1 / 99
家族の愛なんてもう信じない
しおりを挟む由緒ある家門であるだけの貧乏な筈のこの伯爵家は表面上、昔と変わらない輝きを放っている。
アカデミーに通う兄の為に金策、社交会でより良い縁談を見つけたいと言うの妹の為に金策、貧しくて使用人が少ない為に貴族令嬢なのに家事や雑用もした。
「苦労をかけて御免なさいね」と涙する母の為に、後継者である兄と可愛い妹に付きっきりで忙しい父の為にこの伯爵家を守る為にひとり屋敷に篭って帳簿と睨めっこして来た。
けれど、どこから聞きつけたのか帝国から来た手紙には第三妃の喪が開けた途端にとてつもない結納金と借金の肩代わりの約束を代償に美しいと評判の末の娘を妃に寄越せという手紙だった。
暴君とは言え、皇后空席の今この大陸で二番目に権力のある女性になれるのだから名誉なことだが妹はひどく反発した。
「お父様!私嫌よっ……!帝国へ行くなんて!」
「あなた、シェリアはまだ十六歳なのですよっ……」
「うむ、だが帝国からだ……大陸が統一された今皇帝からの命令には逆らえない」
(どうして?皇帝の妻であればいい縁談じゃないのかしら)
泣き崩れる妹と母を目の前に困惑する。
妹に自分より目立つな。と父親譲りの艶やかな銀髪はありきたりな茶色に染めさせられ、貧乏故に社交会に出られない私は妹のお古のドレスを着ているがこれ程の大金があればもう新しいドレスを着られるし、妹だって皇帝の妃として裕福に暮らせるのでは?
なのに何故、使用人を含めた皆が私を見ているのだろう。
まるで、「私が代わりに行くわ」という言葉を待っているかのように。
(何かワケがあるのか、暴君だから?)
けれど本当はもっと前から勘付いていた。
「愛されている」血の繋がった家族にはそう思われていると何故か信じたかっただけだ。
兄や妹とは違う扱い「ごめんね」と言いながらも緩む口元を隠そうとする家族の表情。
「今日はシェリアお嬢様のお部屋を掃除して下さいね、ドルチェ様」とまるで見下したような侍女長の目。
ぜんぶ見れば分かる。それほど私は馬鹿じゃない。
家族は私が一番の宝だと言うが、本当は上手く利用されているだけ。
それに、もう隠せない。ずっと良い子で居た私を全て覆えしてしまうような込み上げる黒い感情。
今更になってあんなにも欲しかった「家族からの愛情」が無意味に思えた。
だって家族はいま「宝」を身代わりにしようとしているのだから。
(なら、欲しい言葉をあげるわ)
「お父様、私が行きます」
ほら、私の言葉を聞いた瞬間の表情が物語っている。
上手く行ったと心が透けて見える。
見た事もないほど醜悪に歪んだ妹の表情と、ホッとしたような母の表情。
ただ冷ややかに当たり前の事だという憎たらしい目で私を見た父の表情が何故か今日はやけに気に触る。
行くのが自分ではないと分かるが否や明るい表情で悪気の無さそうに、無邪気な声で私へと向かってくる残酷な言葉。
「見た目は劣るけれど、ただの情婦だし……お姉様でも大丈夫よね!」
「そうねシェリアが可哀想だものね」
(私も貴女の娘だけど、可哀想じゃないの?)
でももうどうだっていいとすら思えた。
あんなにも求めていた母からの愛情も、父からの信頼も。
「そうね、シェリア。此処よりはマシかもしれないわね」
「!?」
「お前……気が触れたのか?」
「お姉様、どうしたの?怒ってるの?」
ほんと、分かりやすい子。
今も私の醜態を目に口元が弛んでいるというのに、まるで声色だけは怯えたように装っている。
酷く驚いた様子の母親と、怒りを隠しきれない様子の父親を冷めた目で見下ろした。
「では、準備がありますので。お先に失礼します」
毎日あれ程楽しみだった家族との食事の時間が煩わしい。
(皇帝について調べなきゃ……)
393
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる