暴君に相応しい三番目の妃

abang

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ヴァニティ伯爵家

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ドルチェからの手紙は一度も無い。

お父様もお母様も心配こそしていないがとても苛立っている様子でとうとう私にまで公務を手伝うように言い始め、アカデミーをもうすぐ卒業する兄の為に節約をしろとまで言い始めた。



「ドルチェの奴はなにをしてるんだ?」

「そうね……やっぱりあの子じゃ皇帝の目に留まらなかったのかもしれないわ」


「そんな馬鹿な事があるか!容姿だけはとびきり良い!」

「でも、あんなに地味じゃあねぇ……」

「お姉様の顔ってどんなだったかしら?」





ドルチェが皇帝に嫁いでからというものの、嫌がらせや圧力で事業はうまく回らないし、それ以前にドルチェが居ないと面倒な公務と事業を上手く回せる者が居ない。



正真正銘、両親の子で有能、もう覚えていないがそれで容姿まで良いというのなら何故、姉だけがこの家で軽視されて来たか……

それはだった。


一人だけ桁違いの魔力、そして驕らずに努力する勤勉さの所為で「見た目と魔力だけ」のヴァニティ家で唯一賢い子供だった。


要するに、目障りだったのだ。


先ずは兄と仲違いさせて、兄妹から孤立させた。
兄は今でもドルチェに見下されていると劣等感を抱いているし、

アカデミーに行って家を離れてから兄は、私はドルチェに虐げられていたと思っている。


段々と空気を読み取った使用人達から距離を空けられて、そんな空気を読み取った両親に事情を聞かれるたびに兄はドルチェを言わずとも見事に悪者にした。


それからはもう簡単で、甘え上手で可愛い末っ子の私は兄や父から猫可愛がりされ、母からも甘やかされた。
ヴァニティ家の愛を一心に受けた私は社交会でも勿論人気者だった。


ヴァニティの影となったドルチェには、私より目立たぬ格好を強いて更に両親を幻滅させた。

いや、もう両親も気付いていたのかもしれない。

けれどもドルチェは既にいらない子に成り下がった後で、伯爵家全体の空気が姉という共通の標的を軸に落ち着いていた。



社交は私と母が、後継と人脈作りは兄が、そして伯爵としての仕事は父が……面倒なことは全てドルチェがやることで上手く回っていた。


ドルチェはやはり有能で「頼りにしてるわ」「大切な娘だ」と姉を操るだけの空っぽの愛情を言葉にされるだけで、必死に働いた。


程よく邸に閉じ込めて働かせれば、やはり有能で金はよくまわり事業は大きくなった。

やがてヴァニティは「顔と魔力」以外に「金と権力」を手に入れ、皇帝から娘を妃にと打診されるほどになった。



(まぁそれも、皇帝の情婦だけどね)

「可哀想なお姉様……きっと酷い目にあってるんだわ」

「……それでも生きてるなら、この状況をどうにかさせんとな」

「ねぇあなた、社交会でおかしな噂聞いたのよ……」

「なんだ?」

「帝国の新しい皇妃の名が、ドルチェと……」



(は……皇妃?そんな訳ないわ!)


使い古されて、殺されればいいと思っていた。
私は「顔と魔力だけ」のヴァニティ伯爵家でいいから、自分より有能で……


(あ、そうだわ、姉は人とは思えないほど美しかった……)


自分より美しくて有能な者など大嫌いだ。
だから姉の綺麗な部分から隠させた。

有能さは閉じ込めて、ヴァニティの功績にさせた。


なのに……皇妃だなんて!

ただの情婦ではなかったの?



お父様が酷く驚いた顔の後、我がヴァニティとは思えないほど醜悪に歪んだ笑みを浮かべた。



「お前達、支度をしろ。帝都に向かうぞ」



こうして暫く私たちは帝都で暮らすことになった。





「お父様、私もお姉様に会いたいわ……」

「いいだろう、謁見を申し込もう」







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