おおかみ宿舎の食堂でいただきます

ろいず

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三章

二人の話

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 スイと私、二人の十五年は話し合いでお互いに眉を下げることしかできない。
 私を守る為の透明化は、父の愛が強すぎてスイすらも敵だと弾いてしまっていたのだから、父はどれだけスイが私を、私がスイを、お互いにこうして好き合ってしまう事を危険視していたのだろう?

「オレの妖力は、星夜の制御がなければ……少し、危険なものだという事も関係していたのだろう」
「そんなに危ないのですか?」
「普通に、吸血鬼は世界的に有名すぎて、常に力は湧き出る泉のようなものだ」

 確かに、少しの違いはあれど、吸血鬼ほど有名な妖もいないだろう。
 スイを見上げると、私の髪をいて指に髪を絡めとる。
 やはりスイは昔から、格好がいい……と、ほだされている場合でもない。
 左右に頭を振って、スイが未だに父の眷属のままの姿でいる事に不思議に思う。

「スイ。吸血鬼には戻らないのですか?」
「オレが吸血鬼だと知っているのは、この宿舎でも一握りだ。これは、オレの切り札のようなものだからな」
「血が欲しいとか……無いの?」
「それは無い。むしろ、オレの能力は出血死させるような野蛮なものだ」

 あ、それは怖いかもしれない。
 血の王とか言われているような妖だし、吸血鬼のカテゴリーでも少しだけ違う部類の人なのかもしれない。
 怒らせないようにしよう。これは大事。

「スイは、犯人は誰だと思っていましたか?」
「証拠がない為に、捕まえることができなかったが、青龍。あいつしか考えられないな」

 やはりスイも、犯人までたどり着いていたようだ。

 小さな私をおびき寄せた男___青龍。
 見た目は子供のような姿かたちをしているのに、ずっと昔から生きている妖。
 母の血縁者。
 青龍、四聖獣の一人。

「私をおびきよせたのも、青龍です」
「やはりか……聖獣同士の能力は、ほぼ変わらないからな。星夜が、麻乃の父親がそう簡単にはやられるわけがない」

 その言葉に私は首を振る。
 それは違う。父は青龍より強かった……私が足手まといになって、父の戦闘の邪魔になったのだ。
 
「私が、私が勝手に動いて、父を、母を、殺してしまったの……スイから父を奪ったのは、私なの……」

 あの日の事を思い出して、スイに顔向けが出来なくて顔をそらす。
 私が白虎という妖を消滅させたしまった。子供とはいえ、父も母も、私を見捨てるべきだったのだ。

「麻乃のせいではない。オレよりも、両親を失って悲しかったのは、麻乃の方だろう?」
「私が、人形を落として……我が儘を言ったの。父は母と私を逃がす為に囮になったのに、母は私を守ろうとして目の前で火に巻かれて、私も服に火が移って……父は、母より私を助けることを優先させて」
「分かった。でも、麻乃が悪いわけではない。子を助けるのは親としては当たり前の事だ」

 きっと正論で言うのならば、私もその言葉を別の立ち位置ならば口に出すだろう。
 でも当事者になってしまえば、そんな言葉は口には出せない。私は自分の両親を自分の我が儘で失ったのだ。
 取り返しのつかない事だ。
 スイは私を慰めようとするけれど、その慰めが嬉しくもあり、逆に私をさいなんでしまう。
 私の目からあふれる涙を着物の袖で押し当てて拭きながら、スイは酷く心配した顔をする。
 
「私、スイに優しくされる資格、無い……」
「馬鹿だな。そんな風に言われて、おいそれと麻乃を手放すことも離れることも出来はしないぞ?」
「……ごめんなさい。ありがとう、スイ」
「あの日、何があった?」

 あの日__私は青龍がふんしたスイに釣られて、父と母が止める暇もなく駆けだしていた。
 青龍は言った『お前が次の青龍か。全然そうは見えないな』と……
 スイではないと気付いた私は逃げようとしたけれど、青龍に人質のように捉えられ、そこで人形を手から落としてしまった。
 父が青龍から私を救い出してくれ、母と一緒に逃げろと言われたのに……私は人形を取りに戻ろうとして、母が私を庇い炎の中で叫んでいた。
 断末魔の叫びは『逃げて!』だった。
 父の治癒の能力ならば、母を助けられたかもしれない。
 けれど、私を助けた。
 そして私に透明化の術をかけ、母のもとへと行ってしまった。
 父はそれほどに母を愛していたし、母を一人にさせたくなかったのだろう。

 私は思い出せる限り、スイにそれを話した。 
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