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予想外の贈り物
しおりを挟むいつもと違う朝、やけに慌ただしい雰囲気と何処か浮き足だった様子のキャシーに起床早々首を傾げた。
「今日、何かあったかしら?」
「いいえ!ご予定はいつも通りの執務です」
「じゃあ、なにか変わったことは?」
私がそういうや否や、嬉しそうに「贈り物が届いております」と笑ったキャシーの笑顔を見る限りカルヴィンからではないのだろうとほっと胸を撫で下ろす。
ひと通り身なりを整えると、綺麗に並べられた贈り物が部屋を占領している。
「わぁ、綺麗……」
色とりどりのドレスと装飾品、その中で特別な雰囲気を放つ黒色のドレスに思わずそっと触れた。
「お嬢様によく似合いそうですね」
「それで、どなたから?」
「ゴールディ公爵閣下からです!」
(ゴールディ公爵閣下……?)
全く身に覚えのない上に、面識のない身分の高い貴族からの贈り物に理由が分からなくて混乱した。
(何故かしら?それにしても、綺麗……)
今までカルヴィンから贈られるものといえば、彼や彼の家門を連想させるものばかりだったし、彼の好きなデザインばかりだったからーー
「駄目ね、すぐに比べてしまうわ」
「カルヴィン伯爵ですか?」
「もう気持ちは消えたのに、可笑しな話よね」
「そんなことありません……」
(お嬢様は長い間あの方を信じておられたのだから……)
幼い頃から一緒だった所為か、お嬢様も、シャンドラ伯爵夫妻も、家族のようにカルヴィンとその家族を信頼していた。
だからこそ、娘の恋を見守ったのだと言う事をこれまた幼い頃から母娘共々この邸で働いてきたキャシーは知っているので、リベルテの自嘲じみた笑顔に心を痛めていた。
けれどもリベルテはそれほど悪い気分では無かった。
男に言い寄られる事があると「リベルテは緩いんだ」「ふしだらに見えるのかもしれないな」とまるで此方を蔑むような言葉を投げかけてくるカルヴィンも居ない今、
目の前の贈り物と、気の利いた花束そして……
黒色の紙に金の飾りの重々しい封筒を素直に喜ぶ事ができる。
「お嬢様、開けてみては?」
「そうね」
"僕の友人、赤髪のレディへ親愛を込めて"
"次はあの酒を贈るよ"
彼があのゴールディ公爵だっただなんて、その驚きとあの日の友人に再び出会えた喜びが同時に湧き上がって思わず声を上げて笑う。
「お金持ちの友人ができたみたい、私」
「公爵閣下ですかっ!?」
「ふふ、私にしたらただの飲み友達」
「お嬢様だってお金持ちですからね!」
「ふふ、それもお父様達のおかげよ」
リベルテは幼い頃より父の仕事を手伝っているので、それ相応の手当が予算に組み込まれており、所謂、お金持ちなのだ。
金だけならばシャンドラ伯爵家とて負けぬだろうが、ゴールディ公爵家にはこの伯爵家にはない国一つに負けない武力や、血筋、正当性、そして名声があった。
令嬢達がこぞって噂話をする中で、リベルテが興味を示した事は一度もないが、あの夜一緒に酒を共にした青年は傲慢でもなければ自惚れやでもない、素敵な人だった。
(彼なら、令嬢達が騒ぐのも納得ね)
「ちゃんとお返ししなきゃね、キャシー」
「はい、お嬢様!すぐに外出の準備をいたします」
(封筒も黒だったわ、家門の色だから黒が特別なのね)
真っ黒な封筒に飾られた金色の装飾を指でなぞった。
「お嬢様、こちらはどういたしますか?」
メイドのアニタが尋ねてきたのに少し考えてから、黒のドレスを指さして「あれは明日のパーティーに着てくわ」と伝えた。
他は丁寧に保管するように伝え、全て大切に使用する意思を示した。
(せっかく素敵なドレスなんだから、活用しなきゃ)
「さぁて、友人へのお返しって何がいいのかしら?」
今までカルヴィンに制限された友人関係ばかりでちゃんとした友人の居なかったリベルテは、これこそが難題じゃないと頭を抱えることになった。
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