってペロリと平らげていくメイデルに驚きを隠せない。
四十代か五十代だろう外見で食欲が落ちないのは凄い。
まぁ、ガウンから覗く腕の太さに太ももや胸板は、元軍人だと言うだけあって、筋肉量が俺の腕三本か四本束にしないといけないかもしれない。
「どうかしましたか?」
「よく夜にそこまで食べれるなぁって……」
「体が資本ですから。サキさんはそれだけでいいのですか?」
「あー、うん。俺はこういう時は、食欲なくなる性質だから」
「なるほど。覚えておきますね」
笑顔で覚えなくていい。
すぐに帰るつもりだったのに……壁ドンで凄まれて、タイミングを見失ってしまった。
「シズクくんからは、連絡無しですか?」
「まだ、無い」
指先でメールボックスを弄るも、新しい返信は無い。
シズクにメールをしたのに、返事は戻ってきていなくて、つい心配で何度も見てしまう。
まだ遺体の修復をしているかもしれないし、新しい遺体が見つかって回収に行っているかもしれない。
俺達の遺体探しは、裏に点在する遺体放棄場所というものがある。
なんというか、遺体は組織的に捨てられる放棄場所もあれば、素人がランダムに捨てているようで、実は捨てやすい場所というものがある。
そうしたところを『ハゲタカ』と呼ばれる情報屋から、俺達は情報を貰って回収に行く。
ちなみに俺達は『プレゼンター』と呼ばれている。
遺体を綺麗な状態にして身内に返すことから、そう呼ばれているわけだ。
「サキさんは、情報屋だと言いましたが、この件に関しては、どれだけ知っているのです?」
「まだ全然。むしろそれを探りにきたわけだけど?」
メイデルにジッと見つめられると、やはり蛇に睨まれたカエル状態で身構えてしまう。
あと、首を狙われているせいか……首の後ろがチリチリした感じがずっとしている。
「サキさん。危ない世界から足を洗った方が、貴方の為だと思います」
「別に危なくないけど?」
「先ほど、銃撃されそうになっていたのに?」
それを言われるとぐうの音も出ない。
銃で撃たれていたら今頃どうなっていたやらとは、思うんだけどね。思うんだけど、元軍人のアルファにホテルに監禁されるよりかは、マシなような気がしてくるのは、何故でしょうかね?
「それより、首のこれ外して欲しいんだけど?」
「私に噛まれる覚悟が出来たという事で?」
「それは無い。でも体が熱い分、レザーネックだと蒸れて痒い」
「まだ完全に抑制剤が効いているわけではありませんから、私の理性が持つかどうか自信が無いですね」
「そこは自信持ってほしい。いや、俺が家に帰れば、物理的距離が出来るから、俺が帰れば万事解決」
「それは却下します」
笑顔で提案し、笑顔で却下される。
この際、レザーネックは諦めよう。家に帰ってハサミで切ろう。
シズクが笑顔で遺体用のハサミを持ち出してきそうな気がするけど……シズクも怒らせると怖いから、俺としては今日の仕事が失敗した事でどれだけ嫌味を言われるかと脅えている。
メイデルも怖いが、シズクはもっと怖い。
「あのさ、メイデルのその口調は、何なの?」
「何なのとは?」
「出会い頭は、怒った感じだったし、何か俺の事怒ってたよね?」
「怒っていた訳ではなく、余裕がなかっただけです。あの状況下では、口調が荒っぽくなっただけの事です。私はサキさんの誘惑香で理性が飛びそうでしたからね」
「うぐぐ……」
あれは怒っていた訳では無かったのか……なんで少し嬉しく思ってしまったんだろう。
それが非常に悔しい。
俺が、メイデルの番……ねぇ? うーん。よくわからない。
抑制剤で頭が半分寝ている状態だから、余計にわからない。
桜樹やササメみたいな見目好いカップル……にはならないだろうな。
筋肉なおっさんと地味男でしかない。
実に残念な運命の番ではないだろうか?
「メイデルは、何歳なんだ?」
「私は四十七です。サキさんは?」
「二十三」
「十代かと思っていましたが、二十歳過ぎですか」
日本人は年齢がよく分からないと言われがちで、若く見える。とは、言うけれど……十代は無いな。
しかし、年齢差が親子ほども離れているのは、理想の運命の番とは言い辛いだろうな。と、少しだけ思った。
メイデルに食事を勧められて、炭酸水だけ貰ってペロリと平らげていくメイデルに驚きを隠せない。
四十代か五十代だろう外見で食欲が落ちないのは凄い。
まぁ、ガウンから覗く腕の太さに太ももや胸板は、元軍人だと言うだけあって、筋肉量が俺の腕三本か四本束にしないといけないかもしれない。
「どうかしましたか?」
「よく夜にそこまで食べれるなぁって……」
「体が資本ですから。サキさんはそれだけでいいのですか?」
「あー、うん。俺はこういう時は、食欲なくなる性質だから」
「なるほど。覚えておきますね」
笑顔で覚えなくていい。
すぐに帰るつもりだったのに……壁ドンで凄まれて、タイミングを見失ってしまった。
「シズクくんからは、連絡無しですか?」
「まだ、無い」
指先でメールボックスを弄るも、新しい返信は無い。
シズクにメールをしたのに、返事は戻ってきていなくて、つい心配で何度も見てしまう。
まだ遺体の修復をしているかもしれないし、新しい遺体が見つかって回収に行っているかもしれない。
俺達の遺体探しは、裏に点在する遺体放棄場所というものがある。
なんというか、遺体は組織的に捨てられる放棄場所もあれば、素人がランダムに捨てているようで、実は捨てやすい場所というものがある。
そうしたところを『ハゲタカ』と呼ばれる情報屋から、俺達は情報を貰って回収に行く。
ちなみに俺達は『プレゼンター』と呼ばれている。
遺体を綺麗な状態にして身内に返すことから、そう呼ばれているわけだ。
「サキさんは、情報屋だと言いましたが、この件に関しては、どれだけ知っているのです?」
「まだ全然。むしろそれを探りにきたわけだけど?」
メイデルにジッと見つめられると、やはり蛇に睨まれたカエル状態で身構えてしまう。
あと、首を狙われているせいか……首の後ろがチリチリした感じがずっとしている。
「サキさん。危ない世界から足を洗った方が、貴方の為だと思います」
「別に危なくないけど?」
「先ほど、銃撃されそうになっていたのに?」
それを言われるとぐうの音も出ない。
銃で撃たれていたら今頃どうなっていたやらとは、思うんだけどね。思うんだけど、元軍人のアルファにホテルに監禁されるよりかは、マシなような気がしてくるのは、何故でしょうかね?
「それより、首のこれ外して欲しいんだけど?」
「私に噛まれる覚悟が出来たという事で?」
「それは無い。でも体が熱い分、レザーネックだと蒸れて痒い」
「まだ完全に抑制剤が効いているわけではありませんから、私の理性が持つかどうか自信が無いですね」
「そこは自信持ってほしい。いや、俺が家に帰れば、物理的距離が出来るから、俺が帰れば万事解決」
「それは却下します」
笑顔で提案し、笑顔で却下される。
この際、レザーネックは諦めよう。家に帰ってハサミで切ろう。
シズクが笑顔で遺体用のハサミを持ち出してきそうな気がするけど……シズクも怒らせると怖いから、俺としては今日の仕事が失敗した事でどれだけ嫌味を言われるかと脅えている。
メイデルも怖いが、シズクはもっと怖い。
「あのさ、メイデルのその口調は、何なの?」
「何なのとは?」
「出会い頭は、怒った感じだったし、何か俺の事怒ってたよね?」
「怒っていた訳ではなく、余裕がなかっただけです。あの状況下では、口調が荒っぽくなっただけの事です。私はサキさんの誘惑香で理性が飛びそうでしたからね」
「うぐぐ……」
あれは怒っていた訳では無かったのか……なんで少し嬉しく思ってしまったんだろう。
それが非常に悔しい。
俺が、メイデルの番……ねぇ? うーん。よくわからない。
抑制剤で頭が半分寝ている状態だから、余計にわからない。
桜樹やササメみたいな見目好いカップル……にはならないだろうな。
筋肉なおっさんと地味男でしかない。
実に残念な運命の番ではないだろうか?
「メイデルは、何歳なんだ?」
「私は四十七です。サキさんは?」
「二十三」
「十代かと思っていましたが、二十歳過ぎですか」
日本人は年齢がよく分からないと言われがちで、若く見える。とは、言うけれど……十代は無いな。
しかし、年齢差が親子ほども離れているのは、理想の運命の番とは言い辛いだろうな。と、少しだけ思った。
1
あなたにおすすめの小説
あなたの家族にしてください
秋月真鳥
BL
ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。
情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。
闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。
そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。
サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。
対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。
それなのに、なぜ。
番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。
一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。
ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。
すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。
※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
オメガのブルーノは第一王子様に愛されたくない
あさざきゆずき
BL
悪事を働く侯爵家に生まれてしまった。両親からスパイ活動を行うよう命じられてしまい、逆らうこともできない。僕は第一王子に接近したものの、騙している罪悪感でいっぱいだった。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる