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クロイティル編
ep.36 冒険者登録と、思わぬ試験
教会の裏手から大通りへ戻り、ロゼリア様に教えてもらった道を進む。
太陽は既に西へ傾き、行き交う人々の中には、武器や革鎧を身につけた姿が増えていた。
「そろそろ夕方か。思ったより長く話していたな」
「そうだね。でも、聞きたかったことは聞けたし、冒険者ギルドも紹介してもらえたからよかった」
瑛太さんと話しながら歩いていると、前方に大きな二階建ての建物が見えてきた。
入口の上には、交差する剣と盾が描かれた看板が掲げられている。
「あそこだ」
ガイルの言葉に頷き、隣を歩くルクスへ目を向ける。
扉の前では、武器を背負った人たちが絶えず出入りしていた。
中で勝手に動かないよう、先に伝えておいた方がよさそうだ。
「ルクス、中では瑛太さんのそばにいてね」
「ウォン」
ルクスは短く鳴き、瑛太さんの横へ並んだ。
そのまま扉をくぐると、いくつもの話し声が重なって聞こえてくる。
建物の中は想像していた以上に広かった。
正面には複数の受付が並び、右側の壁には依頼書らしき紙が貼られている。
左側は酒場になっており、奥には魔物の素材や木箱が置かれた買取所も見えた。
私たちが入った途端、周囲から視線が集まった。
エルフが二人に、赤髪の大剣使い。
それにルクスまで一緒なのだから、目立つのは仕方がないのだろう。
しばらくすると興味を失ったように顔を戻す人もいたけれど、酒場にいる何人かはまだこちらを見ていた。
「まずは受付だ。行くぞ」
ガイルに促され、空いている受付へ向かう。
そこに座っていたのは、艶のある黒髪を顎の辺りで切り揃えた女性だった。
切れ長の緑色の瞳から、冷静で隙のない印象を受ける。
「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録をお願いしたいのですが、回復魔法の練習についても、こちらで相談できるとロゼリア様から伺いました」
「聖女ロゼリア様から、ですか?」
「はい。教会では練習できないため、こちらへ相談するよう勧めていただきました」
女性は少し驚いた様子を見せたものの、それ以上は尋ねず、私たちを順番に確かめた。
「承知いたしました。私は受付を担当しております、セレナと申します。回復魔法については登録後に伺いますので、まずはこちらへご記入ください」
三枚の用紙と筆記具を渡される。
記入するのは、名前や種族、冒険者歴、使用する武器や魔法などだった。
ルクスについて尋ねると、人と同じ冒険者ではなく、瑛太さんの従魔として登録するらしい。
武器の欄は、現在持っていなくても、今後使う予定のものを書いてよいとのことだった。
そこで、私は杖、瑛太さんは弓と記入する。
ガイルは大剣とだけ書き、誰よりも早く筆を置いた。
次に使用魔法の欄へ移り、私は筆を止めた。
ウォーターボールとファイアボールは使える。
けれど、回復魔法はスキルを習得しているものの、スペルジェムを使わずに発動した経験がなかった。
「回復魔法は、習得済みでも発動経験なしと書けばよいでしょうか?」
「はい。使用可能な魔法として記入したうえで、そのように補足してください」
言われたとおりに書き加える。
瑛太さんは自分の魔法とルクスの情報を記入し、最後に三枚の用紙をまとめてセレナさんへ渡した。
内容を確認していたセレナさんは、ガイルの用紙で手を止めた。
過去の冒険者歴はなし。
それにもかかわらず、背負っている大剣にも本人の立ち方にも、武器を使い慣れていない様子はない。
何か気になったようだったけれど、まずは用紙を揃えて説明を始めた。
冒険者ランクは、下からF、E、D、C、B、A、S、SSの八段階に分かれている。
登録したばかりの者は原則としてFランクから始まり、依頼の達成数や内容、ギルドからの信用を積み重ねることで昇格するという。
「冒険者証は、他の街でも身分証として使用できます。紛失には十分お気をつけください」
街へ入るたびに身分を説明せずに済むなら、登録する利点は大きい。
食材や素材を探しに街の外へ出る時には、採取や討伐の依頼も受けられるかもしれない。
「皆様は、三名と一匹で活動される予定でしょうか?」
「今のところは、そのつもりです」
「でしたら、パーティーとして登録できます。ただ、用紙の内容だけでは皆様の実力を判断できません。通常どおりFランクから始めることもできますが、ご希望であれば、登録時に実力試験を受けていただけます」
「試験の結果によって、最初のランクが変わるんですか?」
「はい。ただし、実力だけで上級ランクになれるわけではありません。冒険者には、依頼を任せられるだけの信用も必要です。確認できる経歴や実績がなければ、登録時に認められるランクには上限があります」
戦えることと、仕事を任せられることは同じではない。
その説明には納得できたけれど、私たちが実力試験を受ける必要まであるのかは分からなかった。
「回復魔法の練習についても、まず真由様の魔力操作や、危険が生じた時の対応を確認した方がよいでしょう」
そう説明してから、セレナさんはガイルへ目を向けた。
「それから、特にそちらの方は――」
「おい、セレナ」
酒場の方から、低く太い声が割り込んだ。
振り返ると、杯を片手にした男性がこちらへ歩いてくる。
ハルグリムに負けないほどがっしりした身体つきで、背には巨大な斧を担いでいた。
「黒曜様。まだお話の途中です」
「聞いてたから来たんだ。そこの赤髪を、本当に新人と同じ扱いにするつもりか?」
黒曜と呼ばれた男性は、真っすぐガイルを見ていた。
私や瑛太さんにはほとんど目を向けず、大剣や立ち方を確かめるように視線を動かしている。
一方のガイルは、明らかに面倒そうな顔をしていた。
「登録方法を決めるのはご本人です。黒曜様が口を挟むことではありません」
「なら、実力試験を勧めろ。どう見ても新人の立ち方じゃないだろ」
「既にご案内しているところです。それと、声を抑えてください」
「俺は普通に話してる」
酒場の人たちまでこちらを見ている以上、普通とは言い難い。
それでも黒曜は気にした様子もなく、ガイルへ向き直った。
「お前、試験を受けろ。相手なら俺がやる」
「断る。面倒だ」
「何だと?」
「聞こえただろ。酔っ払いの相手をしに来たわけじゃない」
背後の酒場から、小さな笑い声が漏れる。
怒り出すのではないかと身構えたけれど、黒曜は口元を上げ、むしろ楽しそうにガイルを見ていた。
「そこまで言うなら、なおさら確かめたくなった。逃げるなよ」
「勝手に決めるな」
ガイルに無理をさせる必要はない。
けれど、私は実力試験という言葉が気になっていた。
これまでの訓練は主にガイルに見てもらっている。
指摘は的確だけれど、私たちの癖も使える魔法も知ったうえで教えてくれていた。
初めて相手をする人に、今の魔法がどこまで通用するのか。
回復魔法を練習する前に、魔力の扱い方や自分に足りないものを確認しておくことにも意味はあるはずだ。
「ガイル、受けたくないなら無理に受けなくてもいいと思います。でも、私は試験を受けてみたいです。今の自分に何が足りないのか、知っておきたいので」
「俺も受けよう。ルクスとの動きを、外から見てもらえる機会は少ない」
瑛太さんが答えると、ルクスも同意するように短く鳴いた。
ガイルは私たちを見比べ、諦めたように息を吐く。
「奥様と旦那様が受けるなら、俺だけ断るわけにもいかないか」
「決まりだな。セレナ、訓練場を使わせろ」
「黒曜様が決めたのではありません」
セレナさんの声は変わらず静かだったけれど、黒曜を見る目が少しだけ鋭くなる。
「真由様には魔法の扱いと適性、瑛太様にはルクス様との連携を確認します。ガイル様の試験相手を黒曜様が務めることも認めます。ただし、施設を壊さないと約束してください」
「壊さなければいいんだろ」
「破損させた場合は、どちらが壊したかに関係なく、修理費を黒曜様に全額請求いたします」
黒曜だけでなくガイルまで警戒されているらしい。
黒曜は愉快そうに笑って杯の酒を飲み干し、ガイルは面倒そうな顔のまま何も答えなかった。
セレナさんは別の職員へ受付を任せ、私たちを建物の奥へ案内する。
通された先には、土を固めた広い訓練場があった。
壁際には木製の的や訓練用の武器が並び、何人かの冒険者が身体を動かしている。
黒曜が巨大な斧を肩へ担いで入ってくると、周囲にいた人たちは何も言われないうちに端へ場所を空けた。
どうやら、ただの酔っ払いではないらしい。
「それでは、最初に真由様の魔法を確認いたします」
「分かりました」
セレナさんに示された場所へ進み、少し離れた木の的へ右手を向ける。
登録用紙へ名前を書くだけのつもりだったのに、思っていた以上に大がかりなことになってしまった。
呼吸を整え、掌へ魔力を集める。
訓練場の端では、黒曜が待ちきれない様子でガイルを見ていた。
太陽は既に西へ傾き、行き交う人々の中には、武器や革鎧を身につけた姿が増えていた。
「そろそろ夕方か。思ったより長く話していたな」
「そうだね。でも、聞きたかったことは聞けたし、冒険者ギルドも紹介してもらえたからよかった」
瑛太さんと話しながら歩いていると、前方に大きな二階建ての建物が見えてきた。
入口の上には、交差する剣と盾が描かれた看板が掲げられている。
「あそこだ」
ガイルの言葉に頷き、隣を歩くルクスへ目を向ける。
扉の前では、武器を背負った人たちが絶えず出入りしていた。
中で勝手に動かないよう、先に伝えておいた方がよさそうだ。
「ルクス、中では瑛太さんのそばにいてね」
「ウォン」
ルクスは短く鳴き、瑛太さんの横へ並んだ。
そのまま扉をくぐると、いくつもの話し声が重なって聞こえてくる。
建物の中は想像していた以上に広かった。
正面には複数の受付が並び、右側の壁には依頼書らしき紙が貼られている。
左側は酒場になっており、奥には魔物の素材や木箱が置かれた買取所も見えた。
私たちが入った途端、周囲から視線が集まった。
エルフが二人に、赤髪の大剣使い。
それにルクスまで一緒なのだから、目立つのは仕方がないのだろう。
しばらくすると興味を失ったように顔を戻す人もいたけれど、酒場にいる何人かはまだこちらを見ていた。
「まずは受付だ。行くぞ」
ガイルに促され、空いている受付へ向かう。
そこに座っていたのは、艶のある黒髪を顎の辺りで切り揃えた女性だった。
切れ長の緑色の瞳から、冷静で隙のない印象を受ける。
「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録をお願いしたいのですが、回復魔法の練習についても、こちらで相談できるとロゼリア様から伺いました」
「聖女ロゼリア様から、ですか?」
「はい。教会では練習できないため、こちらへ相談するよう勧めていただきました」
女性は少し驚いた様子を見せたものの、それ以上は尋ねず、私たちを順番に確かめた。
「承知いたしました。私は受付を担当しております、セレナと申します。回復魔法については登録後に伺いますので、まずはこちらへご記入ください」
三枚の用紙と筆記具を渡される。
記入するのは、名前や種族、冒険者歴、使用する武器や魔法などだった。
ルクスについて尋ねると、人と同じ冒険者ではなく、瑛太さんの従魔として登録するらしい。
武器の欄は、現在持っていなくても、今後使う予定のものを書いてよいとのことだった。
そこで、私は杖、瑛太さんは弓と記入する。
ガイルは大剣とだけ書き、誰よりも早く筆を置いた。
次に使用魔法の欄へ移り、私は筆を止めた。
ウォーターボールとファイアボールは使える。
けれど、回復魔法はスキルを習得しているものの、スペルジェムを使わずに発動した経験がなかった。
「回復魔法は、習得済みでも発動経験なしと書けばよいでしょうか?」
「はい。使用可能な魔法として記入したうえで、そのように補足してください」
言われたとおりに書き加える。
瑛太さんは自分の魔法とルクスの情報を記入し、最後に三枚の用紙をまとめてセレナさんへ渡した。
内容を確認していたセレナさんは、ガイルの用紙で手を止めた。
過去の冒険者歴はなし。
それにもかかわらず、背負っている大剣にも本人の立ち方にも、武器を使い慣れていない様子はない。
何か気になったようだったけれど、まずは用紙を揃えて説明を始めた。
冒険者ランクは、下からF、E、D、C、B、A、S、SSの八段階に分かれている。
登録したばかりの者は原則としてFランクから始まり、依頼の達成数や内容、ギルドからの信用を積み重ねることで昇格するという。
「冒険者証は、他の街でも身分証として使用できます。紛失には十分お気をつけください」
街へ入るたびに身分を説明せずに済むなら、登録する利点は大きい。
食材や素材を探しに街の外へ出る時には、採取や討伐の依頼も受けられるかもしれない。
「皆様は、三名と一匹で活動される予定でしょうか?」
「今のところは、そのつもりです」
「でしたら、パーティーとして登録できます。ただ、用紙の内容だけでは皆様の実力を判断できません。通常どおりFランクから始めることもできますが、ご希望であれば、登録時に実力試験を受けていただけます」
「試験の結果によって、最初のランクが変わるんですか?」
「はい。ただし、実力だけで上級ランクになれるわけではありません。冒険者には、依頼を任せられるだけの信用も必要です。確認できる経歴や実績がなければ、登録時に認められるランクには上限があります」
戦えることと、仕事を任せられることは同じではない。
その説明には納得できたけれど、私たちが実力試験を受ける必要まであるのかは分からなかった。
「回復魔法の練習についても、まず真由様の魔力操作や、危険が生じた時の対応を確認した方がよいでしょう」
そう説明してから、セレナさんはガイルへ目を向けた。
「それから、特にそちらの方は――」
「おい、セレナ」
酒場の方から、低く太い声が割り込んだ。
振り返ると、杯を片手にした男性がこちらへ歩いてくる。
ハルグリムに負けないほどがっしりした身体つきで、背には巨大な斧を担いでいた。
「黒曜様。まだお話の途中です」
「聞いてたから来たんだ。そこの赤髪を、本当に新人と同じ扱いにするつもりか?」
黒曜と呼ばれた男性は、真っすぐガイルを見ていた。
私や瑛太さんにはほとんど目を向けず、大剣や立ち方を確かめるように視線を動かしている。
一方のガイルは、明らかに面倒そうな顔をしていた。
「登録方法を決めるのはご本人です。黒曜様が口を挟むことではありません」
「なら、実力試験を勧めろ。どう見ても新人の立ち方じゃないだろ」
「既にご案内しているところです。それと、声を抑えてください」
「俺は普通に話してる」
酒場の人たちまでこちらを見ている以上、普通とは言い難い。
それでも黒曜は気にした様子もなく、ガイルへ向き直った。
「お前、試験を受けろ。相手なら俺がやる」
「断る。面倒だ」
「何だと?」
「聞こえただろ。酔っ払いの相手をしに来たわけじゃない」
背後の酒場から、小さな笑い声が漏れる。
怒り出すのではないかと身構えたけれど、黒曜は口元を上げ、むしろ楽しそうにガイルを見ていた。
「そこまで言うなら、なおさら確かめたくなった。逃げるなよ」
「勝手に決めるな」
ガイルに無理をさせる必要はない。
けれど、私は実力試験という言葉が気になっていた。
これまでの訓練は主にガイルに見てもらっている。
指摘は的確だけれど、私たちの癖も使える魔法も知ったうえで教えてくれていた。
初めて相手をする人に、今の魔法がどこまで通用するのか。
回復魔法を練習する前に、魔力の扱い方や自分に足りないものを確認しておくことにも意味はあるはずだ。
「ガイル、受けたくないなら無理に受けなくてもいいと思います。でも、私は試験を受けてみたいです。今の自分に何が足りないのか、知っておきたいので」
「俺も受けよう。ルクスとの動きを、外から見てもらえる機会は少ない」
瑛太さんが答えると、ルクスも同意するように短く鳴いた。
ガイルは私たちを見比べ、諦めたように息を吐く。
「奥様と旦那様が受けるなら、俺だけ断るわけにもいかないか」
「決まりだな。セレナ、訓練場を使わせろ」
「黒曜様が決めたのではありません」
セレナさんの声は変わらず静かだったけれど、黒曜を見る目が少しだけ鋭くなる。
「真由様には魔法の扱いと適性、瑛太様にはルクス様との連携を確認します。ガイル様の試験相手を黒曜様が務めることも認めます。ただし、施設を壊さないと約束してください」
「壊さなければいいんだろ」
「破損させた場合は、どちらが壊したかに関係なく、修理費を黒曜様に全額請求いたします」
黒曜だけでなくガイルまで警戒されているらしい。
黒曜は愉快そうに笑って杯の酒を飲み干し、ガイルは面倒そうな顔のまま何も答えなかった。
セレナさんは別の職員へ受付を任せ、私たちを建物の奥へ案内する。
通された先には、土を固めた広い訓練場があった。
壁際には木製の的や訓練用の武器が並び、何人かの冒険者が身体を動かしている。
黒曜が巨大な斧を肩へ担いで入ってくると、周囲にいた人たちは何も言われないうちに端へ場所を空けた。
どうやら、ただの酔っ払いではないらしい。
「それでは、最初に真由様の魔法を確認いたします」
「分かりました」
セレナさんに示された場所へ進み、少し離れた木の的へ右手を向ける。
登録用紙へ名前を書くだけのつもりだったのに、思っていた以上に大がかりなことになってしまった。
呼吸を整え、掌へ魔力を集める。
訓練場の端では、黒曜が待ちきれない様子でガイルを見ていた。
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