43 / 45
三章
当時のスイ③ スイ視点
しおりを挟む
マンションに戻り、玄関ホールで見たものは、聖獣の樹が根元から折れて枯れていた事だった。
「星、夜……? そんな、馬鹿な……」
聖獣の白虎が簡単に死ぬわけはない。
それでも、目の前に星夜の分身ともいえる樹は枯れて朽ち果てていた。
一度は落ちそうになったケーキを再び手に持つことができず、床でドサッと軽い音を立ててケーキの箱が落ちた。
樹に触れて、完全に望みの無い死んだ樹だと解った。
「お前は、そんな……弱い奴ではないだろう……?」
頬を流れた涙に、自分の涙は昔枯れ果てたと思っていただけに、人間らしさが残っていた事に驚いた。
そして気付く、小さな苗木がまだ枯れ果てていないことを。
「あの子は、生きているー……ッ!!」
マンションのベランダから身を乗り出し、空を駆ける。
普段ならば、大きな狼の姿に変化する能力も、星夜の制限のかかった枷が外れていた為に、かつての『血の王』『吸血鬼』としての能力が色濃く出た。
体の軽さと湧き上がる力に、せめて母子の無事を願わずにはいられなかった。
夥しい数の警察車両と消防車両……眼下に広がる燃える遊園地の赤が、ただ事ではないことを告げていた。
すでにテレビのニュースを見た関係者や、報道陣達で遊園地は想像以上に混雑していた。
「退いて下さい! 通ります!」
救急隊が運ぶ銀のシートに包まれた火傷を負った怪我人が運ばれるのを横目に、小百合と小さな姫を探す。
燃える遊園地の中で、微かな妖力を辿り、行きついた先で遊園地へ向かうあの子にあげたはずのウサギの人形が落ちていた。
自分がプレゼントした物だと解るのは、特注で作った物で、世界でただ一つ彼女の為だけのウサギだったからだ。
赤い目にはピジョットブラッドの最高級ルビーを使った大人げないプレゼント。
彼女の名を叫ぶように呼び続け、鎮火した後で瓦礫と化した燃えカスから見つけられた物は何もなかった。
生き残った火災の被害者の中に、彼女を見つけきれなかった。
それでも、彼女の帰りを待っている。
残った物は、小さな苗木だけだった。
彼女の苗木なのかどうかも分からない不思議な苗木を抱え、ただ彼女の無事と苗木を守るためだけに『おおかみ宿舎』をマンションを全て買い取って建てた。
妖だけの聖域のような場所を。
彼女を守れる場所を、帰る場所を確保しておきたかった。
十五年の月日を費やして、彼女に掛けられた星夜の術が解け始め、ようやく彼女を見つけ出すことができた。
苗木はあの時のまま小さな苗木だったが、それでも、彼女の無事な姿を見た時、信じて守ってきて良かったと心の底から安堵した。
「星、夜……? そんな、馬鹿な……」
聖獣の白虎が簡単に死ぬわけはない。
それでも、目の前に星夜の分身ともいえる樹は枯れて朽ち果てていた。
一度は落ちそうになったケーキを再び手に持つことができず、床でドサッと軽い音を立ててケーキの箱が落ちた。
樹に触れて、完全に望みの無い死んだ樹だと解った。
「お前は、そんな……弱い奴ではないだろう……?」
頬を流れた涙に、自分の涙は昔枯れ果てたと思っていただけに、人間らしさが残っていた事に驚いた。
そして気付く、小さな苗木がまだ枯れ果てていないことを。
「あの子は、生きているー……ッ!!」
マンションのベランダから身を乗り出し、空を駆ける。
普段ならば、大きな狼の姿に変化する能力も、星夜の制限のかかった枷が外れていた為に、かつての『血の王』『吸血鬼』としての能力が色濃く出た。
体の軽さと湧き上がる力に、せめて母子の無事を願わずにはいられなかった。
夥しい数の警察車両と消防車両……眼下に広がる燃える遊園地の赤が、ただ事ではないことを告げていた。
すでにテレビのニュースを見た関係者や、報道陣達で遊園地は想像以上に混雑していた。
「退いて下さい! 通ります!」
救急隊が運ぶ銀のシートに包まれた火傷を負った怪我人が運ばれるのを横目に、小百合と小さな姫を探す。
燃える遊園地の中で、微かな妖力を辿り、行きついた先で遊園地へ向かうあの子にあげたはずのウサギの人形が落ちていた。
自分がプレゼントした物だと解るのは、特注で作った物で、世界でただ一つ彼女の為だけのウサギだったからだ。
赤い目にはピジョットブラッドの最高級ルビーを使った大人げないプレゼント。
彼女の名を叫ぶように呼び続け、鎮火した後で瓦礫と化した燃えカスから見つけられた物は何もなかった。
生き残った火災の被害者の中に、彼女を見つけきれなかった。
それでも、彼女の帰りを待っている。
残った物は、小さな苗木だけだった。
彼女の苗木なのかどうかも分からない不思議な苗木を抱え、ただ彼女の無事と苗木を守るためだけに『おおかみ宿舎』をマンションを全て買い取って建てた。
妖だけの聖域のような場所を。
彼女を守れる場所を、帰る場所を確保しておきたかった。
十五年の月日を費やして、彼女に掛けられた星夜の術が解け始め、ようやく彼女を見つけ出すことができた。
苗木はあの時のまま小さな苗木だったが、それでも、彼女の無事な姿を見た時、信じて守ってきて良かったと心の底から安堵した。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる