暴君に相応しい三番目の妃

abang

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お久しぶりね、お姉様

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祖国とは比べ物にならないほど豊かな帝国、今やほとんどの国がこの帝国の属国であるのでどこも帝国という事になるが、この帝都は特に美しくて広い。

(これを、ドルチェお姉様が手にしたと思うと癪だわ)


案内人は親切だが、何処か冷たい感じのする人物でお姉様は兎も角、今から会うだろう皇帝や有名な側妃アエリはどれほど恐ろしい人物なのかと両親の緊張感が伺える。




「ようこそ、皇宮へ」



そびえ立つ城門を馬車で越えてから長かった道程をやっと終えて、広過ぎる敷地内のど真ん中に建つ皇宮。


やっと馬車を降りて長旅でふらつく脚でやっと見えた本宮の手前の別宮の貴賓室で一度休むことになってほっとした。



「ねぇお父様、あれは何かしら?」



高い建物からやっと見える程度の城壁、本宮から見れば見えるのだろうか?何となく輝いて見えるのは何らかの魔力によって守られている所為だろうか?一際気になる建物。



「さぁな、あんな高い壁だ重要な人物の城か、大切なものの保管庫だろう」


「ほんとねぇ、装飾が施されているように見えるし……アエリ側妃の宮かしらね……」


「お母様、きっとそうね!アエリ妃は愛されてるのね……」


(相手は暴君で、寵妃の居る男なんてお姉様も可哀想ね)



では、何故ドルチェが皇妃になったのか?

何かの生贄のようなものだろうか、まぁ今から会ってドルチェの惨めな姿を拝めるのだから今はこのもてなしに体を休めよう。


そう、楽しみにしていたのに……


「な、なに……これ」


謁見の間、皇座の隣にはもう一つ椅子がある。

皇妃なので皇后ではない彼女が座れないと言うのならなぜドルチェは皇座に座っているのか?

いや、何故……


寵妃である筈のアエリ妃は姿すら見当たらず、魔力に優れるヴァニティ家だからこそ分かる姉と同じ、もしくはそれ以上の皇帝の禍々しいまでの力。


恵まれた容姿など堪能する余裕を与えない隙のない雰囲気と、居るだけで圧死しそうな息苦しさ。


そんな男の膝に座って相変わらず整った笑顔を浮かべるドルチェ。


(頼んみ込んで見栄でも張ってるのかしら……)


父ですら目を合わせる事の出来ない皇帝の指が自らの横髪を弄るのを煩わしそうにするドルチェは妙に癪に触るが、どうせこれも強がりだろう。

大見栄を張って、殺されればいいーー。



「ほ、本日はお招き頂き光栄です」


「ほう来たがって居たのは其方だったろ」


「それは……、娘のドルチェが心配で」


「だ、そうだ」

「ふふっ」


恐れ多くも暴君ヒンメルにそう囁かれ、可笑しそうに彼の首元に顔を埋めてクスクスと笑うドルチェはゾッとするような冷ややかな笑顔で此方を見下ろした。


「お父様から心配されたのは、初めてですね」



「ーっ、そんな事は……」

「あら、母はいつもドルチェを心配してたわよ?」

「そ、そうよ!私達、お姉様にずっと会いたかったわ……!」



「まぁ、皇妃の家族を招待せん訳にはいかんからな」


「「!」」

「ありがとうございます、陛下ぁ」


私だって姉ほどの魔力は手に入らなかったが、恵まれた人間だ。

それに、姉にはない愛嬌と機転で国中の男達を魅了してきた。

この目尻を下げて、頬を染め、花が咲くような笑顔は武器だと自負している。夫にまで「妹の方が愛らしいな」なんて言われて絶望する姉を見てみたくなって、あからさまにほっとする父と母の表情を横目に皇帝を見上げて笑った。


「!!」


(な、にこの人、すごく美形じゃない……っ)




「妹は愛らしいでしょヒンメル」

「……そうだな(ちっぽけだな)愛らしいな」


「あら、妬けるわ」

「……本当にか?」


頬を染めてまるで普通の青年のように、姉を睨みつけるようにそう問いかけた皇帝がやけに可愛く見えて少しだけ欲しくなった。



(アエリ妃に目をつけられない程度に、少し遊んであげよっと)



「明日の祝宴の夜会は皇宮で行う、是非参加してくれ」

「は、光栄です陛下」


「日中の立食パーティーは皇妃宮で行うがこれにも参加するといい」



ニヤリと笑って私達を見下ろす皇帝に身震いした。


ドルチェの、きっと質素であろう宮を見て身の程を知ってから夜会に出ろということだろうか?


ああやって姉の唇を指でなぞって、姉の見栄に付き合っているのも気紛れだろうかーーー

情婦として、姉は存外優秀だったのかもしれないが。




「「「ひっ!」」」


ドルチェの唇をなぞって遊んでいた皇帝の指をドルチェが噛んだ。反応からして痛い程ではないだろうがピクリと反応した皇帝はドルチェをそのまま抱き上げて、

「どうやら大人しくしてられないようだな」

と、立ち去ろうとしている。



(このままじゃ、不敬罪で私達まで殺されるんじゃ……!)



「そ、そんな!待ってください!姉はきっと間違えたんです!」

「申し訳ありません陛下!!娘を許してやって下さい!」


腰を抜かした母と、咄嗟に声を上げた私と父、それを嘲笑うかのように皇帝は姉を抱き上げたまま見下ろして気でも触れたのか全く動じていないドルチェの「降ろして頂戴」という言葉を無視して私達に不躾に言葉を投げかけた。



「待てと言われてもな」

「ヒンメル、揶揄わないで」



「じゃあ、お前達……此処で見ていくか?」



「「~~~っ!!」」

「え、し、失礼しました」

「伯爵、次からは邪魔するな」


今にも殺されそうな勢いで見下ろされる家族を庇う事もなく、私達に挨拶ひとつしようとしないドルチェに違和感を感じた。


(どうして、いつもなら私達の前に出る筈でしょ……)








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