あなたの愛人、もう辞めます

abang

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どうしても折れないもの

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華やかすぎる会場に内心、身がたじろいた。


きっと表情や所作には出ていないだろうけれど真っ赤な絨毯の真ん中を歩くのも美しい照明に照らされるのも私には似合わないとさえ感じた。



嫌悪、軽蔑、嘲笑、好奇……



向けられて当然の感情だと思っている。


私が愛した人はそういう人だったのだから。



何も初めからそうではなかったーー。


私とカルヴィンは普通に恋をしていたはずで、そのまま家族になって行くのだと信じて疑ったことは無かった。


きっとずっと一緒だと信じていたからこそ、少しの可能性に縋りたかったのかもしれないし「愛してる」という気持ちを捨て切れなかったのかもしれない。


彼を、愛した人を信じたかった。

カルヴィンを待ち続けたのは、ただそう言う理屈じゃない曖昧な理由だった。

結局、待つ理由も価値もない男だった訳だけれど……



私の周囲に親切な人だった。

家族を大切にしてくれる優しい人だった。

独占欲が強くて、支配欲の強い人だけれど、嘘つきでは無かった。そんな彼が好きだった。



けれど、少しずつ変化していたことに気付いていなかったのは私だけだった。



今になって仕舞えば、全て嘘だったのかもしれないとさえ思っているし、カルヴィンの事は勿論もう愛していない。


初めに知ったのが噂だったとはいえ、婚約者の彼女にも申し訳ないと思っている。


カルヴィンの決めた場所にしか顔を出せなかった私は彼に聞く他真実を知ることは出来ないというのに、

当時の私は、勇気が無くて彼を問い詰めるのにかなり時間をかけてしまったのだから。


そして、真実を知ってもなお彼への気持ちを捨て切れなかったーー。



全ての言葉や視線、無関係な悪意までも罰として受け入れるつもりでいるけれど私にとっては、あんな男だとしても初恋だった。


初めて人を愛したあの気持ちを否定してあげたくない。

いけない事だった、そうなってしまった、けれど……


私が私を否定してしまえば、もう二度と立てない気がするから。

この背を曲げることはしない。



私はリベルテ・シャンドラなのだから。



後悔をしなかった訳でもないが、選択したのは私自身なのだからその責任から逃げたくない。


ちゃんと正面から受け止めて、これからは恥じない自分でいようと背を伸ばすしかないのだ。



「公爵閣下、どうか


エリシアの含みのある言葉に笑う令嬢達の声がクスクスと聞こえてくる。


折角出来た友人の前で恥ずかしいだなんて気持ちは想像していたよりも皆目なくて、ただゴールディ公爵には申し訳なかった。


「お気遣い感謝するよ令嬢、だけど心配はいらない」


そうは言っても私のした事を知ればこの人もきっと軽蔑するだろう。


そう考えるとやっぱり心底申し訳なくて、公爵の目を見られずにいるとゴールディ公爵は心底不思議そうに首を傾げた。



「僕は騙されるより、騙す方が悪いと思う性質タチなんだ。だから傷つかないし……」


本人は飄々と語っているが、まるでその瞳はカルヴィンを責めるように射抜いている。予想外の言葉に思わず会場の人たちだけでなく私も彼を見上げてしまうと今度は彼がくすくすと笑った。




「こんなにいい女になら、気をつけないかな 騙されたいかな


「ゴールディ公爵閣下……っ!?」


リベルテの肩を引き寄せて悪戯に微笑んだ彼を諌めるような声色で呼んだエリシアの悲鳴にも似た声だけが響いていて、リベルテはこの場をどうして落ち着かせようかと頭を捻らせた。


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