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堕ちた聖女の呪いと怒りの令嬢
イブリアの姿を見てディートリヒとカミルは心底ほっとする。
怒りの表情を浮かべていても、やはり偽物とは比べ物にならないほど輝いて見えた。
「な、なによ!」
セリエはたじろいだが、ふと自分の力が本当に全て消えてしまったのか確かめてみたくなった。
実際は、あまりの力差に効いていないだけで呪いにかかっていない訳では無く、イブリアは不本意にもほんの一瞬隙を見せた。
「動くな」
「ーっ!」
気付かぬほど、一瞬だった。
けれどディートリヒには見えていた。
(イブをあの汚らわしい力から解放しなければ)
「何で効かないのよ!?」
「傲慢な人ね。努力せずに得た物を対価無しで使っているのよ。それなりの対価を払ってきた人に通用すると思うの?」
「は……苦労してないのは貴女でしょう!!」
セリエが叫んだ時視界に入ったのは驚いた表情で立つルシアンと、呆れた表情のセオドアだった。
「……イブリア、無事か?」
「ルシアン」
「う~ん、それが素顔かなセリエ?」
「テディ、こんな時にふざけないで」
そう言ってセオドアに軽く睨みつけながら視線を移したイブリアは驚いた。
初めて見る表情だった。
怒り、不安、無事だったイブリアを見ての安心。
全てがぐちゃぐちゃにに混じり合ったセオドアの表情はいつも通り振る舞おうと努めているのは理解できたが、泣きそうな表情に怒りを含んだ瞳は今にもセリエを殺してしまいそうな程だった。
イブリアにはセオドアが何故複雑な表情をしていて、感情を隠したり誤魔化したりするのが上手なセオドアが酷く取り乱しているのか分からなかったがその中には自分への心配も少しはあるのかもしれないと考えると、申し訳なくて何も言えなかった。
「ああ。ごめんイブ。無事で良かったよ」
「ありがとう……」
「あ……違うのルシアン!私はっ」
「セリエ、それは呪いだ」
「違うわ……これは特別な力よ!」
「違う。君には呆れたよセリエ、私の件は君の所為じゃない。けれど……何故君はそうも醜いんだ。人のものを欲しがり、楽をしたがる」
「ルシアン!貴方……変わったわ」
「私はやり直すよ、セリエ。君ももう止めろ」
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!皆イブリアばっかり!聖女は私なのに!!!」
その時だった、赤々とした魔力がセリエを包み押しつぶすように地面に叩きつけた。
「ぐっ……ぅ、なに」
「うるさいの貴女です」
「うるさいのはお前だ」
同じ淡い桃色の髪に、バロウズ特有の桃色の瞳、同じように少し上がりがちな目尻と真っ白な肌。
冷ややかに見下ろす二人は、驚くほどよく似た兄妹だった。
カミルほどではないものの、イブリアもまた気が長いほうではない。
見事に被った二人の声と同じ技に驚いてお互いに顔を見合わせてからすぐにセリエに向き直るイブリアとカミル。
「……まずいな」
二人の性格を知るディートリヒは呟いたものの、イブリアの言葉に思わず仲裁をやめた。
「これが、対価を払い、成長を重ねたきた重みよ」
「そんで、これが現実だよ……頼むディート」
「後でするつもりでしたが、イブ……」
ディートリヒはイブリアに申し訳無さそうに触れて何か囁くと「大丈夫ですか?」と尋ねた。
セオドア、ルシアン、そしえセリエもが何事かと見る中カミルが不服そうかな「今日だけ許す、寧ろこの馬鹿女に見せてやれよ」なんて言うものだからイブリアはボンっと顔を真っ赤にした。
「お兄様っ」
「すみません、これが効率化的で……」
「いいのディート。私の為なのに」
「はいはい、護衛は任せなお二人さん」
そう言って見つめ合うと、唇を合わせた。
「「……っ」」
一方的な想いとはいえ想い人と違う男の口付けに思わず目を逸らすルシアンとセオドア。
ただ単に、ディートリヒの魔力を持続して流し込み呪いを解読するという力技だったが、確かにこれはディートリヒにしかできない難しい事だった。
ディートリヒの魔力がイブリアの中に巡り、探るような魔力の動きにくすぐったく感じる。
ディートリヒはすぐに呪いの刻まれている核を見つけると解読して解除に取り掛かった。
やっと唇を離したときにはイブリアの頬は赤く、不謹慎にも可愛いと感じた。
カミルの魔法でもがくセリエは恨めしげにイブリアを睨み付けていた。
イブリアへの呪いが何となく無くなった気がしてハッとした。
後からやって来た国王とイルザの到着と、皆のおかげで無事ケルエンの制圧に成功した。
王太子とセリエは拘束しランベールに連行されることとなった。
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