あなたの愛人、もう辞めます

abang

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どうしても欲しいもの

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「おかげさまで……」


一瞬、私に申し訳なさそうに瞳を揺らしたリベルテの背筋はけれどもやはり真っ直ぐでその美しい顔を俯かせることも無い。



それでも、気弱な訳でもない彼女が今まで身分の上下関係無く皆にカルヴィンの愛人として蔑まれてきたのを甘受しているのは罪悪感からだろうか?



だとすれば、



美しい金髪にエメラルドグリーンの瞳、整った容姿に完璧なエスコート……それに由緒正しい家門、欲しくならない理由が無かった。


幼馴染だかなんだかで、商人上がりの成り上がりの家門のリベルテが選ばれていると言うのはどうしても気に入らなかった。


私の方が役に立てるのに、ずっとそう思いながらカルヴィンのよき友人で居続けた……


そろそろ年齢的にもちゃんと婚約者を決めなければならない年頃、本来ならば幼い頃から婚約者であってもおかしくはなかったが「本人達の意志に任せよう」と愛のある結婚を望んだリベルテの両親によってそれは後回しになったらしい。


どちらの気も変わらなければ、二人は婚約してしまっていただろう。


だから丁度、リベルテをよく思っていなかったカルヴィンの父をお父様に手懐けてもらったのだ、


いくら金持ちだとはいえ、所詮は成り上がりの伯爵家。

侯爵令嬢の私が選ばれるのは当然のことだった。



初めこそ納得のいっていない様子だったカルヴィンも、結局は権力を取った。それだけでなく、リベルテよりも大切にしてくれた。

そうされるべき人間なのだとーー。




元々、成り上がりや庶民は嫌いだったし気弱な私とは違ってどこに居ても注目を受けるあの華々しい雰囲気は特に嫌いで仕方がなかった。


リベルテへの皆の視線が「愛人」への蔑みの視線に変わったことは私にとって快感だった。



あの大富豪のシャンドラ伯爵家から受けていた支援を突然こちらに請求されても困るので、こちらの準備が出来るまでは暫く「形だけ、一時的な婚約だ」と私の父からシャンドラ伯爵に手紙を送っておいた。



そして、数年……その「形だけ」の婚約は本物の夫婦となったーー。


これにはずっと目障りだったリベルテも、まるでペットでも愛でるかのように彼女に構い倒すカルヴィンも諦めた、


(自分から身を引いた事は評価してあげましょう)




と、思っていたのに……



初めに気付いたのは送り返されてきたドレスの数々だった。


それを見た瞬間に理解した。


リベルテの想いが恋だったなら、カルヴィンのものはもっと重い、執着と言うのだろうとーー


けれど、それもいっ時のことだろうと目を瞑ることに決め、相変わらず淑やかで物分かりのいい妻を維持して、愛らしいエリシアで居ることに努めた。


結局、そういう女性が勝ち取るのだと知っていたから。


そして、今日のパーティーにも夫婦として知らぬ顔で出席した。



それなのに、カルヴィンと関係を切れずにいた頃よりも顔色のいいリベルテの綺麗な顔。





滅多に顔を出さないと有名であるにも関わらず、一目散にリベルテ方へと駆け寄ったゴールディ公爵。



久々に見かけた公爵はあまりにも美しかった。


カルヴィンを愛している事に変わりはないし、あのゴールディ公爵がリベルテを本気にするとも思えない。



けれども、私でさえも相手にされないであろう彼は成り上がりのリベルテには勿体無いと思った。



「そう……良かったわ、カルヴィンも心配していたのよ」

「ありがとうございます。けれどもう、大丈夫です」

「そう?」

「はい、ご心配をかけることはもうありません」


カルヴィンが拳を握ったのが見なくても分かったので、その手を和らげるように取った。


(もう、貴方は私のものでしょ)


そして周囲に見せつけるように弱々しく微笑んだ。



「それなら、安心したわ」


ほら隣の高貴なお方にも見てもらいましょう?

成り上がりアナタ高貴な存在ワタシの格の違いを。


所詮、そうやって背筋をのばして踏ん張るしか能がないのだからーー。





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