あなたの愛人、もう辞めます

abang

文字の大きさ
25 / 30

もどかしい距離感

しおりを挟む


「エイヴェリー公爵。今日はどうやら娘が助けられたようで」

キツめの整った容姿はどこかリベルテと似ていて、人の良い笑顔を浮かべるリベルテの父。

そんな彼にまるで公爵と伯爵という爵位の差を感じさせない好青年のような爽やかさで対応するエイヴェリーは、作り上げたというよりはとても自然に振る舞っているように見える。


「いえ、リベルテなら全員を引っ叩いてしまいそうですが念の為にですよ」

「ちょっと、エイヴったら!」

「はははっ、二人は仲がいいな!」


まるで旧知の友かと思うほどに仲睦まじい父と親友を見て嬉しそうに顔を緩ませながら、時々何かを言いたそうにするリベルテの母の百面相をそのつど眺めた。


「リベルテ、どうしたの?」

「んーん、今日とても楽しいわ」

「僕もだよ。でもちゃんと食べて」


リベルテの皿に自分の肉を切り分けて更に乗せたエイヴェリーを見てとうとう何か言いたげな母と同じ表情をした父にリベルテはやっぱり「変だわ」と首を傾げた。


チラリとエイヴェリーに目をやるとどうやら彼はそれに気付いているようで「大丈夫だよ」とでもいうように微笑む。


「ねぇ、エイヴェリー公爵様」

「夫人、気軽に呼んで下さい」

「……それでは、エイヴェリーさん」


いつもは快活な母が珍しく口籠もっている。

見かねた父が代弁するようにまずごほんと喉を鳴らした。


「二人はもうすでに適齢期だが、その……互いを候補に入れた事はないのか?」


「私も、あまりにお似合いで驚いちゃって……!」


「何を言っているの?」と呆れる私を他所に、エイヴェリーは心底嬉しそうに声色をワントーン上げて「親友ですよ」と言ったが、一口酒をこくりと飲み込んでから「今はね」と悪戯に笑った。


「「……っ、」」


嬉しそうに目を見開き両手で口元を押さえる母と、一瞬目を見開き静止したあと嬉しそうに酒を飲み干して「そうか……」と笑った父の予想外の反応を見て驚いた。


「ちょっとエイヴ、悪戯が過ぎるわ」

「リベルテなら僕は嬉しいけどな」

「あなたってほんと人たらしなんだから……」


呆れて反論をやめると更に嬉しそうにする母をもう見ないようにしてエイヴェリーが持ってきてくれた珍しい高級酒をひと口飲み込んで舌鼓を打った。



「リベルテのこの顔が好きなんです」

「へ?」


エイヴェリーが落ち着いた声でそう言うと、リベルテの父が今度は嬉しそうに饒舌になる。


「確かに。娘の容姿は元々良いが好きなものを口に入れる顔は子供の頃からいっそう幸せそうな良い顔をする」

「この人ったら、その為に沢山おやつをあげるのよ?」

「気持ちがわかります、僕もリベルテの良い顔が見たくてつい」

「ちょっと、それじゃ餌付けよ二人とも……」


リベルテが眉を顰めると、楽しそうに笑ったエイヴェリーの笑顔を見て今度は心の底からそう思っている事が伝わるように彼の目を見て伝えた。


「私も、エイヴのその笑顔が好きよ」


途端に顔を赤くしたエイヴェリーに思わず笑う。


「あなたったら、たらし込まれるのは苦手なの?」

「……僕をたらし込もうとしたの?」

「何その顔、初めてみる表情ね?」


あまりにも鈍感な自分に両親が内心で溜め息をつき呆れていることなど知らずにエイヴェリーの頬をつまみ首を傾げるリベルテだが、そんなやりとりにすらとても楽しげにエイヴェリーは声を上げて笑った。


「リベルテがこの通りなので、ふはっ」

「ああ……」

「そうね……」

「なに、みんなして?」


「ゆっくり時間をかけます」


妖艶に微笑んだエイヴェリーに両親が揃ってナイフとフォークを落とした音がガシャンと大きく響いた。


「親友の両親をたらし込まないで」

「そんな、僕にとっても両親同然に思ってるよ」

「私もエイヴがここに居てくれるのが嬉しいわ」


(早く引っ付いてくれ)


そんな両親や使用人達のもどかしい思いなど知る由もなく、今日はこのあと何をしようかとリベルテは呑気にエイヴェリーに持ち掛けていた。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...