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いざ、領地へ!!
しおりを挟む「私の可愛い娘イブよ……、本当に領地へ戻るのか?」
「ええ、お兄様もそろそろ首都で活躍しなければなりませんし、丁度私も領地の管理をできる程の教育は受け終えていますもの」
「向こうから望んで結んだ縁談だというのに……すまないなイブ……」
「いいのです、誰が殿下の恋心を予想出来たでしょう」
「とは言っても、私が断っていれば……」
「いいの、お父様。私は領地もお父様もお兄様も大好きですもの」
「イブ……、困った事があったらすぐに言うんだよ」
「ありがとう、お父様……では、行って参ります」
「ああ、いってらっしゃい」
ピンク色の美しい湖が恋人達の愛を祝福すると有名な観光地でもあるアフェットは資源豊かなバロウズ公爵領でその土地も広大である。
首都からそう遠くないこともあり年中観光で人が溢れていて賑やかだ。
淡い桃色の外壁が印象的なバロウズの領地にある公爵城は流石公爵家というところか、装飾が繊細で美しい。
馬車で半日ほどで到着すると、既に運び込まれている荷物はもう綺麗に整理整頓されていた。
急いだのか、少し息を乱した兄カミルが優しい表情で出迎えてくれた。
「お兄様、ただいま戻りました」
「イブリア!おかえり……疲れただろ?今日はもう休め」
「ありがとう、じゃあお言葉に甘えて……」
温かくイブリアを迎えてくれたバロウズ公爵城の皆は久方ぶりに見る、立派な令嬢となったイブリアを見て涙ぐみながら喜んだ。
彼女の為に丁寧に散りばめられたバラの湯船に浸かりながら、イブリアはルシアンと国を良くしようと約束した幼い頃を思い出す。
ルシアンからイブリアへの恋愛感情を感じたことは無かったが、彼とは深い信頼関係を築けていると思っていた。
イブリアの一方通行の愛だとしても、ただ彼からの信頼を貰えるだけで彼を支え、彼に人生を捧げられると思えるほどに愛していた。
(アカデミーに入ってからかしら……)
いつからだったのか、聖女とルシアンの噂を知った時にはもう愛しい人の視線は聖女に釘付けだった。
次々に、友人達も聖女セリエにあっさりと陥落し自由人であまり人に執着しないテディまでもが彼女に度々構っているようだった。
「……ほんと、十五歳より後はいい事が一つも無いわ」
閉じていた目を開いて、うんざりしたように独り言を呟いたイブリアは辛い恋を思い出している内に、今感じている解放感に気付いた。
肩の荷が降りた様な、もう傷つかなくてもよいという安心感。
やってみたい事や、もう二度とやりたくない事が沢山浮かんだ。
「もう、未来の王太子妃ではないのね。ここは皆温かいし……やりたい事だって好きに出来るのね!」
考えれば考えるほどに、今の状況はイブリアにとって衝撃だった。
今までの人生で自分の自由に一日を使えた事など一度も無かったから。
いつも冷静で、王太子妃になるべくして恥ずかしくない行動をと慎ましやかなイブリアが珍しく鼻歌を歌って、ご機嫌な様子で湯浴みから帰ると侍女達は驚きながらも嬉しそうにした。
「イブリアお嬢様、何かいい事がおありでしたか?」
「お嬢様のそのようなお顔は久々に見ましたわ」
侍女のアメリアは三つほど歳上のとある没落貴族の令嬢で、孤児になった彼女とイブリアが出会った事でバロウズ公爵家で引き取ってからの付き合いだ。
もう一人の侍女、メアリもまた家門の経済難から若くして富豪の老貴族に売られる所を偶々イブリアに出会った事で免れた者だった。
二人はイブリアの堂々とした振る舞いへの尊敬や、イブリアに対する恩義、そしてクールだが温かい心のイブリアを家族のように愛した。
「あなた達まで領地に連れてきてしまっておいてこんな事を言うのは気が引けるけれど……開放感に浸っていたのよ」
「そうでしたか、私達は何処であろと貴女が居られる所が居場所ですよ」
「そうです!だから、そう仰らないで下さい!」
「けれど……恋人や、友人がいたのではないの?」
「いいえ!メアリはお嬢様だけが大切な人です!」
愛らしい赤毛を二つに束ねた彼女は凄い魔法の才に恵まれながら、父親のギャンブル癖の所為で売られ、侍女などをしている。
イブリアは二人の幸せを願っており、メアリに「いつかはメアリの恋人を見たいわ」と困ったように微笑んだ。
少し考えてから冷静に「居るには居ますが……」と言葉を濁したアメリアの恋人が領地の料理人であるマスタフであった事に話は盛り上がり、
まるで普通の令嬢のように恋の話で盛り上がった。
こんなにも穏やかで、楽しい夜更かしは初めてだった。
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