9 / 56
一度くらい望んだって
「セオドア、今年の武闘大会に出席するそうだな」
「はい、陛下」
「そうか」
「陛下っ……セオドア卿も今年は参加されるのですか?」
「そうだな?セオドア」
「ええ、国王陛下、王妃殿下。今年は参加の意思を表明致しました」
「けれど、セオドア卿……貴方はルシアンのように剣や魔法の稽古をしていないじゃない、怪我でもしたらお母上に顔向けできないわ」
「大丈夫です、殿下。母も父も賛同してくれています」
「ほう、セオドア。珍しいな……何か欲しいものでもあるのか?」
「そうですね、欲しい人がいます」
「せ、セオドア卿!貴方の立ち位置は常に危うい場所に居るという事を忘れないように。多くを望んではいけませんよ。国の為にです」
「王妃殿下、心得ております。俺も、父も……母もです」
「リリーシャは元気か?」
「はい。母も陛下を気にしておりました」
「陛下、やっぱりセオドア卿には今回は……」
「リリーシャは我が妹だ、無謀な野心などは持たぬ。何を案じているんだ王妃は」
「……いえ、何もありませんわ。少しセオドア卿が心配になっただけです」
「そうか。セオドア……本当にそれだけか?」
セオドアの母は王妹であるリリーシャであった。
その為に、ルシアンを追い越さないように程々の成績を保つこと王家の血を引くものとして目立ちすぎない事を心がけざるを得なかった。
リリーシャと国王は、腹違いの兄妹だった。
妾腹である母はその生い立ちから、王宮での権力争いに疲弊し心優しい父と出会うまでは心を閉ざしていたのだ。
それに無欲なリリーシャと国王の関係は良好だった。
けれども、皆が同じ目線とは限らない。
王妃がセオドアを警戒するように、いつ誰がセオドアを担ぎ上げても可笑しくはない。
そうならぬように、より良い教育をし、より良い妻を娶れるようにルシアンを必死で育てた王妃はセオドアが活躍して権力を持つことを恐れていた。
(ルシアンは少し頼りない所がある。けれどいい王になる筈よ)
セオドアはあえて、ルシアンの比較対象にならぬようにいい加減に振る舞っているが消して無能ではないし、頭がキレる方だった。
なので王妃は国王の目を盗んではセオドアを牽制したが、本人はのらりくらりとかわすだけで特に今まで反抗もした事がなかった。
(なのに、今になって武闘大会に出るなんて!)
今までは、ソードマスターを公務を作って遠ざけたりとあの手この手を使ってルシアンより強い者を排除してきたが今回、セオドアが出るとなるとその力は未知数、不安要素が多すぎるのだ。
(万が一、セオドアがルシアンに勝ってしまったら?)
「欲しくなったんです、ただそれだけです他意はありません」
「そうか、もう行って良い」
「セオドア卿!」
「王妃殿下、わかっています。ただチャンスをくれるだけで良いのです。それに……俺よりも警戒すべき者が居ると思いますが?」
「ーっ!」
「カミル卿はソードマスターであり、バロウズ公爵家の嫡男です。妹君の名誉挽回の為に尽力するでしょう。……それでは、失礼致します」
「今年は面白くなりそうだな」
「へ、陛下!ルシアンが負けるかもしれないのですよ!」
「それも経験だ。些か甘く育てすぎた……」
「あなたっ!」
扉の中から聞こえてくる王妃の上擦った声に、セオドアは少しだけ口元を緩めた。
(一度くらい、願ったっていいだろ)
「もう、ルシアンの婚約者じゃないしね……」
「あれ?ティアードじゃないか。それにセリエも」
「まぁ!セオドア!近ごろ見ないから寂しかったのよ……っ」
「ティアードが献身的に尽くしているように見えるが?」
「セオドア!またふざけるんじゃない。セリエは本気で……」
セリエはティアードに密着させていた身を離して、セオドアの手を握って自らの頬に当てた。
「セリエっ」
「どうしたんだ、セリエ?」
「私、貴方が心配なのセオドア……何かよからぬものに惑わされて変わってしまった気がして……聖女の勘かしら……」
「へぇ、相変わらずセリエは可愛いね……嫉妬かな?」
儚げな表情だが、その瞳の奥はまるでセオドアを誘惑するように燃えているセリエの様子と遊び人であるセオドアの余裕のある危なっかしい様子を見て頬を染めてオロオロするティアードはその場では全くおいてけぼりだった。
純粋で対応しきれないれだろうティアードを見越しての行動だと言うことも、今のセオドアには分かる。
揶揄うように、けしかけるように言ったセオドアの言葉に少しだけムッとしたような表情でセリエはチラリとティアードの反応を確認した後に、ぽっと顔を赤くして反論しながら両手で顔を覆ってセオドアに背を向けた。
「そんな!聖女ともあろう者がそのようなこと……っ」
「そうだぞセオドア、セリエは純粋なんだあまり揶揄うな」
「そ、そうよ……っけれどちょっとだけ、貴方を取られてしまったような気がして寂しいわセオドア」
(どういう意味だ?セリエはセオドアが好きなのか?)
(へぇ、上手いもんだね)
「これは、告白かな?ティアード……」
「え、あ……いや……何故私に」
セリエはハッとしたように「違うわ……」としおらしく反論したがセオドアにはそれが「しまった、やり過ぎた」と感じているようにも見えた。
「聖女は行動が制限されてるでしょ……貴方達だけが私の友人なの。だから悪い人に騙されたり、誘惑されていたらと思うと不安だったのよ……私には祈ることしかできないから……」
「セリエ……っセオドアは大丈夫だ、こう見えてちゃんとしてる」
感動したようにセリエに寄り添い、涙目のセリエにそう言い聞かせるティアードにセリエが口元を緩めた気がした。
「そうだなぁ、俺は悪い女も好きだよ」
じゃあね、と手をひらひらと振って去るセオドアの言葉の真意が分からずにセリエはただ不安だった。
(悪い女とは、誰のこと?)
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
悪役令嬢は間違えない
スノウ
恋愛
王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。
その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。
処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。
処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。
しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。
そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。
ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。
ジゼットは決意する。
次は絶対に間違えない。
処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。
そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。
────────────
毎日20時頃に投稿します。
お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。