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どれほど塗り重ねても
しおりを挟むエイヴェリーがカルヴィンのあとをつけたのは、これ以上リベルテを噂話やありもしない臆測での批判から遠ざけたかったからだ。
相手が彼女ではないとこの目で確認できて、証拠を掴めたならそれでよかった。
けれど、目の前で起きている事はあまりに異様だった。
元々赤毛気味な茶髪をさらに赤く染め、まるでいつかのリベルテのようにカルヴィンの瞳の色のドレスを見に纏う令嬢は、どう見てもリベルテの模造品のようだった。
履き慣れていないのか、高い靴で疲れて少しでも背を曲げると不機嫌そうに何かを彼女に言うカルヴィンが伺えて、こういった場面でもリベルテに対しての深い執着が見えた。
それでもカルヴィンが少しでも笑顔を見せると安心したように微笑むその女性もまた、あまりにも不自然に感じた。
(気付いていて、やってるのか?)
自ら調べて観察しなければ身につかないだろう細かい仕草、不自然なほど過去のリベルテに似た装い。
彼女の耳にもきっと噂程度は届いているのだろう。
だとすれば彼に妻がいることもきっと知っている。
それを含めて、第二のリベルテを作ろうとしているのだろうか?
外見だけでなくあの頃のリベルテを完全に模造しようというのか?
カルヴィンの思考を辿ろうとするほど胃が気持ち悪くなってきて、こんな事をリベルテが知ればどう思うのだろうかと心配になる。
「いっその事、今のリベルテ様が公の場で沢山姿を見せるのはどうでしょうか?」
「そんな事、リベルテの意思次第だろ」
「きっと、エイヴ様となら楽しそうだと笑いそうですが」
「ティグ……楽観的すぎるよ」
視線や噂を避けたいのではないだろうか?
少し心を休ませたい筈じゃ……?
そういった僕の心配は無用だったようで、パーティーに誘うとリベルテは「パートナーが居なくて、助かったわ」と笑った。
下心丸出しの誘いや、面白半分のもの、見下した文面、どんな人とも一緒には行きたくなかったらしいリベルテは、同伴が必要なパーティーには出席出来なかったらしい。
仲睦まじい父と母に気を遣わせたくなくて、パートナーはどうしても自分で見つけたかったのだと言う。
それに、今まではカルヴィンが婚約者が出来てからと言うものそう言った同伴者の必要な公式のパーティーには出席出来ていなかったらしい。
「一人で行けるものは出てるけど、つまらなくて」
そう言ってお気に入りの強い酒をちびちびと呑むリベルテに思わず前のめりに返事をしてしまった。
「なら、これからは僕にしない?」
「ん?パートナー?」
「ああ、僕もちょうど困ってたんだ」
困っていると言えば少し語弊があるが、リベルテ以外と行きたくないんだと正直に伝えて変に警戒されたくはない。
彼女の心がいつか癒えるまでは、親友と呼んでくれるこの関係で居たいのだ。
リベルテに噂の事は言わなかった。
彼女の父親とは話をしたが、僕にそんな迷惑をかけられないとこの案を断られてしまい説得するのには骨が折れた。
「そうなの?なら私は嬉しいわ、エイヴェリーと行けて」
「じゃあ決まりだね、パーティー中の酒を飲み尽くそう」
僕の言葉に楽しそうに笑う声が心地よくて、それをつまみに酒を煽った。
「エイヴェリー、意中の人が出来たら教えて頂戴ね」
「いないし、予定がないよ」
「私、大切な貴方の邪魔をしたくないの」
「大丈夫、寧ろ僕は助かってる」
僕が贈った華奢な金のブレスレットの意味を君が知る事はないだろうけど、肌身離さずそれを着けているのを見るたびに少しくすぐったい。
(永遠、それと束縛したいほど強く想っている)
けれど、独り占めしたいのは目の前で僕にだけ笑うこの瞬間の君で、きっとみんなに愛されて羽ばたけるだろう君の事はそばで見守りたい。
君の幸せが永遠に続いて、どんな形でもその隣で僕が見守っていられるように。
そう願いを込めたブレスレットだからーーー
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