あなたの愛人、もう辞めます

abang

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存在しない真実

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「レビア・カスターニ子爵令嬢とゴールディ公爵の熱愛」


けれど記事に描かれている姿はどうみてもリベルテそのもので、たとえばこの記事が自分たちの仲の良さ故に出たものだとしても、どうしてここでレビアの名が書かれるのかという疑問を感じる。


リベルテはその記事をしばらく睨みつけていたが、だんだんと胸の辺りがちくりと痛むような気がして新聞を閉じた。


「お嬢様、きっと何かの間違いですよ!」

「気にしてないわ」


数日ほど互いの多忙で会っていない親友を思い浮かべて、胸の痛みには目を瞑った。

(貴族なんて噂が好きなものよね)

翌日の夜会には一緒に出席する予定だし、まさかその記事が事実ならば彼ならきっとリベルテにいち早く話してくれた筈だろう。


そう気楽に考えてみてもやはりどこかモヤモヤと胸に突っかかりがあるような気がして「すこし働きすぎたかしら」と自分の体調不良を疑った。


しかしやはり翌日にも、レビアとエイヴェリーの記事出た。

その少し後には記事だけじゃなく、エイヴェリー本人が珍しく約束も無しに訪ねてきた。


「リベルテ!!」


いつもは礼儀正しく、何時の約束であっても身だしなみを整えてくるエイヴェリーの髪は少し乱れ、上着は腕に無造作にひっかけられている。

彼が邸に馴染んでいるのはよく知っているので彼が来たという使用人の報告よりも彼の足が早かっただけだろう。

唐突に現れたエイヴェリーには不思議とカルヴィンが押しかけてきた時のような不快感は感じない。

けれど、彼は一体何にこれほどまで焦っているのだろうか?

くしゃりと丸められて脇に挟んである新聞に目をやって、まさかなと思うーー。

けれどエイヴェリーはその「まさか」のリベルテが一番初めによけた選択肢を訴えかけてくるのだから驚いた。


「誤解なんだ。誓ってレビアという令嬢と熱愛などしていない」

「……」

「僕が唯一会うのはリベルテ、君だけだよ!」


ずっと執務で忙しかったのだろう。
目の下の隈がそれを物語っている。

疲れ果てて眠った彼が朝一番にこの新聞を知って、これほどまでに慌てて訪ねて来たことが不謹慎にも少し嬉しかった。


「な、何か言ってくれ……」

「ふふ……っ、エイヴったら髪が跳ねてるわよ」

「えっ……?怒ってないの?」

「どうして怒るの?その記事だって私と行った場所よ」

「うん、よかった。でも僕の……」


エイヴェリーと目が合って、リベルテは思わず心臓が跳ねる。

ハッとして瞳をすこし見開いた彼は手櫛で跳ねた髪を整えてからはにかんだ。

「僕の?」

甘ったるい、それでいて全てを溶かしてしまいそうなほど熱い瞳にだんだんと心臓が大きく波打つ。


「僕の親友はリベルテだけだよ」

半ば誤魔化すように言ったエイヴェリーにほっとしたような寂しいような気持ちになりながら広げられた腕に飛び込んだ。


「私の親友だって、貴方だけよエイヴ」

「でももう少し妬いてくれてもいいんじゃ?」

「どうして?貴方を失う訳じゃないでしょ」

「失うのが怖いの?」

「そうね……」


ほんの数秒見つめ合った二人は一度だけ確かめ合うようにぎゅっと抱きしめ合って離れた。


(もう少しだけ、このままでーー)


自覚の有無以外のふたりの気持ちは重なっている。

けれどだからこそふたりは親友のままだった。



リベルテとの外出を、レビアと書き換えたのは新聞社の独断ではないだろう。

きっと何者かが介入している。

おおよそ目星のつく相手を思い浮かべてエイヴェリーはふっと笑った。



「何、怖い顔してるわよ」

「そう?少し疲れてるのかも」



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