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親愛を込めて、あなたへ
しおりを挟むとある侯爵の開催するパーティでは、皆が人脈や恋人作りに勤しんでいる。
高位貴族主催のパーティーとなれば、出席者も大物が多い。
皆、優雅に見える笑顔のその下で望むものを掴もうと躍起になっているのだ。
見栄の張り合いは当たり前、分かってはいるがやはりパーティーなんて楽しいものじゃないな……とうんざりしながら群がる人々の声が遠くに聞こえるほどに意識を入場口に集中させた。
「公爵、まさか誰か待ち人が?」
「えぇっ!エスコートされる方がいらっしゃるの?」
その言葉に意識を引き戻されて、曖昧に返事をしてから人々を掻き分けたところで見知った金髪が見えてそのエメラルドグリーンの瞳と目が合う。
確かに容姿は整っているが、僕ほどでは無いな。なんて内心ほくそ笑んでいると今度はリベルテは今日驚くだろうか?とも考えて思わず微かに口角が上がった。
そうすると、カルヴィンの隣に立つか弱そうでいかにも貴族令嬢らしい女性が頬を染める。
その所為でカルヴィンは余計に僕を睨んだが、悪いが彼にも、隣の社交会でよく見る感じの見分けのつかない令嬢にも用は無い。
「リベルテ・シャンドラ伯爵令嬢が入場しますーー」
「一人かしら?」「だってほら……」
「私はてっきりあの二人が結婚するんだと……」
「一人なら声をかけてみようか?」
「傷心中なら、チャンスあるか?」
不躾な噂話が飛び交い、まるでこれがメインディッシュだと言うようにリベルテに視線が群がる。
(ほんとに皆、噂話が好きだな)
「!」
一瞬、息をするのを忘れるほどだった。
黒のオフショルダードレスに片耳は金とルビー、もう片耳は金とサファイアの耳飾りをつけた彼女は一人だと言う事を気にした様子もなく堂々と入場する。
思わず見惚れて、目の前の二人など忘れていたが、どうやらカルヴィンの目もまた彼女に釘付けのようだった。
あの黒のドレスも装飾品も、結局は僕が自分で選んだ。
カタログの物では物足りずアレコレと注文をつけたうちの一部で特にあの耳飾りはお気に入りだった。
派手好きな主催者のお陰で輝く会場の装飾品と大きなシャンデリアが彼女を引き立てる。
上質な赤い絨毯の上を歩く黒ダイヤの敷き詰められたハイヒールは彼女の父が贈ったのだろうか?
あれほどの物を贈れる金持ちは自分を含めてもほんの数人しかいない。
ドレスによく似合うデザインだと思った。
周囲が彼女に釘付けな中、目の前の金髪が揺れたのを察知して彼よりも早くリベルテの元へと足を進めた。
「僕が、エスコートしても?」
「! ……光栄です、私の友人さん」
悪戯な笑みは可愛いんだな……と惚けていると僕の手に柔らかい手を重ねたリベルテが「行かないの?」と全く僕の気なんて知らない様子で首を傾げた。
きっともう僕が誰かは分かった筈なのに、あの日の夜と同じように接してくれるリベルテが嬉しかった。
「リベルテ、待つんだ……っ」
「……挨拶が遅れましたね。伯爵夫妻」
「リベルテさん……、お元気そうですね」
含みのある言い方、まるで大勢の前で「あんな事があったのに平気で顔を出せるのね」というような台詞。
クスクスと笑う令嬢達の笑い声と、これで手が届くようになったと下卑た噂話をする令息達の見下した声を、それこそ言われても当然だというような悟りすら感じる態度で向けられ続けるリベルテの背筋はやはり真っ直ぐだった。
それ程に、彼女がカルヴィンを愛していたのだろう。
噂どおり本来ならば二つの伯爵家は子同士の婚姻によって結ばれる筈だった。皆が知る仲睦まじい二人だった。
婚約者が変わってからの展開は予想外だったが、噂好きの貴族達のゴシップのネタには丁度良かっただろう。
あからさまにリベルテを睨みつける目の前の令嬢もまた不憫に思えた。
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