あなたの愛人、もう辞めます

abang

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もどかしい距離感

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「エイヴェリー公爵。今日はどうやら娘が助けられたようで」

キツめの整った容姿はどこかリベルテと似ていて、人の良い笑顔を浮かべるリベルテの父。

そんな彼にまるで公爵と伯爵という爵位の差を感じさせない好青年のような爽やかさで対応するエイヴェリーは、作り上げたというよりはとても自然に振る舞っているように見える。


「いえ、リベルテなら全員を引っ叩いてしまいそうですが念の為にですよ」

「ちょっと、エイヴったら!」

「はははっ、二人は仲がいいな!」


まるで旧知の友かと思うほどに仲睦まじい父と親友を見て嬉しそうに顔を緩ませながら、時々何かを言いたそうにするリベルテの母の百面相をそのつど眺めた。


「リベルテ、どうしたの?」

「んーん、今日とても楽しいわ」

「僕もだよ。でもちゃんと食べて」


リベルテの皿に自分の肉を切り分けて更に乗せたエイヴェリーを見てとうとう何か言いたげな母と同じ表情をした父にリベルテはやっぱり「変だわ」と首を傾げた。


チラリとエイヴェリーに目をやるとどうやら彼はそれに気付いているようで「大丈夫だよ」とでもいうように微笑む。


「ねぇ、エイヴェリー公爵様」

「夫人、気軽に呼んで下さい」

「……それでは、エイヴェリーさん」


いつもは快活な母が珍しく口籠もっている。

見かねた父が代弁するようにまずごほんと喉を鳴らした。


「二人はもうすでに適齢期だが、その……互いを候補に入れた事はないのか?」


「私も、あまりにお似合いで驚いちゃって……!」


「何を言っているの?」と呆れる私を他所に、エイヴェリーは心底嬉しそうに声色をワントーン上げて「親友ですよ」と言ったが、一口酒をこくりと飲み込んでから「今はね」と悪戯に笑った。


「「……っ、」」


嬉しそうに目を見開き両手で口元を押さえる母と、一瞬目を見開き静止したあと嬉しそうに酒を飲み干して「そうか……」と笑った父の予想外の反応を見て驚いた。


「ちょっとエイヴ、悪戯が過ぎるわ」

「リベルテなら僕は嬉しいけどな」

「あなたってほんと人たらしなんだから……」


呆れて反論をやめると更に嬉しそうにする母をもう見ないようにしてエイヴェリーが持ってきてくれた珍しい高級酒をひと口飲み込んで舌鼓を打った。



「リベルテのこの顔が好きなんです」

「へ?」


エイヴェリーが落ち着いた声でそう言うと、リベルテの父が今度は嬉しそうに饒舌になる。


「確かに。娘の容姿は元々良いが好きなものを口に入れる顔は子供の頃からいっそう幸せそうな良い顔をする」

「この人ったら、その為に沢山おやつをあげるのよ?」

「気持ちがわかります、僕もリベルテの良い顔が見たくてつい」

「ちょっと、それじゃ餌付けよ二人とも……」


リベルテが眉を顰めると、楽しそうに笑ったエイヴェリーの笑顔を見て今度は心の底からそう思っている事が伝わるように彼の目を見て伝えた。


「私も、エイヴのその笑顔が好きよ」


途端に顔を赤くしたエイヴェリーに思わず笑う。


「あなたったら、たらし込まれるのは苦手なの?」

「……僕をたらし込もうとしたの?」

「何その顔、初めてみる表情ね?」


あまりにも鈍感な自分に両親が内心で溜め息をつき呆れていることなど知らずにエイヴェリーの頬をつまみ首を傾げるリベルテだが、そんなやりとりにすらとても楽しげにエイヴェリーは声を上げて笑った。


「リベルテがこの通りなので、ふはっ」

「ああ……」

「そうね……」

「なに、みんなして?」


「ゆっくり時間をかけます」


妖艶に微笑んだエイヴェリーに両親が揃ってナイフとフォークを落とした音がガシャンと大きく響いた。


「親友の両親をたらし込まないで」

「そんな、僕にとっても両親同然に思ってるよ」

「私もエイヴがここに居てくれるのが嬉しいわ」


(早く引っ付いてくれ)


そんな両親や使用人達のもどかしい思いなど知る由もなく、今日はこのあと何をしようかとリベルテは呑気にエイヴェリーに持ち掛けていた。

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