暴君に相応しい三番目の妃

abang

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一際輝く星は貴方の瞳

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流石は皇宮で白い薔薇が月の光に引き立たせられるこの庭園はとても綺麗だと思った。

母親は私に、令嬢である以上綺麗でいろとお金や人を割いてはくれない癖に執拗に言っていた。その癖庭園の世話をしろと使用人にでも命じるかのように命じていたが私は母が喜ぶように丁寧に庭園を作っていた。


(それでもこんなに美しい庭は作れなかったわ……)


「美しいですね」


(どうしてそんなに嬉しそうに言うんだ?)


「そうか」


言葉は途切れたけれど不思議と心地良かった。

ヒンメルの白い髪が薔薇と同じ様に月明かりに照らされて優しく輝く。

こうやって見る横顔は彼がまさか残虐な暴君だ思えない。

じっと見すぎたのかヒンメルの金色の瞳が私を捉えて思わず息を短く吸った。


「ーっ」

「何だ」

「綺麗だと、思って」

「ハ、聞き慣れてる」

「そうでしょうね」


私の興味が彼から夜空に移ると彼は鼻で笑ったのが聞こえた。


「今度は星が綺麗か?」

「貴方の瞳の方が綺麗ね、先に見るべきじゃなかったです」


拗ねたようにも見えるドルチェの表情に思わず笑ったヒンメルが何故笑ったのか分からずに訝しげに彼を見つめる。



「ふっ……くくっ」

「?」


(憎たらしいのに憎めない女だ)

「早く慣れろ、初夜はその後にする」

「……っ、そうですか」


(そうだった、私はただの情婦のようなもの。絆されちゃ駄目)


けれども彼が本気でそう思っているようにはどうしても見えない。

むしろ淡白そうな……


(何か他に目的があるのかしら……?)


ドルチェに後ろ盾などもちろん無いし、そんな事はもう既に調べられているはずだ。

魔力に興味を持ったのだとすれば妻でなくても、部下で良かった。


他に目的がある筈、例えば第二妃に不満があるだとか……


別の使い道があるとか?



どちらにせよことが大切なのだ相手の事情なんてどうだって良い。



ただ一つ分かった事はヒンメルには魔力の強い妻が必要なだけではなく、彼本人もそれに拘っているという事。


それならば魔力しか取り柄のない自分はピッタリな役割じゃないかとドルチェは自虐気味に心の中で考えていたが突然の魔力に当てられて思わず彼からの魔力の圧力を防ぐように自らもまた魔力で圧力をかける。



「どう言うつもりですか?」

「へぇ、無能ではないんだな」

「そちらこそ、見掛け倒しじゃ無くて安心しました」

「生意気な」


ヒンメルが片眉を上げて此方を睨みつけ、一歩近づこうとするがドルチェはそれを拒絶する。


どうやら彼は魔力で押し切ることは出来ないようで、自分の力がヒンメルにもちゃんと通用することを確認できただけでも収穫があったみたいだ。

一方ヒンメルは、驚いたのは一瞬ですぐに悪い顔で笑った。



(う、笑顔がこわいのよ……)



「口だけではないようだな」

「どうも」

今度は宝物でも見つけたみたいに嬉しそうに笑うから今度はこっちが驚く番だった。


「夜は冷える、もう中に入ろう」

「……はい」




私もヒンメルも物陰から走り去る人影には気付いていたが、おおよそ何者から送り込まれた者なのか予想しているので見逃し、私は口元を緩めた。



(良い出だしね。……これなら向こうアエリから来てくれそう)




ーーー


「アエリ様……っ!」

「どうだった?リエイ」


真っ直ぐな淡い紫みの銀髪をさらりと靡かせた美しい容姿のこの女性こそがアエリ第二妃だ。


とは言っても皇后、皇妃以外の妃は非公式である為に実際の所後から第三妃が来ようが、四番目、五番目が来ようが立場はあまり変わらないのだ。

だからこそ皇后、せめて皇妃の座に就くまでは他の女性を選ぶ可能性を皇帝から取り除いておく必要がある。

アエリはただ皇帝という肩書きだけではなく、ヒンメルのあの容姿、絶対的な強さが気に入っている。


ヒンメルには遠く及ばないが、自分自身が魔力に恵まれ、その恩恵を容姿に受けたアエリは自分に相応しいのもヒンメルだけで、また彼に相応しいのも自分しかいないと自負しているからこそ、彼に色目を使う者は徹底的に排除してきた。


(リエイの驚きようからして、ヒンメルに斬られでもしたかしら)


なんて余裕は彼女の小さく震える唇から出た言葉によって大きく裏切られた。




「第三妃は、皇帝陛下に並ぶ魔力の持ち主でっ、陛下は笑顔をお見せになられました……っ」


「……はぁ?」














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