天使メイドは吸血姫と蕩け行く? ~TS少女が吸血鬼を強くする旅に出たら、仲良しガチ百合パーティになりました~

ナギ@にわか

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3.歪な関係の始まり

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「よしよし……怒ってないですから、もう泣かないで下さい」
「ほ、本当ですの……?」
「はい。事情があるのは何となく分かってますから」

 どうして、唇を奪われた方が慰めているのか、これが自分でもよく分からない。

 ……まぁ、エリーゼさんが泣きながら胸に顔を埋めてきましたし、役得だと思っておきましょうか。胸があるのは変な気分ですけどね。

「……大きいですわね」
「嫌味か何かですか?」
「?  どういうことですの? 受け入れて下さったのですし、エルシアさんの器が大きいというのは本音ですわよ?」
「あ、いえ、なんでもありません……」

 てっきり胸の話かと。
 エリーゼさんはかなり豊かというか、ボクと比べたら圧勝出来てしまうくらいに大きい。それを押し付けられていたので意識してしまうのも無理はないと思いたい。

「みんな、怖がってしまうか、壊れてしまいますもの……」
「怖がるはともかく……壊れる、ですか?」
「そうですわ。わたくしは先祖返りの吸血鬼。見るだけで魅了してしまう、恐ろしいスキルを持っていますの」
「むしろボクはエリーゼさんに襲われたんですが……」
「うっ……それは、吸血衝動のせいで……だいたい、エルシアさんが綺麗すぎるのがいけないんですわっ!」

 ここでまさかの逆切れ。
 恥ずかしくてしょうがないのは分かるけど、腕に力を込められると双丘が更に潰れてしまう。お礼を言った方がいいだろうか?

「魅了の影響を受けない方が、こんなに綺麗な女性だなんておかしいですのっ!」
「エリーゼさんも凄く綺麗ですよ?」
「ありがとうございますわっ! でも、でもっ、わたくしはあなたに……!」
「ボクに……?」

 そこで馬車の揺れが止まる。最初は揺れでお尻が痛くなりそうだなんて思っていた。けれど、状況が状況だったためお尻のことなんて意識せずに済んでいたらしい。
 実際、今は少し痛い。

 しかし、問題はエリーゼさんだ。
 扉に手をかけた音が聞こえたのと、エリーゼさんが口を開くのはほぼ同時。間に合わないことは無いだろうけど、面白そうなのであえて止めずに置く。

「初めて魅了されなかったあなたに、わたくしの全てを捧げると決めておりましたのよっ!?」
「……え?」

「ほぅ……お嬢様はそのようなことを思っておられたのですか。じいは、少し寂しゅうございます……」
「エルシア嬢に感謝していいものか、難しいところですな……」
「きゃぁぁぁっ!?」

 聞かれていたことに悲鳴をあげつつ、呆けていたボクの胸に顔を押し付ける。ちょっと予想外の発言に思考停止しかけてしまった。

 初めて魅了されなかった、という部分は理解出来る。天使だからなのか、ステータスが高いからなのかは分からないけど。
 それより、問題は「全て捧げる」の方だ。

 ……初対面の、しかも女の子のボクにですか?

 嫌かと言われれば、そんなことは無い。
 いきなりキスをされても受け入れられるくらいにはありだと思っている。エリーゼさんのよつに一目惚れ、とまではいかなくとも、気になってはいた。

 でも、相手は貴族の娘。
 一般人……一般天使? のボクでは釣り合わない。困った。嫌じゃないからこそ困った。

「と、とりあえず……エリーゼさん、馬車から降りませんか?」
「嫌ですの……今エルシアさんから離れてしまったら、羞恥心で死んでしまいますの!」
「えぇ……」

 生暖かい目と微妙な目で見られるこっちの身にもなって欲しい。ちなみに、前者が老執事の人で後者がバルディアさんだ。

「仕方ありませんね……離れずに降りますから、首にしっかり掴まって下さい」
「は、はいですわ」

 何をするのか察したらしく、頬を染めながらボクの首に手を回す。それを確認すると、エリーゼさんを持ち上げた。
 ……お姫様抱っこで。

 筋力が高いお陰ではあるけど、それを抜きにしてもエリーゼさんは軽い。持ち上げて馬車を降りても負担にはならなかった。

 お姫様抱っこを終えると、

「……もうお終いですの?」
「ボクは構いませんけど、お屋敷の皆さんに見られても平気なんですか?」
「……また今度にしますの」

 またするのは決定なんですかそうですか。
 すると、顔を赤くしたまま、バルディアさんたちから隠れるようにボクの後ろへ。袖を摘んでいるところがなんとも可愛らしい。

「せ、セバスティアン、エルシアさんはわたくしのお客様ですわ……しっかりおもてなしなさい」
「承知しました」

 エリーゼさんが震える声でそう言うけど、ボクは全く違うところが気になっていた。
 セバスティアン。非常に惜しい、と。
 セバスチャンなら完全無欠な執事だったのに。

 と、ボクがそんなことを考えている間に、お風呂に入ることが決まっていた。昼間からお風呂に入るとは、さすが貴族。やっぱりメイドとかに洗ってもらうのだろうか。

「ほら、行きますわよ」
「……ボクもですか?」
「別々に入る理由がありませんの。それに……洗いっこ、というものをしてみたいのですわ!」

 洗いっこ。どうしてか分からないけど卑猥な感じがする。きっと、襲われたばかりだからに違いない。

 まぁ、もし一線を超えてしまうようなことがあれば、責任を取ってもらうという体で恋人になればいい。

 さすがに、そんなことは無いと思いますけど……

「あれ? メイドさんとかは来ないんですね」
「洗いっこをしてみたいと言ったでしょう? それに、エルシアさんと2人っきりがいいですわ」
「……お友達になりたいとは一体」
「そんな昔のことは覚えていませんわね」

 こうしてぐいぐい来てくれるのは嬉しい。
 積極的にこういうことをする質ではないけど、嫌いという訳でもない。求められればキスくらいは受け入れるだろうし、もしかしたらその先も……

 余計なことを考えるのはやめておこう。

 変な気分になってしまったら困りますから。

 中を歩いていても思うけど、エリーゼさんの家はかなり大きいお屋敷だ。その割に田舎のような場所なのは、これでも小さい方だからだったりするのだろうか。
 そうだとすれば、一番高い爵位だとお城のようになるかもしれない。

「エルシアさん、考え事ですの?」
「あ、えと……ごめんなさい」
「謝らなくていいですわ。その代わり、こうして手を繋がせていただきますの」
「……何だか、開き直ってません?」
「な、なんのことですの?」

 手をにぎにぎ、更にデレデレしながら進むエリーゼさん。ボクの質問に対してぎくっと聞こえてきそうな反応をしたため、全く誤魔化せていない。

 ……あんまり幸せそうだから、今まで流していたことを聞いてみたくなった。

「……ボクじゃなくても、よかったんじゃないですか?」

 ボク以外でも、どんな人間でも好きになっていたのではないか。そう思うと、ボクはエリーゼさんの気持ちをちゃんと受け止められない。
 そんな気がします。

「分かりませんわ」
「……え?」
「正直に言うと、魅了されなかった方に自分の全てを捧げるというのは、自暴自棄故の行動なんですの。誰も居ない、死ぬまでひとりぼっち、本当に居るなら全部差し上げます、と」

 その割には、凄く楽しそうだと思う。
 自暴自棄になっているようには見えないし、ボクを見つめる目には強い輝きがある。

「わたくしは、あなたに会えたことが嬉しいのだと思います。綺麗だからなのか、強いからなのか……それは分かりません。でも、あなたを見た瞬間に胸がざわついて、傍に居られることが嬉しくて堪らない……。だから、遊びでも、愛人でも構いません。わたくしをお傍に置いてください」

 口調を変えてまで真剣に言葉を募らせる。
 気持ちの生まれ方が変だと分かっているからこそ、遊びや愛人という言葉が出てくるのだろう。
 けれど、胸がざわつく感覚。全く同じことを感じていたボクは、彼女と居るべきなのか、そうでないのかが分からず……断る理由なんて無いと、自分に言い聞かせるようにそう思った。

「……えっちなこととか、いっぱいしちゃいますよ?」
「わたくしにとってはご褒美ですわ」
「アブノーマルなご奉仕とか、させちゃうかもしれません」
「どんとこいですわ」
「……ずっと、一緒ですか?」
「勿論ですの。エルシアさんがおばあさんになっても、若い姿のままお世話してあげますわ」
「ふふ、それだと介護ですよ」

 思わず笑ってから、『天使だから老いないのでは?』と気づく。詳細は分からないけど、100年程度でひとりぼっちにさせてしまうことはなさそうだ。

「大切にします。……エリーゼ」
「嬉しいですわ。……エルシア」

 照れくささを感じながら、寄り添って歩く。

 こんな歪な関係も、悪くないかもしれません。
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