6 / 29
届かない鎖と、歪んだ愛
しおりを挟む「くそっ!」
今日も、リベルテからの手紙の返事は無い。
婚約者が出来たときもそうだったようにリベルテはいくら臍を曲げても、傷つけても私への愛を貫くだろうと思っていたのに……
リベルテの実家に金があるのはよく知っていたが、身分の差という障害は私にとっては大きい。
成り上がりの家門のリベルテを娶れば私が跡を継ぐ際に家格を下げると父に言われて仕方なく今の妻を娶った。
けれど、妻のエリシアはリベルテとは違って大人しい女性で、貴族令嬢らしい人だった。リベルテとはまた違った魅力のエリシアを守ってやりたいと思い始めていたのも確かだった。
それでも私は、出会った頃からずっと決めているのだ。
リベルテを手放すつもりは無いと。
私の中ではどんな形でもリベルテを側に置くのは決定事項だった。
なのに……
「リベルテからの返事は!?」
「ま、まだ何も……っ、申し訳ありません」
苛立つのを抑える為に葉巻に手を伸ばす。
もうすぐエリシアが帰ってくるので落ち着かせるように深く吸い込んで、従者を下がらせた。
幼い頃から私だけを見つめていたあのルビーのような瞳も、撫でるたびに美しくなる気がする赤い髪も、芯の強さが伝わるあの何処か腹の底に響く可愛いのにセクシーな声も、リベルテの全部が惜しい。
毎日、毎日、リベルテに会いたくて、彼女が欲しくて仕方がない。
それなのに、エリシアのことは良い妻だと思うし罪悪感だろうか?大切にしないといけないとも思っている。
偶然、招待状の中から目に入った黒と金。
一際目立つその封筒を見て体温が上がる。
「ーっ、何なんだよっ!あんな大物が成り上がりに何の用だ!」
ゴールディ公爵家、王族の血縁でありながら商売にも長けている。領地は裕福で兵力なんて王家に次ぐ強さだ。
名声も、金も、力も、容姿まで……
全て持っているゴールディ公爵が何故?わざわざリベルテにちょっかいをかける?別にリベルテでなくても沢山の女達が彼に夢中だというのに。
そこまで考えてから、ふと思い出して葉巻を落とす。
自分がリベルテの行動を事細かく見張り始めたのは、彼女が人目を惹くからだという事をーー。
絨毯の焦げた臭いの所為か、このつまらない状況の所為か苛立ちをぶつけるように葉巻を踏み潰した。
「リベルテは絶対に戻ってくる」
長い間ずっと私だけを見つめてきたんだ、
他の男など見る隙も与えなかった。
「大丈夫だ……子供の反抗期のようなものだろう」
「お、奥様が戻られました……っ」
「ふぅ……、分かった」
絨毯を新しくするように伝えてから、新しく書いた手紙を使用人に押し付けた。
「リベルテに送っておいてくれ、それとゴールディ公爵家の招待状に返事を」
(念の為、だ)
まだまだ時間はあるし、考えすぎならばかえってリベルテを同伴させてゴールディの夜会に行けばいい。
何も心配ない、すぐに全部戻ってくるーー。
「ただいま戻りました、あなた」
「ああ、おかえりエリシア」
エメラルドグリーンのドレスがよく似合うブラウンの髪を撫でて、好きだと視線で訴えかけてくるエリシアの額に口付けた。
「貴方をイメージしたの」
「よく似合ってるよ」
「私が一番似合う?」
「ああ……そうだね」
エリシアが完璧な令嬢だとしたら、リベルテの着飾った姿はまるで妖精のようだったなと思い浮かべた。
(すまないエリシア、一番はーーー)
322
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。
※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる