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三章
寝不足
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夏の終わりと共に、お盆の為に駆り出された人達もそれぞれの帰るべきところへ帰っていった。
ほんの少しの寂しさと、それぞれの人生の執着地点を手伝った妖達は、また来年も来るのだろう。
私達、おおかみ宿舎の人々も日常へと戻っていった。
「まののーん。おーい。まののーん?」
ヒラヒラと目の前で手が上下に振られて、私はハッと顔を上げる。
二階堂さんが私の前で手を上げたまま小さく首をかしげていた。
そして、目の前のお鍋はボコボコと噴きこぼれる寸前で、慌てて火を止める。
「わっわっ! あっつ!」
「大丈夫かよ? まののん残暑疲れか?」
「あ、いえ……最近ちょっと寝不足で……あはは」
「寝不足ねぇ」
鍋の中で煮崩れてしまった肉じゃがのジャガイモを、ふぅとため息とともにお玉で掬い取ってボウルの中へと集めていく。
煮崩れてしまっては、煮つけとは言えない。
ここは予定変更で、このまま肉じゃがをマッシュポテト状にして肉じゃが風コロッケに変更してしまおう。
「まののん。大丈夫かよ? 最近、寝不足にしてはボーッとしすぎじゃねぇの?」
「本当に寝不足なだけです。昔から、夢見が悪くて……今回は、それから逃げるわけにはいかないので」
二階堂さんが不思議そうな顔をしているけれど、過去の記憶がめめさんと坂倉さんの一件で思い出してしまった以上、子供の頃の記憶とはいえ、夢がその記憶の不確かなところを正確に見せようとしている。
それも毎日だ。
どういう事かは分からない。それでも、私に掛けられた父からの術の一つなのかもしれないと思う。
だったら、全てを記憶にとどめるまでは向き合うしかない。
「おはよーマノ~」
「おはよう。安寿。キュウリはガラスの器にあるよ」
「わーい。キュウリー」
河童の安寿は今日も元気にキュウリに噛り付き、しゃくしゃくといい音を立てている。
歩く水風船のようなボディの河童は突けばよく弾みそうな気がする。
指でぷにぷにと安寿のお皿を突くと「きゃああああ!」と大声を上げて、安寿は逃げていった。
「あれー?」
「おいおい。まののん、寝ぼけるにしても弱点を触るのはダメだろ?」
「弱点? お皿が?」
「河童の弱点は、昔から頭の皿って決まっているだろ?」
はて? そうだっただろうか? 水が乾くといけないとは聞いたことがあるけど……あとで安寿には謝らないといけない。
それはさておき、私はコロッケを作り、お味噌汁を温めてツナと大根のサラダを小皿へ盛り付けていく。
「麻乃。おはよう」
厨房のカウンターに御守さんが顔を出して、心配そうな顔で笑う。
「おはようございます。夜は心配をかけてしまって……すみません」
「いや、それは気にしなくていい。目の下に隈が出来ているな」
私は自分の目元を押さえたまま御守さんに頭を下げる。
ここ最近、私が夜中にうなされるのを見に来てくれて、御守さんに随分とお世話をかけているのだ。
しかし、優しい彼はその事を責めるでもなく、私が再び寝れるまで傍にいてくれる。
恋人……冥利に尽きると、言うべきなのかもしれない。
御守さんは、夢を忘れさせてくれる術を持ってはいるけれど、私がそれを拒んだために、私が眠るまで手を握っていてくれる。
優しい人なのだ。そう、昔から……
ほんの少しの寂しさと、それぞれの人生の執着地点を手伝った妖達は、また来年も来るのだろう。
私達、おおかみ宿舎の人々も日常へと戻っていった。
「まののーん。おーい。まののーん?」
ヒラヒラと目の前で手が上下に振られて、私はハッと顔を上げる。
二階堂さんが私の前で手を上げたまま小さく首をかしげていた。
そして、目の前のお鍋はボコボコと噴きこぼれる寸前で、慌てて火を止める。
「わっわっ! あっつ!」
「大丈夫かよ? まののん残暑疲れか?」
「あ、いえ……最近ちょっと寝不足で……あはは」
「寝不足ねぇ」
鍋の中で煮崩れてしまった肉じゃがのジャガイモを、ふぅとため息とともにお玉で掬い取ってボウルの中へと集めていく。
煮崩れてしまっては、煮つけとは言えない。
ここは予定変更で、このまま肉じゃがをマッシュポテト状にして肉じゃが風コロッケに変更してしまおう。
「まののん。大丈夫かよ? 最近、寝不足にしてはボーッとしすぎじゃねぇの?」
「本当に寝不足なだけです。昔から、夢見が悪くて……今回は、それから逃げるわけにはいかないので」
二階堂さんが不思議そうな顔をしているけれど、過去の記憶がめめさんと坂倉さんの一件で思い出してしまった以上、子供の頃の記憶とはいえ、夢がその記憶の不確かなところを正確に見せようとしている。
それも毎日だ。
どういう事かは分からない。それでも、私に掛けられた父からの術の一つなのかもしれないと思う。
だったら、全てを記憶にとどめるまでは向き合うしかない。
「おはよーマノ~」
「おはよう。安寿。キュウリはガラスの器にあるよ」
「わーい。キュウリー」
河童の安寿は今日も元気にキュウリに噛り付き、しゃくしゃくといい音を立てている。
歩く水風船のようなボディの河童は突けばよく弾みそうな気がする。
指でぷにぷにと安寿のお皿を突くと「きゃああああ!」と大声を上げて、安寿は逃げていった。
「あれー?」
「おいおい。まののん、寝ぼけるにしても弱点を触るのはダメだろ?」
「弱点? お皿が?」
「河童の弱点は、昔から頭の皿って決まっているだろ?」
はて? そうだっただろうか? 水が乾くといけないとは聞いたことがあるけど……あとで安寿には謝らないといけない。
それはさておき、私はコロッケを作り、お味噌汁を温めてツナと大根のサラダを小皿へ盛り付けていく。
「麻乃。おはよう」
厨房のカウンターに御守さんが顔を出して、心配そうな顔で笑う。
「おはようございます。夜は心配をかけてしまって……すみません」
「いや、それは気にしなくていい。目の下に隈が出来ているな」
私は自分の目元を押さえたまま御守さんに頭を下げる。
ここ最近、私が夜中にうなされるのを見に来てくれて、御守さんに随分とお世話をかけているのだ。
しかし、優しい彼はその事を責めるでもなく、私が再び寝れるまで傍にいてくれる。
恋人……冥利に尽きると、言うべきなのかもしれない。
御守さんは、夢を忘れさせてくれる術を持ってはいるけれど、私がそれを拒んだために、私が眠るまで手を握っていてくれる。
優しい人なのだ。そう、昔から……
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