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追う者追われる者
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黒のバンを走らせてシズクに助手席から、「どこか遠くに逃げよう!」と提案されている。
シズクは既にどこどこへ潜伏して、一ヵ月ぐらい姿を消そう。と、具体的なことまで言い始めて今にも泣きそうな顔をしている。
「とにかく、今は遺体の回収。そして遺棄!」
「はぁー……咲が寝てる間に、相手が動いてなきゃいいんだけど。なんで咲寝ちゃったのさ!」
「俺だって、ここまであの遺体で軍人もどきに関わるなんて、思ってなかったよ!」
俺達二人は情けなくもギャアギャアと騒いで、ラボという名の肉屋に車を停めた。
いつも通り、何事も無い肉屋のはずなのに、入った瞬間から妙な緊張が走る。
「シズク、ヤバいかも……」
「僕が先に見に行く。咲は、何かあったらすぐ逃げられるように、車に居て」
「いや、俺が見に行くから」
「こういう時に兄貴ぶんないで! 僕は車の運転できないんだから、咲がちんたらしてたら、直ぐに逃げられないでしょ!」
「でも……」
「でももけども無いの!」
護身用のスタンガンを手に、シズクは地下のラボへと入っていき、俺は車へと戻った。
シズクが大丈夫か心配で、車の窓から肉屋を覗き見る。
ブロロロとバイクの大きな音が近付き、ゾワッと体に鳥肌が立つ。
この感覚に凄く身に覚えがある。
バイクは俺のバンの横に停まり、黒い革ジャケットに黒いレザーパンツの人物は銀色のヘルメットを脱ぐ。
「やぁ。サキさん、おはよう」
笑顔で一番会いたくなかった人間にあってしまった。
世界最強の悪魔……メイデル・コラム。
「う……っ、おはよう」
「昨日は帰ってしまうなんて、つれないですね」
「俺はちゃんと帰りたいって、言ってました」
うん。俺は何度も帰りたいと言っていたはずだ。
怖いのでシズク早く帰ってきてー!! と、情けなくも弟分に助けを心の中で叫ぶ。
「サキさん、キスしても?」
「はぁ?」
眉をひそめて、何言ってるんだろうこの人? と、思わず変な顔をして、素で殴っても良いかな? と思ってしまった。
顔を近付けてきたメイデルに、車の窓を閉める。
そして、鍵もかけてしまう。
「サキさん、挨拶のキスぐらいいいのでは?」
「ここは日本だ。お帰り下さい」
「うーん。サキさんは本当につれないですね。日本人は奥ゆかしい」
なんだろう。朝からドッと疲れた気がする。
あと、何となく自分のテリトリー内のせいか、俺は強気である。
あの時は怖い人に見えたけど、こうして太陽の下で見れば、普通に人懐っこい西洋人だ。
「サキさん、ここで何をしているんですか?」
「シズクを待ってんの」
「私と一緒に迎えに行きませんか」
「……シズクに何かしたら、絶対許しませんけど?」
ジトとした目でメイデルを睨み上げて、車のドアを開けて外に出る。
メイデルが一緒なら、何かあっても安全かもしれないという打算もある。
「私が何かするとしたら、サキさんだけですけどね」
「俺に何かしても、許しませんけど?」
肉屋の入り口に足を踏み入れた時、何かの足音が奥からした。
シズクの足音にしては重く、人数の多い音に走り出そうとした俺より先に、メイデルがカウンターを片手で飛び越えて入った。
「シズク!?」
「咲、逃げて!!」
「サキさん! 伏せて!」
奥から銃声が聞こえ、俺の横を何かが掠めた。
そして肉屋のショーケースが派手な音を立てて壊れた。
昨日の銃撃と同じような音に、俺は、情けないことに身動き一つ取る事が出来なかった。
遠ざかる足音に、車のドアが閉まり、走り去る音がした。
「サキさん。大丈夫ですか?」
「あ……、し、シズク、シズクは!?」
奥から戻ってきたメイデルが首を横に振り、「連れ去られました」と告げた。
シズクは既にどこどこへ潜伏して、一ヵ月ぐらい姿を消そう。と、具体的なことまで言い始めて今にも泣きそうな顔をしている。
「とにかく、今は遺体の回収。そして遺棄!」
「はぁー……咲が寝てる間に、相手が動いてなきゃいいんだけど。なんで咲寝ちゃったのさ!」
「俺だって、ここまであの遺体で軍人もどきに関わるなんて、思ってなかったよ!」
俺達二人は情けなくもギャアギャアと騒いで、ラボという名の肉屋に車を停めた。
いつも通り、何事も無い肉屋のはずなのに、入った瞬間から妙な緊張が走る。
「シズク、ヤバいかも……」
「僕が先に見に行く。咲は、何かあったらすぐ逃げられるように、車に居て」
「いや、俺が見に行くから」
「こういう時に兄貴ぶんないで! 僕は車の運転できないんだから、咲がちんたらしてたら、直ぐに逃げられないでしょ!」
「でも……」
「でももけども無いの!」
護身用のスタンガンを手に、シズクは地下のラボへと入っていき、俺は車へと戻った。
シズクが大丈夫か心配で、車の窓から肉屋を覗き見る。
ブロロロとバイクの大きな音が近付き、ゾワッと体に鳥肌が立つ。
この感覚に凄く身に覚えがある。
バイクは俺のバンの横に停まり、黒い革ジャケットに黒いレザーパンツの人物は銀色のヘルメットを脱ぐ。
「やぁ。サキさん、おはよう」
笑顔で一番会いたくなかった人間にあってしまった。
世界最強の悪魔……メイデル・コラム。
「う……っ、おはよう」
「昨日は帰ってしまうなんて、つれないですね」
「俺はちゃんと帰りたいって、言ってました」
うん。俺は何度も帰りたいと言っていたはずだ。
怖いのでシズク早く帰ってきてー!! と、情けなくも弟分に助けを心の中で叫ぶ。
「サキさん、キスしても?」
「はぁ?」
眉をひそめて、何言ってるんだろうこの人? と、思わず変な顔をして、素で殴っても良いかな? と思ってしまった。
顔を近付けてきたメイデルに、車の窓を閉める。
そして、鍵もかけてしまう。
「サキさん、挨拶のキスぐらいいいのでは?」
「ここは日本だ。お帰り下さい」
「うーん。サキさんは本当につれないですね。日本人は奥ゆかしい」
なんだろう。朝からドッと疲れた気がする。
あと、何となく自分のテリトリー内のせいか、俺は強気である。
あの時は怖い人に見えたけど、こうして太陽の下で見れば、普通に人懐っこい西洋人だ。
「サキさん、ここで何をしているんですか?」
「シズクを待ってんの」
「私と一緒に迎えに行きませんか」
「……シズクに何かしたら、絶対許しませんけど?」
ジトとした目でメイデルを睨み上げて、車のドアを開けて外に出る。
メイデルが一緒なら、何かあっても安全かもしれないという打算もある。
「私が何かするとしたら、サキさんだけですけどね」
「俺に何かしても、許しませんけど?」
肉屋の入り口に足を踏み入れた時、何かの足音が奥からした。
シズクの足音にしては重く、人数の多い音に走り出そうとした俺より先に、メイデルがカウンターを片手で飛び越えて入った。
「シズク!?」
「咲、逃げて!!」
「サキさん! 伏せて!」
奥から銃声が聞こえ、俺の横を何かが掠めた。
そして肉屋のショーケースが派手な音を立てて壊れた。
昨日の銃撃と同じような音に、俺は、情けないことに身動き一つ取る事が出来なかった。
遠ざかる足音に、車のドアが閉まり、走り去る音がした。
「サキさん。大丈夫ですか?」
「あ……、し、シズク、シズクは!?」
奥から戻ってきたメイデルが首を横に振り、「連れ去られました」と告げた。
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