暴君に相応しい三番目の妃

abang

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品のない情婦?

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ウエストの両端に、切れ目。

ドレスの裾から膝あたりまでギザギザで、胸元は元よりも深く切れ込みが入れられた独創的なデザインのドレスが届いて、ドルチェは流石に「してやられた」と思った。


アエリが急に夜会を開くなんて言うから何か魂胆があるとは思っていたが……


「まさか、業者を買収するなんてね」


けれど裾なんて切り取って仕舞えば問題は無いし、ウエストもいっそコルセットを外してくびれの部分をあえて見せれば、それはそれで斬新で良さそうな気さえしてくる。


ドレスを作る人達はこんな気分なのだろうか、急遽開かれることになった明日の夜会の為にこのドレスを修復するのが少しだけ楽しみになった。




「あなた達、裁縫はできるかしら?」



意気揚々と返事をした侍女、メイド達に紙におおよそのイメージを描いて説明していくと優秀なこの子達はすぐに作業に取り掛かった……



皆で夜遅くまで作業して、やっと出来上がったドレスを今度はもう安全だとカバーを掛けて解散したのが深夜。




翌朝、鏡の前でくるんと回ると支度を手伝ってくれた皆から口々に称賛を受けて、ドルチェもまた皆の手腕を称賛した。





「ありがとう……!うん、素晴らしいわ」




「皆のおかげよ。行ってくるわ」



皇宮で行われるこの夜会にはきっと国中から貴族達が集まる。

そんな場で恥をかかせるのが目的だったのだろう。

悲惨ドレスを着て会場へ急いだ。


皆、知りたがっているだろう、他国から来た皇宮の端に引き篭もる三番目の妃がどんな人なのか……




「何よ、あれ……!?」

「なんて甘美なんだ……」

「あの方が……お美しい人ね」

「でもちょっとドレスが斬新じゃなくて?」


先ず目を引いたのはドルチェの引き締まった白い脚、身体にぴたりと沿った膝までのスカートのドレス。


「脚を出すなんて……」

「それに、コルセットは着けてないの?」

初めこそあまりに甘美で美しいドルチェに失敗したと思ったアエリは混乱する貴族達に内心にやりとした。


「あんなの、まるで本当に情婦だわ……」


アエリの言葉に皆が口々に戸惑いを表し、これでは面子の立たないヒンメルは激怒するだろうとほくそ笑む。


ドルチェと目が合うが、特に傷ついた様子もなければ気にした風でも無いのが憎たらしくて席に着いたままのヒンメルを盗み見る。



(早く、ドルチェの鼻をへし折るのよ)


早く、早くとドルチェの破滅の始まりを願うアエリの思いが届いたのかヒンメルはゆっくりと席を立ってドルチェに向かって進んだ。




チョーカーから胸元までのシースルーで辛うじて隠れている谷間も、露わになった腰元の肌も、脚も、全部が貴族どころか大陸中を探しても居ないだろう斬新なファッションは、保守的な貴族にはにわかには受け入れ難いだろう。


そして、自らの名を汚したドルチェをヒンメルは無能だと判断するだろう……そう予想していたのに……




ヒンメルと目が合ったドルチェは怯える様子もない。


ゆっくりと距離の縮まった二人、会場の空気はこの先どうなるのかと皆息を殺して傍観している。


アエリはドルチェに主役を奪われた気分で気持ちよく無いが、これでドルチェの鼻を折ってやれるなら良いかとも考えていた矢先、



何を思ったかヒンメルは上着を脱いでドルチェの腰に巻きつけると、そのまま横抱きにして席まで歩き出した。


「ちょっと、陛下……!?」


声を上げるアエリを無視して、珍しく呆気に取られたような表情のドルチェを膝に乗せて座ると彼女の肩に口付けた。



「陛下?」

「ヒンメル」

「……ヒンメル、どうしてこんな事」

「美しいが、生憎全部俺のものだ」

「……嫉妬深いのね」

「嫉妬?馬鹿なことを言うなお前は」



黄色い歓声、驚愕、祝福、会場は予想外のヒンメルの行動に盛り上がってドルチェを「寵妃」として受け入れる。


とうとうレントンの上着まで剥ぎ取ってドルチェの肩にかけた暴君に人々の想像は盛り上がるばかりで、


アエリの予想とは裏腹に、ドルチェを嫉妬するほどに寵愛するヒンメルを焼き付けただけの失敗に終わった。


「ーっ!良いわ、この程度は通用しないって事ね」



ならもっと、痛めつけてやるわドルチェ……

アエリの視線を感じながら、ドルチェはそのままヒンメルの首に手を回した。




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