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模造品なんて言わせない
王族を除けば国内で最高位の貴族であるゴールディ公爵家と、同じく国内でいちばんの富豪のシャンドラ伯爵家の縁が深まっていることに注目している社交界では、すっかりと暗黙の了解でエイヴェリーとリベルテの仲が公認されている。
本人達は自分たちが勢力的な意味合いだけでなく、まるでロマンス小説の主人公達のように人々の関心を引いている事を知らない。
そしてそれが気に入らない者がふたり。
エスト伯爵夫妻だ。
エリシアは煙草をもう何本も灰皿に押し付けて苛立っている様子を隠さないカルヴィンを見て唇を噛み締めた。
私はカルヴィンを愛している。
彼の優しさが上辺だとしても、エリシアはカルヴィンが好きで堪らなかった。
あの模造品ばかりと夜を共にしているとしても。彼はエリシアの前ではまるでお姫様のように私を大切にするのだ。
あえてリベルテとは違う魅力や利益でカルヴィンを手に入れた。
汚い手だって沢山使うし、手段だって選ばない。
リベルテのようなありのままを愛してもらえると自信に満ちた女がいちばん嫌いだ。
愛しているのは勿論カルヴィンだ。
ゴールディ公爵の事はよく知らない。
けれどこの国で一番の良い男が私でもなくリベルテを追いかけ回しているという事実に腹が立つのだ。
カルヴィンにリベルテを騙し続けさせたのは、リベルテを「不倫女」にする為でもあった。
両親は援助する金が惜しかったのかもしれないが、エリシアにとってそれも都合がよかった。
まさかカルヴィンがこれほどまでにリベルテに執着しているとは思ってもいなかったが、辛い時期を長く耐えた甲斐があってリベルテはやっと皆の笑い者となった。
カルヴィンを手に入れ、気に入らないリベルテの評判を地まで落とした。
なのにーーー
「ほんとうに、嫌いよ」
最愛の夫は今だにリベルテの名を呼び、模造品を抱く。
夫が帰ってこない醜聞よりも、家門内でことが済むようにとレビアをうちの侍女にしたが彼は都合の良い事には口出しをしない。
「私は愛されてるわ。ちゃんと全て手に入れたのよ」
あんな成金の卑しい女にも、成金の卑しいリベルテの真似をするしかカルヴィンに相手にされないレビアとも違う。
レビアのように手酷く抱かれたことはないし、名前だってちゃんと「エリシア」と囁いてくれる。
ゴールディ公爵は相手が悪い。
簡単に手を出せる人物ではない。
私の目を盗めていると思っているカルヴィンに今夜も手酷く抱かれるのだろう模造品を思い出してエリシアは従者を呼んだ。
「模造品を呼んでちょうだい」
「はい、エリシア様」
罪悪感からか、恐怖からかレビアはいつもおどおどしている。
カルヴィンの前では堂々としたリベルテの模造品なのに、エリシアの前ではきちんと服従する所がレビアの気に入っている部分だった。
「お、奥様……参りました」
「レビア、ごめんなさいね」
レビアの頭を撫でて、微笑みかけると肩を揺らして縮こまる。
カルヴィンの不在中にきちんと躾をしたかいがある。
そう考えてエリシアは満足気に笑った。
それでもレビアはエリシアの夫を愛し、彼と夜を過ごすのだ。
腹の中ではエリシアを笑っている。
エリシアにしてみればリベルテよりもはるかに、レビアの方が強かな女だと思った。
(ゆっくりと壊して、カルヴィンには私しかいないと分からせなきゃ)
「今日はお客様をもてなす手伝いを頼みたいの」
「はい……」
「なぁに、夜までには終わるわ」
「えっ、いえ……そんな」
カルヴィンの取引が難航している相手、隣国のイズタン侯爵はなんとリベルテに興味を持っていた。
「きちんと模造しなさいね。背中曲がってるわよ」
「ひっ……す、すみません!」
「粗相の無いようにお願い。カルヴィンの大切な取引の相手なの」
表情をぱぁぁっと明るくさせたレビアの分かりやすさに口角を上げた。
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