22 / 29
存在しない真実
しおりを挟む「レビア・カスターニ子爵令嬢とゴールディ公爵の熱愛」
けれど記事に描かれている姿はどうみてもリベルテそのもので、たとえばこの記事が自分たちの仲の良さ故に出たものだとしても、どうしてここでレビアの名が書かれるのかという疑問を感じる。
リベルテはその記事をしばらく睨みつけていたが、だんだんと胸の辺りがちくりと痛むような気がして新聞を閉じた。
「お嬢様、きっと何かの間違いですよ!」
「気にしてないわ」
数日ほど互いの多忙で会っていない親友を思い浮かべて、胸の痛みには目を瞑った。
(貴族なんて噂が好きなものよね)
翌日の夜会には一緒に出席する予定だし、まさかその記事が事実ならば彼ならきっとリベルテにいち早く話してくれた筈だろう。
そう気楽に考えてみてもやはりどこかモヤモヤと胸に突っかかりがあるような気がして「すこし働きすぎたかしら」と自分の体調不良を疑った。
しかしやはり翌日にも、レビアとエイヴェリーの記事出た。
その少し後には記事だけじゃなく、エイヴェリー本人が珍しく約束も無しに訪ねてきた。
「リベルテ!!」
いつもは礼儀正しく、何時の約束であっても身だしなみを整えてくるエイヴェリーの髪は少し乱れ、上着は腕に無造作にひっかけられている。
彼が邸に馴染んでいるのはよく知っているので彼が来たという使用人の報告よりも彼の足が早かっただけだろう。
唐突に現れたエイヴェリーには不思議とカルヴィンが押しかけてきた時のような不快感は感じない。
けれど、彼は一体何にこれほどまで焦っているのだろうか?
くしゃりと丸められて脇に挟んである新聞に目をやって、まさかなと思うーー。
けれどエイヴェリーはその「まさか」のリベルテが一番初めによけた選択肢を訴えかけてくるのだから驚いた。
「誤解なんだ。誓ってレビアという令嬢と熱愛などしていない」
「……」
「僕が唯一会うのはリベルテ、君だけだよ!」
ずっと執務で忙しかったのだろう。
目の下の隈がそれを物語っている。
疲れ果てて眠った彼が朝一番にこの新聞を知って、これほどまでに慌てて訪ねて来たことが不謹慎にも少し嬉しかった。
「な、何か言ってくれ……」
「ふふ……っ、エイヴったら髪が跳ねてるわよ」
「えっ……?怒ってないの?」
「どうして怒るの?その記事だって私と行った場所よ」
「うん、よかった。でも僕の……」
エイヴェリーと目が合って、リベルテは思わず心臓が跳ねる。
ハッとして瞳をすこし見開いた彼は手櫛で跳ねた髪を整えてからはにかんだ。
「僕の?」
甘ったるい、それでいて全てを溶かしてしまいそうなほど熱い瞳にだんだんと心臓が大きく波打つ。
「僕の親友はリベルテだけだよ」
半ば誤魔化すように言ったエイヴェリーにほっとしたような寂しいような気持ちになりながら広げられた腕に飛び込んだ。
「私の親友だって、貴方だけよエイヴ」
「でももう少し妬いてくれてもいいんじゃ?」
「どうして?貴方を失う訳じゃないでしょ」
「失うのが怖いの?」
「そうね……」
ほんの数秒見つめ合った二人は一度だけ確かめ合うようにぎゅっと抱きしめ合って離れた。
(もう少しだけ、このままでーー)
自覚の有無以外のふたりの気持ちは重なっている。
けれどだからこそふたりは親友のままだった。
リベルテとの外出を、レビアと書き換えたのは新聞社の独断ではないだろう。
きっと何者かが介入している。
おおよそ目星のつく相手を思い浮かべてエイヴェリーはふっと笑った。
「何、怖い顔してるわよ」
「そう?少し疲れてるのかも」
612
あなたにおすすめの小説
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。
※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる