別れてくれない夫は、私を愛していない

abang

文字の大きさ
36 / 53

36



セレンの処刑が決まった。


そう告げられたのは交流会が一通り落ち着いた頃だった。


下級とはいえ貴族である彼女の処刑は慎重に調査され、審議されたが彼女には過失で自らの父を殺した罪と、その件でのアッシュへの殺人未遂罪、そしてエレノアへの強い殺意を持った悪質な殺人罪を課すことになった。


加えて、アイリーン嬢へ刃物を向けた件や母親への虐待の嫌疑もかけられたがそれに関してはリーテン国の返事を待つ形となり、少しの時間を有したが全て解決し、ラルジュでの判決に委ねられる形で収束した。


「分かったわ。私も出席します」


この国では悪質な罪人にごく稀にある「公開処刑」

セレンの処刑は公開処刑に決まり、エレノアは父からそれを聞かされ、出席を決心した。

エレノアにとって初めての公開処刑だという事もあり、緊張か恐怖感かも分からない妙な気分でやけに食欲が湧かなかった。


それでもまだ、隠蔽していたアッシュの両親の処分を検討しなければならない。

本来ならばセレンの母の処罰があるのだがエレノアは、セレンの母はひどい病を口実に減刑し自らの保護観察という形で連れてくる段取りで居る。



「忙しくなるぞ、エレノア」

「はい、お父様。手間をかけてごめんなさい」

「良いんだ。けれど、大丈夫か?」



エレノアの父は心配そうに彼女に尋ねる。

何故ならばエレノアはセレンの母に、事業の管理を一つ任せようと思っているからだった。



「身体が弱いだけで、ちゃんとした治療を受ければ今よりはかなり良くなる筈です。それに……」


セレンの顔の傷と髪を思い出す。

あの件に関して、セレンの母もその使用人達もだれも口を割ることは無かった。「屋敷で事故が起きた」「セレンの情緒が不安定だ」と口裏を揃えて皆そう言い、彼女は罪に問われなかった。


褒められたことではないが、エレノアとて聖人君子ではない。


セレンが実の母にして来た事を考えれば仕方がないのかもしれないとさえ思えていた。



「口が硬い上に、仕事ぶりには定評があるようなので。クレイブン侯爵家はどうなりますか?」



「他国の高位貴族だ、体裁上大した罪は問えないだろうが信じるんだ。私と殿下できっともう起き上がれない程に叩き潰しておく」


「ええ……けれど時間の問題でしょう。お金も無い、名誉も失う。嫡子は実質公爵家の愛玩となった今クレイブンに立ち直る術がない筈よ……」



「はは、それもそうだな。だがまぁ……昔からエレノアのことになると熱くなる人だからなぁ殿下は……」



「えっ、シドが?」


「気付いてなかったのか?」


「全く!……そんな、ずっと守ってくれていたのね」



緩む頬を引き締めるのが難しい、赤い頬はもう父にはバレているだろう。



けれど、それほどにシドからの愛を知ったり感じたりするのは嬉しくて幸せだった。


「ああ、私としても安心だ。早く行ってきなさい」

「いってきます、お父様!」



あんなにも幸せそうな、まるで少女のように屈託の無い笑顔を見せるのはいつぶりだろうかとエレノアの父は考えて葉巻に火をつけた。



「ふーっ……これで一安心だな」



此処からは見えないが、今頃わざわざ自ら迎えにきて、早く来すぎたか?余裕ないだろうか?と馬車の中でそわそわしてるであろうシドを思い浮かべて少し笑った。




「早く行かなくちゃ!」


早く来るだろう事を見越して誰もみていない廊下になると小走りで向かうだろうエレノアのこともまた思い浮かべた。



「……くしゅん、なにかしら?」



「エレノア!早く来すぎたかな?」

「ううん、丁度シドに早く会いたかったの」

「それは……反則だね」

「?」


しっかりと繋いだ手が心強くて、安心出来た。



「大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ」


(貴方と一緒だから)

感想 286

あなたにおすすめの小説

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・