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しおりを挟むセレンの処刑が決まった。
そう告げられたのは交流会が一通り落ち着いた頃だった。
下級とはいえ貴族である彼女の処刑は慎重に調査され、審議されたが彼女には過失で自らの父を殺した罪と、その件でのアッシュへの殺人未遂罪、そしてエレノアへの強い殺意を持った悪質な殺人罪を課すことになった。
加えて、アイリーン嬢へ刃物を向けた件や母親への虐待の嫌疑もかけられたがそれに関してはリーテン国の返事を待つ形となり、少しの時間を有したが全て解決し、ラルジュでの判決に委ねられる形で収束した。
「分かったわ。私も出席します」
この国では悪質な罪人にごく稀にある「公開処刑」
セレンの処刑は公開処刑に決まり、エレノアは父からそれを聞かされ、出席を決心した。
エレノアにとって初めての公開処刑だという事もあり、緊張か恐怖感かも分からない妙な気分でやけに食欲が湧かなかった。
それでもまだ、隠蔽していたアッシュの両親の処分を検討しなければならない。
本来ならばセレンの母の処罰があるのだがエレノアは、セレンの母はひどい病を口実に減刑し自らの保護観察という形で連れてくる段取りで居る。
「忙しくなるぞ、エレノア」
「はい、お父様。手間をかけてごめんなさい」
「良いんだ。けれど、大丈夫か?」
エレノアの父は心配そうに彼女に尋ねる。
何故ならばエレノアはセレンの母に、事業の管理を一つ任せようと思っているからだった。
「身体が弱いだけで、ちゃんとした治療を受ければ今よりはかなり良くなる筈です。それに……」
セレンの顔の傷と髪を思い出す。
あの件に関して、セレンの母もその使用人達もだれも口を割ることは無かった。「屋敷で事故が起きた」「セレンの情緒が不安定だ」と口裏を揃えて皆そう言い、彼女は罪に問われなかった。
褒められたことではないが、エレノアとて聖人君子ではない。
セレンが実の母にして来た事を考えればああなっても仕方がないのかもしれないとさえ思えていた。
「口が硬い上に、仕事ぶりには定評があるようなので。クレイブン侯爵家はどうなりますか?」
「他国の高位貴族だ、体裁上大した罪は問えないだろうが信じるんだ。私と殿下できっともう起き上がれない程に叩き潰しておく」
「ええ……けれど時間の問題でしょう。お金も無い、名誉も失う。嫡子は実質公爵家の愛玩となった今クレイブンに立ち直る術がない筈よ……」
「はは、それもそうだな。だがまぁ……昔からエレノアのことになると熱くなる人だからなぁ殿下は……」
「えっ、シドが?」
「気付いてなかったのか?」
「全く!……そんな、ずっと守ってくれていたのね」
緩む頬を引き締めるのが難しい、赤い頬はもう父にはバレているだろう。
けれど、それほどにシドからの愛を知ったり感じたりするのは嬉しくて幸せだった。
「ああ、私としても安心だ。早く行ってきなさい」
「いってきます、お父様!」
あんなにも幸せそうな、まるで少女のように屈託の無い笑顔を見せるのはいつぶりだろうかとエレノアの父は考えて葉巻に火をつけた。
「ふーっ……これで一安心だな」
此処からは見えないが、今頃わざわざ自ら迎えにきて、早く来すぎたか?余裕ないだろうか?と馬車の中でそわそわしてるであろうシドを思い浮かべて少し笑った。
「早く行かなくちゃ!」
早く来るだろう事を見越して誰もみていない廊下になると小走りで向かうだろうエレノアのこともまた思い浮かべた。
「……くしゅん、なにかしら?」
「エレノア!早く来すぎたかな?」
「ううん、丁度シドに早く会いたかったの」
「それは……反則だね」
「?」
しっかりと繋いだ手が心強くて、安心出来た。
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
(貴方と一緒だから)
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