あなたの愛人、もう辞めます

abang

文字の大きさ
27 / 30

模造品なんて言わせない



王族を除けば国内で最高位の貴族であるゴールディ公爵家と、同じく国内でいちばんの富豪のシャンドラ伯爵家の縁が深まっていることに注目している社交界では、すっかりと暗黙の了解でエイヴェリーとリベルテの仲が公認されている。

本人達は自分たちが勢力的な意味合いだけでなく、まるでロマンス小説の主人公達のように人々の関心を引いている事を知らない。


そしてそれが気に入らない者がふたり。

エスト伯爵夫妻だ。

エリシアは煙草をもう何本も灰皿に押し付けて苛立っている様子を隠さないカルヴィンを見て唇を噛み締めた。


私はカルヴィンを愛している。


彼の優しさが上辺だとしても、エリシアはカルヴィンが好きで堪らなかった。

あの模造品ばかりと夜を共にしているとしても。彼はエリシアの前ではまるでお姫様のように私を大切にするのだ。


あえてリベルテとは違う魅力や利益でカルヴィンを手に入れた。

汚い手だって沢山使うし、手段だって選ばない。

リベルテのようなありのままを愛してもらえると自信に満ちた女がいちばん嫌いだ。

愛しているのは勿論カルヴィンだ。

ゴールディ公爵の事はよく知らない。

けれどこの国で一番の良い男が私でもなくリベルテを追いかけ回しているという事実に腹が立つのだ。

カルヴィンにリベルテを騙し続けさせたのは、リベルテを「不倫女」にする為でもあった。

両親は援助する金が惜しかったのかもしれないが、エリシアにとってそれも都合がよかった。

まさかカルヴィンがこれほどまでにリベルテに執着しているとは思ってもいなかったが、辛い時期を長く耐えた甲斐があってリベルテはやっと皆の笑い者となった。

カルヴィンを手に入れ、気に入らないリベルテの評判を地まで落とした。


なのにーーー


「ほんとうに、嫌いよ」


最愛の夫は今だにリベルテの名を呼び、模造品を抱く。

夫が帰ってこない醜聞よりも、家門内でことが済むようにとレビアをうちの侍女にしたが彼は都合の良い事には口出しをしない。


「私は愛されてるわ。ちゃんと全て手に入れたのよ」


あんな成金の卑しい女にも、成金の卑しいリベルテの真似をするしかカルヴィンに相手にされないレビアとも違う。

レビアのように手酷く抱かれたことはないし、名前だってちゃんと「エリシア」と囁いてくれる。

ゴールディ公爵は相手が悪い。
簡単に手を出せる人物ではない。


私の目を盗めていると思っているカルヴィンに今夜も手酷く抱かれるのだろう模造品を思い出してエリシアは従者を呼んだ。


「模造品を呼んでちょうだい」

「はい、エリシア様」


罪悪感からか、恐怖からかレビアはいつもおどおどしている。

カルヴィンの前では堂々としたリベルテの模造品なのに、エリシアの前ではきちんと服従する所がレビアの気に入っている部分だった。

「お、奥様……参りました」

「レビア、ごめんなさいね」


レビアの頭を撫でて、微笑みかけると肩を揺らして縮こまる。
カルヴィンの不在中にきちんと躾をしたかいがある。
そう考えてエリシアは満足気に笑った。


それでもレビアはエリシアの夫を愛し、彼と夜を過ごすのだ。

腹の中ではエリシアを笑っている。

エリシアにしてみればリベルテよりもはるかに、レビアの方が強かな女だと思った。


(ゆっくりと壊して、カルヴィンには私しかいないと分からせなきゃ)


「今日はお客様をもてなす手伝いを頼みたいの」

「はい……」

「なぁに、

「えっ、いえ……そんな」


カルヴィンの取引が難航している相手、隣国のイズタン侯爵はなんとリベルテに興味を持っていた。



「きちんと模造しなさいね。背中曲がってるわよ」

「ひっ……す、すみません!」

「粗相の無いようにお願い。大切な取引の相手なの」


表情をぱぁぁっと明るくさせたレビアの分かりやすさに口角を上げた。









感想 25

あなたにおすすめの小説

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

裏切りの街 ~すれ違う心~

緑谷めい
恋愛
 エマは裏切られた。付き合って1年になる恋人リュカにだ。ある日、リュカとのデート中、街の裏通りに突然一人置き去りにされたエマ。リュカはエマを囮にした。彼は騎士としての手柄欲しさにエマを利用したのだ。※ 全5話完結予定

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。

Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。 彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。 そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。 この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。 その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。