暴君に相応しい三番目の妃

abang

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危険な視察

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「何ですってぇ!?」


明日の視察の支度をそろそろ確認しておかなければと、従者に命じたところ「アエリ様は視察には同伴されないそうです」と伝えられ、アエリは叫んだ。



「今度の視察は、その……」


「あの女ね?」


「……はい、第三妃殿下が同伴するそうです」


グシャリと持っていたドレスを握り締めて、急いで部屋を出た。



「陛下の所へ行くわ!」

(あんな小娘に何が出来るって言うのよッ)




カツカツと足が痛むのも気にせずにヒンメルの元へと向かうと、丁度ドルチェが部屋から出てくる所で、相変わらずの涼しい表情に腹が立って詰め寄ってドルチェの髪を掴んだ。


「何するの」


「アンタ、やってくれたわね!」


(視察のことかしら……)


「だんまり?ほんと生意気な女だわ……!」


手を振り上げた所でドルチェと目が合って、これも何かの魔法だろうか振り上げた手が動かない。


「そっちこそ、何したの?」


「何も?強いて言うなら威嚇ですが……」


「嘘つけ!!」


「弱ぁい貴女にはテキメンだったみたいね」


「このクソ女ぁ!!」


煮えくり返った腑が収まらなくて叫んだところで、ヒンメルが気怠そうに部屋から出て来た。


「ぁ……陛下、」

「何をしているアエリ、ドルチェ……怪我は?」


髪を掴んでいる手を今更離したって遅いし、振り上げた手はゆっくり下ろせたけれどもうヒンメルには見られた後だろう。


「この髪が羨ましいんじゃない?」


「あ、アンタ……馬鹿にしてんの……っ!?」



傍観するだけで女同士の争いに余程の事がなければ口出さないのが今までのヒンメルだった。


なのに今、アエリの手首を掴んだのはヒンメルでドルチェとは比べ物にならないほどの、威嚇なんて可愛いものじゃ無いほどの殺気を向けられて足の力が抜けた。


(ーーだめ、もう倒れてしまうわッ)

流石に目の前で長年の付き合いの仮にも妃が倒れそうなら、ヒンメルも助けてくれるだろう。


そうすればそれをドルチェに見せつけて、上手く誘導すれば良い。


「えっ?」


そんな考えは全く思い通りには行かなくて、ヒンメルが私を見下ろす無表情とアエリの興味の無さそうなムカつく表情だけがやけにゆっくりと流れて見えて、


柔らかい絨毯で良かった、


膝から地面に崩れ落ちて、無様にも前に両手をついた私は力の入らない手で支えることは出来ずに地面に顔を着けた。



「きゃ!……ぶッ」



「何してるんだ第二妃は」

「……さぁ」

「視察がある。先を急ぐぞ」

「ええ」

(いいのかしら、このままで)



まるで私など眼中にないと言うような二人の会話とこの状況、羞恥心でおかしくなりそうだ。

「ムカつく、ムカつく!」


もっと酷いこと、残虐なことも、辱めることも沢山して来た。

妃、妃候補、恋人、恋人候補、ヒンメルに群がる女は全員排除して来た。



全員弱かったし、家門の力だって私は誰にも劣らなかった。


なのに、あんな……


強いだけのあんな女に負けるなんて……ッ!


「アエリ様……大丈夫ですか!」



「視察の地に行くわ……ドルチェを消すのよ」






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