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帰国
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メイデルの仕事拠点は日本ではない。
だから次に会う時は、いつになるかは未定の状態だ。
メイデル本人は「サキさんの発情期に合わせて、戻りますから!」とは言っていたが、次の仕事は仕事上明かせない上に、海外だというのは確かなようで……
そして何より、仕事柄、携帯機器の類は傍受や証拠になりやすい為に持ち歩かない。
「サキさん。連絡が途絶えても、不安にならないで下さい」
「いや、別に元の生活に戻るだけだしな……」
リビングでコーヒーを飲みながら、四十過ぎた男が情けない声を出すなと言いたい。
第一、こっちも運命の番がどういうものか分かったから、心配しなくてもメイデルは俺の所へ来るだろうと、理解してしまった感じだ。
「危ない仕事からは足を洗って下さいね?」
「……どうだろうな」
「サキさん。今までの仕事は、組織から見逃してもらう為に回されていた仕事だったのですから、シズクが居なくなった今、サキさんは自由なのですよ?」
そうは言われても、他に生き方を知らないわけで。オメガだとバレると何かと職業を選ぶのは難しい。
発情期が来るたびに仕事は一週間は休む事になる。その事を考慮してくれる職場を探すのは難しいだろう。
立場の弱いオメガをいたぶる輩は、それなりに存在する。
まぁ、地味な俺がオメガだと気付くやつは少ないだろうし、首の後ろを噛まれてしまった以上、誘惑香でアルファを狂わす事もない。
「まぁ、当分はホットドッグ売りでもして日銭を稼ぐよ」
「本当ですね? 危ない事はしないで下さいね」
「しつこい。それより、早く出ないと部下の人達が迎えに来るぞ」
手で早く行けとジェスチャーすれば、耳の下がった犬のように悲しそうな顔をする。
そんな顔をしても、俺は絆されたりしない。
「サキさんは、淡白ですよね」
「誰のせいで……こうなったと思ってるんだよ」
ズキズキと痛む腰を手で押さえて、かすれた声を出して睨みつける。
俺が運命の番を体で感じた事を知ったこいつは……あの後、こっちがもう無理と言っても、ガツガツと人の体を貪り尽くした。元軍人の鍛えられた体と、貧相な男の体力を考えろ! と、喚き散らしたいが、それをするとこちらにも精神ダメージがくるので黙っている。
「そんな顔をされると、また啼かせてみたくなりますね」
「早く、行け!」
「折角、番との甘いひと時を少しでも長く一緒に過ごしたいと思っているのに、サキさんは照れ屋ですね」
「俺を怒らせる天才なのか?」
「そんな怒った顔も、可愛くて仕方がありません」
駄目だ。こいつに話が通じない……と、ガクリと項垂れてしまう。
メイデルに上から頭の上にキスをされて顔を上げると、両頬と唇にキスをされた。
「それでは、また会う日まで元気でいて下さいね」
「お前も、仕事で無茶するなよ」
「はい。では、行ってきます」
「ん。行ってらっしゃい。またな」
メイデルが玄関を開けると、部下と思わしき人物が迎えに来ていた。
ここ、オートロックのあるマンションなのにな……と、半目になりつつもメイデルを見送った。
「さてと、俺も仕事を再開しないとな」
遺体の身元捜しの仕事はしないにしても、情報屋としては俺も動けるだろう。
地味な仕事にはなるだろうけれど、オメガの働き口なんて多少、世間とは切り離されていた方がお互いの為だ。
コーヒーを飲み干して、部屋からノートパソコンをリビングへと持ってくる。
電源を入れて、情報屋としてのメールボックスを開く。
『プレゼンターへ。仕事依頼』と、いう物もあれば、情報を売りたいというものもある。
メイデルには危ない事はしないと言った手前、ホットドッグ屋もやろう。
元々、情報を買ったり売ったりはホットドッグ屋で合言葉を言って取引をしている為、嘘はつくわけじゃない。
「まぁ、この体の痛さをどうにかしないと、どうにもならないけどな」
少し行為を思い出して一人で赤面しては、次の発情期に、もしメイデルが本当に来日したらどうなるやらだ。
発情期中はヤバいと聞くし……発情期中は妊娠しやすいから、ちゃんと話し合いもしないといけない。
今回は生でしてしまったけど、発情期の終わった後だから、妊娠率は低い。
けど、メイデルの奥さん……居るのか居ないのか聞くのを忘れたけど、もし居るなら、俺は子供を産むだけの愛人枠だろう。
だから、ちゃんと自分の立場を弁えておかなければいけない。
今は心も体も満たされて、幸せな気持ちでいっぱいだから、それさえたまに満たして貰えれば、俺は出しゃばったりはしない。
シズクが居たら『バッカじゃないの!?』とか言われそうだ。
バカだから、自分みたいな親に捨てられた子供にしたくないと考えてしまうんだよな。
アルファの庇護下で育てられた子供の方が、きっと幸せだろう。
だから次に会う時は、いつになるかは未定の状態だ。
メイデル本人は「サキさんの発情期に合わせて、戻りますから!」とは言っていたが、次の仕事は仕事上明かせない上に、海外だというのは確かなようで……
そして何より、仕事柄、携帯機器の類は傍受や証拠になりやすい為に持ち歩かない。
「サキさん。連絡が途絶えても、不安にならないで下さい」
「いや、別に元の生活に戻るだけだしな……」
リビングでコーヒーを飲みながら、四十過ぎた男が情けない声を出すなと言いたい。
第一、こっちも運命の番がどういうものか分かったから、心配しなくてもメイデルは俺の所へ来るだろうと、理解してしまった感じだ。
「危ない仕事からは足を洗って下さいね?」
「……どうだろうな」
「サキさん。今までの仕事は、組織から見逃してもらう為に回されていた仕事だったのですから、シズクが居なくなった今、サキさんは自由なのですよ?」
そうは言われても、他に生き方を知らないわけで。オメガだとバレると何かと職業を選ぶのは難しい。
発情期が来るたびに仕事は一週間は休む事になる。その事を考慮してくれる職場を探すのは難しいだろう。
立場の弱いオメガをいたぶる輩は、それなりに存在する。
まぁ、地味な俺がオメガだと気付くやつは少ないだろうし、首の後ろを噛まれてしまった以上、誘惑香でアルファを狂わす事もない。
「まぁ、当分はホットドッグ売りでもして日銭を稼ぐよ」
「本当ですね? 危ない事はしないで下さいね」
「しつこい。それより、早く出ないと部下の人達が迎えに来るぞ」
手で早く行けとジェスチャーすれば、耳の下がった犬のように悲しそうな顔をする。
そんな顔をしても、俺は絆されたりしない。
「サキさんは、淡白ですよね」
「誰のせいで……こうなったと思ってるんだよ」
ズキズキと痛む腰を手で押さえて、かすれた声を出して睨みつける。
俺が運命の番を体で感じた事を知ったこいつは……あの後、こっちがもう無理と言っても、ガツガツと人の体を貪り尽くした。元軍人の鍛えられた体と、貧相な男の体力を考えろ! と、喚き散らしたいが、それをするとこちらにも精神ダメージがくるので黙っている。
「そんな顔をされると、また啼かせてみたくなりますね」
「早く、行け!」
「折角、番との甘いひと時を少しでも長く一緒に過ごしたいと思っているのに、サキさんは照れ屋ですね」
「俺を怒らせる天才なのか?」
「そんな怒った顔も、可愛くて仕方がありません」
駄目だ。こいつに話が通じない……と、ガクリと項垂れてしまう。
メイデルに上から頭の上にキスをされて顔を上げると、両頬と唇にキスをされた。
「それでは、また会う日まで元気でいて下さいね」
「お前も、仕事で無茶するなよ」
「はい。では、行ってきます」
「ん。行ってらっしゃい。またな」
メイデルが玄関を開けると、部下と思わしき人物が迎えに来ていた。
ここ、オートロックのあるマンションなのにな……と、半目になりつつもメイデルを見送った。
「さてと、俺も仕事を再開しないとな」
遺体の身元捜しの仕事はしないにしても、情報屋としては俺も動けるだろう。
地味な仕事にはなるだろうけれど、オメガの働き口なんて多少、世間とは切り離されていた方がお互いの為だ。
コーヒーを飲み干して、部屋からノートパソコンをリビングへと持ってくる。
電源を入れて、情報屋としてのメールボックスを開く。
『プレゼンターへ。仕事依頼』と、いう物もあれば、情報を売りたいというものもある。
メイデルには危ない事はしないと言った手前、ホットドッグ屋もやろう。
元々、情報を買ったり売ったりはホットドッグ屋で合言葉を言って取引をしている為、嘘はつくわけじゃない。
「まぁ、この体の痛さをどうにかしないと、どうにもならないけどな」
少し行為を思い出して一人で赤面しては、次の発情期に、もしメイデルが本当に来日したらどうなるやらだ。
発情期中はヤバいと聞くし……発情期中は妊娠しやすいから、ちゃんと話し合いもしないといけない。
今回は生でしてしまったけど、発情期の終わった後だから、妊娠率は低い。
けど、メイデルの奥さん……居るのか居ないのか聞くのを忘れたけど、もし居るなら、俺は子供を産むだけの愛人枠だろう。
だから、ちゃんと自分の立場を弁えておかなければいけない。
今は心も体も満たされて、幸せな気持ちでいっぱいだから、それさえたまに満たして貰えれば、俺は出しゃばったりはしない。
シズクが居たら『バッカじゃないの!?』とか言われそうだ。
バカだから、自分みたいな親に捨てられた子供にしたくないと考えてしまうんだよな。
アルファの庇護下で育てられた子供の方が、きっと幸せだろう。
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