八年間の恋を捨てて結婚します

abang

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変化はし続ける


メーデアを呼び止めたものの、ルージュは話す言葉が何も浮かばずに「ありがとう」とその場を収めたメーデアに礼だけを伝え別れた。

その後、一日の日程を全て終えて入浴を済ませたルージュが騎士と合流してから部屋に戻ろうとする最中、少し離れた先にただならぬ雰囲気のイリアとヘルゲンを見つけて思わず物陰に隠れた。


(どうしてあの二人が?思わず隠れてしまったわ……)


ルージュは意図せずイリアとヘルゲンの話を立ち聞きしてしまうことになった。

ヘルゲンは一見、イリアを敬っているように見えるが実際に主導権を握っているのは彼に見えた。
彼はイリアの髪に口付けて優しく、なのにどこか棘のある声で尋ねた。

「メーデアとは?私の忘れ物は見つかりましたか?」

「ええ、けど男爵夫人は大切にしているように見えるわ……」

「あのメーデアが?ありえません彼女が改心するなど」

「無理矢理奪うなんて……私には」

「大丈夫ですよ。もう充分感謝していますから」

あとは自分で何とかするとイリアに言ったヘルゲンにどうしてか縋るように「私も協力させて」としがみついたイリアを見て「忘れ物」が何かは分からないがその為に二人はわざわざ自らこんな辺境の地まで視察に来たのだと理解した。

メーデアとヘルゲンは元より知り合いであったのか?
様々な疑問と憶測が過ぎるが、今は自分が考え無しに割り入るべきではないと考え二人が立ち去るのを見てから部屋へ戻った。

自分には関係のない話かもしれない。
けれど、ブリーズ領の改革を任された限りはテンタシオンにも関わるかもしれない。
ルージュは一晩中考えたが答えが出ないまま朝になった。


「ルージュ、何かあった?」

「ええ少し……話す前に整理したいから少し散歩をしてもいい?」

「それなら、小さいですが中庭がおすすめですよ」


偶然、朝食を運びに来た使用人が親切な笑顔で教えてくれたのでルージュは少し気分転換することにした。

マルゴ子爵と打ち合わせがあるテンタシオンは心配そうにしたが、ルージュのようすを気遣って了承した。


「アルタ、しっかりと護衛するように」

「御意」

ウィクトルの女騎士の中でいちばん腕が立つというアルタをルージュに付けてもまだテンタシオンは不安だったが、ブリーズではブリーズ城と呼べる生活区域は狭く、他とは隔離されている為にいつでも駆け付けられると判断してルージュを見送った。


「ルージュ、気をつけて」

「ありがとう。テンタシオン」


広いとは言えない上に、中庭というにはあまり整えられていない殺風景な小さな公園のような場所であった。

それでも花があり、東屋は手入れされていた。
この殆どが要塞のような建物の中では唯一息抜きに適した場所なのは間違いがないだろう。


「あら……」


そこで偶然メーデアに会ってしまう。
深く何かを考えるような様子のメーデアを見て、ルージュは「邪魔をしたわね」と立ち去ろうするが昨日の話が気になってしまう。


珍しくどこか落ち着かない様子のルージュに今度はメーデアが引き止めた。

メーデア自身にも理由は分からなかった。


(なによ。似合わず変な様子ね)


けれど何となく、ルージュには堂々とした姿の方が似合っていると思ってしまったのだ。

あの吸いこまれてしまいそうなヘーゼルの瞳を眺めながらふと考える。

もしも同じ人を愛していなかったら、彼よりもっと早くに出会っていたら友人になれただろうか?ルージュのそばにいたら私もアナタみたいに清らかな心でいられただろうかと心の中でルージュに問いかけた。


そう考えるメーデアの心の中には愛おしい我が子が居た。
ただ、彼にとっていい母親でいたいのだ。


(いえ、私はどうせ捻くれてたわね)


自嘲気味に笑ってから、なんと言っていいのかも分からないままルージュに話しかけた。


「すっかり顔色が良くなったのね」

「貴女も雰囲気が柔らかくなったわ」


すっかりと毒気が抜けて顔色が良くなったのはメーデアの方ではないかとルージュは思った。

あの毒々しい赤色のリップよりも、今の自然な色がよくに合っているとも考えていた。


そんなルージュにメーデアが唐突に謝罪の言葉を述べる。


「……ごめんなさい。ずっと高貴な貴婦人に憧れていたわ。アルを好きになってから全てが叶うような気がしていたの。貴女を傷つけてまで奪ったものは理想とはかけ離れていて逆恨みしていたわ……」

「もう、全て終わったことよ」

「あなたが羨ましいかったの。私がどれほど醜い人間だったのかは此処で息子の顔を見て、貴女とまた会って気付いたわ」


ルージュはふわりと微笑む、かける言葉こそまだぎこちないが後悔し、愛する子供の為に変わるメーデアを許そうとしていた。


「お茶に……、誘ってくださる?」

「えっ……?」


メーデアが顔を上げると少し気まずそうに、けれども柔らかい笑を浮かべるルージュと目が合って、何故みんながそれほどに彼女を愛するのか分かった気がした。

気恥ずかしくてもう一度俯いたメーデアは自分で思ったよりも小さな声でルージュになんとか返事をした。


「貴女の夫のようにもてなせないけれど、是非来て」

「ええ、すぐにお邪魔するわ」


テンタシオンはひどく反対したが、騎士を同行させる事を条件にルージュとメーデアのささやかなお茶会は翌日すぐに開かれた。


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