あなたの愛人、もう辞めます

abang

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好きな人の妻


夢見ていた社交界デビューは思っていたよりも貴族らしい場所で、すぐに怖気付いた。

そんな時に会ったのがまるで絵本の王子様のような容姿のカルヴィンだった。


「大丈夫、おいで」


異様な雰囲気の会場で唯一、優しい人だった。

彼はこの赤茶の髪よりもあの時噂の渦中に居た美しい人のような赤い髪が好きなのだと知って染めた。

思いの外、カルヴィンが喜んでくれるものだから研究しドレスの好みや立ち振る舞いをリベルテから見習った。
きっと喜んでくれる。そう思ったけれどカルヴィンは眉を顰めて冷たく「リベルテはもっと背筋が伸びて堂々としてる」と言っただけだった。



「じゃあ、どうすればいいのですか!?」


彼に好かれる為に必死だった。


それからはまるで着せ替え人形で、気付いた時には私は社交界で有名人になっていた。

「リベルテ・シャンドラの模造品」として……。


私は調べて知れば知るほどにリベルテが不憫だった。
それでもカルヴィンに愛されているというだけで憎いのだ。

けれどもっと憎いのはエリシアだ。

彼に妻が居ると知ったのはすぐだった。

家門は由緒正しく、令嬢としても模範。

愛らしく弱々しい彼女は容姿とは裏腹に悪魔だった。


カルヴィンとリベルテをうまく引き離してくれた事には感謝するが、私をこうして侍女としてそばに置きまるで見せつけるようにカルヴィンとの関係の良好さをアピールした。

それに彼女はカルヴィンのことだけじゃなく、彼女は自分の思い通りに事を進める為なら手段を選ばない。


それを見せつけるのは忠告だろう。

正直、何を考えているのか分からないエリシアが怖い。
カルヴィンが仕事で邸を数日空けていた時に自宅に帰ることも許されずに監禁され、食事も与えられなかったことがあった。

理由は分からないと言えば嘘だった。

だって私はエリシアの夫を愛しているし、彼と夜を共にしているのだ。

たとえ「模造品」だとしてもリベルテをゴールディ公爵が離さない限り、カルヴィンは私を手放せない。


「可哀想なカルヴィン様。私がそばに居るわずっと」


今回もきっと役に立って見せる。
越権行為だとエリシアに折檻されてもいい、きっとイズタン侯爵に気に入られて見せる。

そう意気込んでいたことさえ先読みしていたかのかもしれない。
エリシアの準備したドレスは絶対に彼女やリベルテならば着ないような娼婦よりもいやらしいドレスだった。


「こんなの……っ」

「奥様より、頑張りなさい。とのことです」


あえてメイドではなく従者に準備させたのも嫌がらせだろう。


小太りで脂汗のかいたイズタン侯爵はカルヴィンとは似ても似つかない。


ティールームのような場所を予想していたレビアは絶望する。


「君が、伯爵のお気に入りの侍女か」

「れ、レビアと申します……」


小さなテーブルと小規模なティーセット。

大きなソファに、窓のない部屋。

そして大きなベッド……


「君との次第では今回の取引はエスト伯爵の条件を全部のんでもいいと思っているんだ」


カルヴィンの為に赤く染めた髪に口付けたイズタン侯爵に鳥肌が立った。


けれどもう逃げられないだろう。

外に居る侍従と衛兵は扉を開けないだろうし、エリシアはだ。


(カルヴィン様の為なのよね……)


唯一の希望は彼の役に立てると言うことだけ。

愛する人の為ならば何だってしてやる。

エリシアにもリベルテにもできないことをして彼の役に立てばきっとカルヴィンは私を捨てない。


イズタン侯爵の荒い鼻息とキツイ香水にゾッとした。

せめて彼の姿が見えないように目をきつく閉じた。


「あぁその方がいい。君瞳は赤くないんだね」

「えーーー」

「エスト伯爵はずっと、シャンドラ伯爵令嬢には会わせてくれなくてな。君は凄く似ていて、さらに若いのがいい」


(あぁーーー)

リベルテが憎い。

なのにそれ以上に憎いのはやっぱり彼の妻だった。


(いつか奥様の席は私の席になるのよ)




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