あなたの愛人、もう辞めます

abang

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話題の二人は息が合う

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近頃、カルヴィンは前みたいに優しくなった。

どんな事よりも私を大切にし、心の余裕すら感じる。

けれどもそれと同時にカルヴィンには気になる噂が付き纏い始めた。赤い髪の女性との浮気だったーー。

けれど私には分かる。

それが真にリベルテだとすれば、私はカルヴィンの隣に立てていないだろう。
騙し討ちというのだろうか、同じ手は二度と使えないしきっとカルヴィンはもう一度手に入ったならば監禁してでもリベルテを手放さないだろうから。


(そうなれば、噂自体が嘘か、もしくは……)

夜会の会場で近頃よく見る赤い髪のまだ若い女をさりげなく目で追う。

リベルテに憧れでもしているのか、赤い髪にエメラルドグリーンのドレス。似ても似つかぬが仕草や話し方までを模倣するその女は誰が見ても異様だった。

暫く姿を見ていないリベルテをこうやって皆思い出すのだ。
エリシアにとってはリベルテをずっと笑い物にできる都合のいい状況でもあった。


(変わった子ね、レビア嬢だったかしら?)


どうやら同伴者は弟と来ているようで、やはりカルヴィンの相手は彼女かもしれないが、あの程度ならすぐに目が覚めるだろう。

皆がレビアを見てリベルテを思い出し、今の幸せな私達と比較して同情したり嘲笑ったりとリベルテが惨めに引きこもっている想像をする。

それだけで今はとりあえず満足だった。なのにーー



「エイヴェリー・ゴールディ公爵閣下と、リベルテ・シャンドラ令嬢のご入場ーー」


(え?今なんて言った?)


二人が「親友」だという話は国中で噂だが、それこそ誰も姿を見ない為に信憑性のないものだった。

エイヴェリー公爵にはそもそも王太子という親友が居るし、とは言え親友というか親戚に当たる上に彼らは悪友とも言えるだろうが……


ハッとしてカルヴィンを見るとまた、をしていた。

怒りなど等に越したような虚無感、いつもキラキラ輝いている瞳は深く暗い。

そして、可哀想なことに完璧に模倣したレビアを見て想像していたよりも遥かにリベルテは美しかった。
憎しさが込み上げて、別に主催でもないが会場から消えて欲しいと願ってしまう。

カルヴィンのよりも淡い金髪とキラキラしたままの青い瞳。
色っぽい泣き黒子がまた瞳を際立たせる完璧なプロポーションの男がまたリベルテを美しくしている。

髪色より暗い赤、渋いボルドーワインみたいな色のベロアドレスは全く流行りもしないタイトなスカート部分に肩と背中が大きく空いた長袖。

スリットから覗く脚に釘付けな男達に牽制するかのように自分のボルドーの上着をリベルテに掛ける癖にその仕草に色気は無い。

気軽に「ありがとう」と返したリベルテもまた同じで、足取りから挨拶の仕草と会話、全ての息があまりにもぴったりと合っているのだ、まるで長年連れ添った親友のようにーー



「あの噂、ほんとだったんだな……」

「お二人ってあんなに仲が良いのね!」

「なんか……お似合いじゃないかしら」

「でもほら、親友らしいぞ」


リベルテがテーブルの端にある酒瓶を指差して、使用人からグラスを預かるとその酒をエイヴェリーが注ぐ。
けれどあの酒は知る人ぞ知る、かなり強いものだ。


(せめて酒にでも酔って失態をおかせばカルヴィンも、ゴールディ閣下も目が覚めるでしょう)

普通の令嬢なら一口で真っ赤に、二口で立っていられなくなるその酒を早く飲んで、恥をかくか二人に見捨てられて使用人にでも抱かれてしまえ。

そう願っていたのに、邪魔したのはカルヴィンだった。


「リベルテ、それはかなり強いから呑むな。ヤケ酒か?」

「ヤケ酒?こんなにも楽しいのに何故かしら」

「いいから止めろ、酒を呑む事なんか許可してない」

「……伯爵様になんの権限があって仰るの?」


食べ物を取りに行ったばかりのゴールディ公爵がリベルテの手を掴むカルヴィンを見つけて戻ってくる表情は、親友を心配しているだけには見えない。

まるで自分のものに触れるなとでも言いたげなその青い瞳はそれでも心底心配そうに揺れていて羨ましくなった。


「私も、カルヴィンじゃなくて公爵だったらいいのに……」


それでもやっぱり、リベルテの手を掴むカルヴィンに胸が灼けるほどの嫉妬心を感じるのは彼を愛しているからだろう。


(本当にムカつく女ね、リベルテ)


けれど、世間知らずのリベルテはもうこの注目を浴びながらあの強い酒に酔って粗相をし恥をかき、軽蔑されるだろう。


浮気相手の女の次は酒によって平民に抱かれた女、にしようかしら……。

どんな噂で苦しめてやろうかと考えるだけでも楽しいものだとエリシアは令嬢達の輪の中で適当に相槌をうちながら微笑んだ。














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