おおかみ宿舎の食堂でいただきます

ろいず

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一章

暗い部屋

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 二階堂さんに押し込まれて閉ざされた闇の中、持たされた懐中電灯の明かりを頼りに一歩ずつ階段になっている道を歩く。
 壁に手を当て、もう片方には懐中電灯。
 耳に痛いほどの静寂が、宿舎の外はどうなっているのか? と、私の気持ちをグラつかせる。
 ここで立ち止まって、引き返したほうがいいのではないだろうか? 
 もしかしたら、もうすべてが終わっているかもしれない。そういった期待もある。
 けれど、それならば二階堂さんがすぐに追ってくるだろ。

「どのくらい経ったんだろう?」

 体感としては、五分は経ったと思うが実際はもっと短いかもしれないし、長くここにいるのかもしれない。
 暗闇の怖さに、足を一歩進ませるのも時間がかかってしまう。

「私の、身内……か」

 二階堂さんの言葉が頭を反芻はんすうする。
 あの襲撃してきた少年が、私の身内……記憶のない私にとって、少年は手掛かりになるかもしれない。
 しかし、皆の様子を見るに、歓迎はされてはいないようだ。

 ジリッと自分のゆっくりと踏みしめる足音が響き、懐中電灯で照らした地面には、もう階段は無くなっていた。
 懐中電灯で少し先を照らし、様子を伺うと、地面に白い線が引いてあった。
 よく見れば、線ではなく文字が隙間なく書かれていた。

「何が書いてあるんだろう?」

 文字……ではあるのだろうけれど、仏教系の曼陀羅まんだら文字というものだろうか? 漢字のようなそうではないような不思議な文字だった。
 踏まないように文字を跨いで線の内側に入ると、辺りが白く穏やかな光で満たされた。

「うわぁ……」

 真珠の光のような白い光で満たされた部屋は、小さな苗木が中央にあり、それを曼荼羅文字は囲っているようだった。
 苗木は一メートルも無い小さな苗木で、この床の地面から生えていた。
 元々は、大きな木があったのか、枯れてしまった木が苗木の横にあった。それは、とても懐かしい木だった。
 手で枯れた木を触ると、目の奥が痛くなりじわりと涙が零れていく。
 涙が床に落ちた時、カツン、パラパラ……と、小粒の真珠と小さな真珠がコロコロと床に散らばっていく。

「真珠……?」

 涙を拭えば、自分の手に付いた物は真珠色の液体だった。
 乾くと真珠の粉のようで、慌てて自分の目元を触るが、ゴロゴロと目の中を動く物もない。
 苗木と枯れ木にばかり目を向けていて、気付かなかったけれど、この部屋の中は……何かを布で覆い隠している。
 覆い隠すと言うより、ホコリが被らないようにシーツを上から掛けていると言うべきか? 

付喪神つくもがみは、ここまでは来ていないんだね……」

 シーツの上に積もったホコリを見て、調理場の食器棚の裏に隠されている場所なのだから、付喪神たちが来ないのも当たり前かと、小さく首を横にする。
 シーツに手を掛けて外すと、そこには箪笥が置いてあった。
 普通の木で作られた茶色い箪笥。しかし、それは使い込まれているのか古い物に感じる。
 箪笥の下の方には、テレビでよく見る子供向けのアニメのシールがベタベタと貼ってある。

「子供……かな?」

 こうした低い位置にシールを貼るのは子供特有の物だろう。
 箪笥の引き出しを開けると、中には赤い服を中心とした女性の服が入っていた。
 
「これ、なんだろう……」

 見たことがある。
 この赤いシャツを着て、黒い足首までの細身のジーンズを穿いて、黒のヒールがよく似合っていた女性。
 長い髪が綺麗だった……そこまで出かかっているのに、最後の最後が思い出せない。

「あと少しなのに、どうして……思い出せないの?」

 喉元まで出かかっている答えが、酷くもどかしい。
 他には何かないかと、シーツを外していくとホコリが土臭くむせ返る。
 ケホケホと咳き込みながら、手で自分の周りのホコリを払いのけていたら、指が小さな金属に当りピンッと弾く様な音がした。
 オルゴールの音が音を外しながら短く鳴る。
 宝石箱のような形をした手の平サイズのオルゴール。
 それは、もう一つの小さな白い箪笥の上に置いてあった。
 
「子供用の箪笥……かな?」

 大人が使うには、少しばかりパステルカラーの花やファンシーな動物の絵が多かったのだ。
 オルゴールを手に取り、蓋を開けると、中にはカサカサに水分が抜けてドライフラワーになってしまっているシロツメクサの指輪が入っていた。
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