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三章
血の王 エピソード
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敵も味方もそこにはなく、あるのはただ生き残りたいという必死な思いだけだった。
戦場で父親を亡くし、領主の座に就くしかなかった少年に選択肢などはあるはずもない。
自分の領民を守るために幾つもの選択と命を天秤にかけ、小さな小競り合いから戦場へ駆り出されること数回。
その間に少年は青年へとなり、戦場で必死に生き残る為に幾つもの命を刈り取った。
そして青年は、戦場の悪魔と呼ばれ、彼が戦場に出れば敵味方もなく血の雨が降る『吸血鬼』と呼ばれるようになった。
そんな彼に恐れをなして、縁談はことごとく破棄された。
誰でもいいから、世継ぎを儲けろ! と、口を尖らせる父の代から仕えている従者達にうんざりしつつ日々を過ごしていた。
休戦協定が結ばれ、久々に戦場を駆けなくてはいけない日々は、そんな口やかましい従者達から逃れる為に、一人森の中で狩りをしていた時に、妖精と見紛う様な女性と出会った。
女性は異国の者で、名をキユと名乗ったが発音の難しさから、キーユと呼んだ。
こげ茶色の髪の毛にアーモンド色の目が愛くるしく、恋に落ちるのも時間がかからなかった。
青年とキーユは結婚し、穏やかで幸せな日々が続いていくと思っていた頃、再び休戦協定は破られ、戦場へと青年は妻を残して……
青年とキーユの結婚生活は1年にも満たなかった。
ほんのつかの間の夫婦生活。
幸せは、零れ落ちると思った瞬間、もうすでに手から零れ落ちているもので、気づけば……自分の周りにあったものは血だまりだけだった。
「君は、誰を憎んでいるんだい?」
そう問われて、青年は「全て」と答えた。
問うた人物は少し悲しそうな眼をして、「そうか」と言い、その表情の中に青年は妻のキーユを見た気がした。
それ程までに整った人間離れした美しさが、その人物にはあった。
「君の帰りを待つ人は、居ないのかい?」
かつては居た。
守るべき領民達、屋敷に仕える従者達、そして妻のキーユ……
戦場で手柄を立て必死に生き残るためだけに戦った。
しかし、自分が手柄を上げれば上げるだけ、仲間であるはずの同盟の領主達の恨みを買った。
戦場から屋敷に帰った時、領民達の飲み水に毒が混ぜられ、領民は死に絶え、屋敷の者も殺されていた。
妻のキーユも……
目の前が赤く染まる__誰が、悪い?
誰が 誰が 誰が
頭の中は赤一色。
戦場で付けられた名と同じように、血だけを求めた。
幾つの命と血が周りで流れたのか、気づいた時には、『吸血鬼』から『血の王』と呼ばれていた。
何年経ったのか、何十年経ったのか、それすらもわからなくなっていた。
「僕の所へ来るかい?」
彼は少し困った顔で笑い「うちの職場は、万年人手不足なんだよ」と、人の髪の毛を鷲掴みにしたまま言った。
今、思えば……困った顔で笑いながら、人をボコボコにタコ殴りにしておいてスカウトしてくる辺り、非常にヤバい奴ではあったのだ。
彼__四聖獣の白虎、星夜に捕まったのは、幸運だったのか不幸だったのかは分からない。
御守スイとなったのは、自分が自分を無くして四百年は軽く過ぎていた。
二百年近くは星夜に顎で使われ、彼が亡くなった時、残ったのものは、彼の娘だけだった。
彼の娘は遠い昔に自分が顔を忘れてしまった妻に、どことなく似ているかもしれない。
戦場で父親を亡くし、領主の座に就くしかなかった少年に選択肢などはあるはずもない。
自分の領民を守るために幾つもの選択と命を天秤にかけ、小さな小競り合いから戦場へ駆り出されること数回。
その間に少年は青年へとなり、戦場で必死に生き残る為に幾つもの命を刈り取った。
そして青年は、戦場の悪魔と呼ばれ、彼が戦場に出れば敵味方もなく血の雨が降る『吸血鬼』と呼ばれるようになった。
そんな彼に恐れをなして、縁談はことごとく破棄された。
誰でもいいから、世継ぎを儲けろ! と、口を尖らせる父の代から仕えている従者達にうんざりしつつ日々を過ごしていた。
休戦協定が結ばれ、久々に戦場を駆けなくてはいけない日々は、そんな口やかましい従者達から逃れる為に、一人森の中で狩りをしていた時に、妖精と見紛う様な女性と出会った。
女性は異国の者で、名をキユと名乗ったが発音の難しさから、キーユと呼んだ。
こげ茶色の髪の毛にアーモンド色の目が愛くるしく、恋に落ちるのも時間がかからなかった。
青年とキーユは結婚し、穏やかで幸せな日々が続いていくと思っていた頃、再び休戦協定は破られ、戦場へと青年は妻を残して……
青年とキーユの結婚生活は1年にも満たなかった。
ほんのつかの間の夫婦生活。
幸せは、零れ落ちると思った瞬間、もうすでに手から零れ落ちているもので、気づけば……自分の周りにあったものは血だまりだけだった。
「君は、誰を憎んでいるんだい?」
そう問われて、青年は「全て」と答えた。
問うた人物は少し悲しそうな眼をして、「そうか」と言い、その表情の中に青年は妻のキーユを見た気がした。
それ程までに整った人間離れした美しさが、その人物にはあった。
「君の帰りを待つ人は、居ないのかい?」
かつては居た。
守るべき領民達、屋敷に仕える従者達、そして妻のキーユ……
戦場で手柄を立て必死に生き残るためだけに戦った。
しかし、自分が手柄を上げれば上げるだけ、仲間であるはずの同盟の領主達の恨みを買った。
戦場から屋敷に帰った時、領民達の飲み水に毒が混ぜられ、領民は死に絶え、屋敷の者も殺されていた。
妻のキーユも……
目の前が赤く染まる__誰が、悪い?
誰が 誰が 誰が
頭の中は赤一色。
戦場で付けられた名と同じように、血だけを求めた。
幾つの命と血が周りで流れたのか、気づいた時には、『吸血鬼』から『血の王』と呼ばれていた。
何年経ったのか、何十年経ったのか、それすらもわからなくなっていた。
「僕の所へ来るかい?」
彼は少し困った顔で笑い「うちの職場は、万年人手不足なんだよ」と、人の髪の毛を鷲掴みにしたまま言った。
今、思えば……困った顔で笑いながら、人をボコボコにタコ殴りにしておいてスカウトしてくる辺り、非常にヤバい奴ではあったのだ。
彼__四聖獣の白虎、星夜に捕まったのは、幸運だったのか不幸だったのかは分からない。
御守スイとなったのは、自分が自分を無くして四百年は軽く過ぎていた。
二百年近くは星夜に顎で使われ、彼が亡くなった時、残ったのものは、彼の娘だけだった。
彼の娘は遠い昔に自分が顔を忘れてしまった妻に、どことなく似ているかもしれない。
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