暴君に相応しい三番目の妃

abang

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彼女の家族に

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見た感じの雰囲気や外観では分からないだろうが相変わらず厳重な魔法で警備されている皇妃宮に関心する。

とはいえヒンメルにとってももう通い慣れた場所となってしまった。

ドルチェの魔法に拒絶される事なく宮に入れるこの瞬間は何度味わっても嬉しいなとさえ考える。
いつもと同じ表情なのだが、笑顔で出迎えてくれるドルチェに胸が高鳴る自分にまるで普通の男にでもなったようだと嫌気がさした。

「おかえりなさい、ヒンメル」

「ああ」

いらっしゃいではなく、おかえりなさいと言ってくれるのかとふと考えていると……

隠す気のない、子供の割にはかなりの大きさであろう力の気配が三つ、こちらに近づいてくるのを感じた。

「ふふ、待ちきれないみたい」

「……またか」

子供とは思えない身のこなしで走って飛びついてくるレイとフィア、そしてそれを追うフェイト。
初めて会った時よりも少し大きくなった三人は今ではもうすっかり遠慮が無くなっていて育てた者ドルチェに似るものだなと感心さえする。


ドルチェの側で控えている侍女のララ、そして少し離れた所に控えるリビイル、出迎えの騎士の先頭に並ぶレン……彼らの立ち位置もまた完璧だと言える。

其々の力量で主を守ることができる手の届く範囲に立ち、ドルチェもまた自分が皆を守ることができる範囲に全員を配置させている。

相手が夫だとしても、おそらく大陸で一番安全な宮だとしても気を抜かない。

そういう彼女の用心深さや賢明さは今まで見たどの妃も持ち得ないものだということ以上に、その辺の貴族の当主達よりも遥かに有能なのだ。


「陛下、やっと来た!」

「お相手してください!」

「陛下、こんにちは!」


驚く事に、この子供達もまた統率の取れた三人だ。

レイとフィアはただ突っ走って来る訳ではなくちゃんと周りを警戒しているし、きっと並ぶ騎士達が奇襲をかけたとしても瞬殺出来るだろう。

フェイトもまた二人の背後を守りながら、ドルチェと自分達の距離感を測る役割を自然にこなしている。

「やはり、惜しいな」

ドルチェが皇后になれば、これが全て本城に移る。
そうなればとうとうヒンメルの皇宮を落とせる者は居なくなるだろう。

だがそれよりももっと惜しいのは……
そんな子供達を目を細めて見つめるドルチェの表情があまりにも美しくて儚げで、それが愛おしくて仕方がないことだ。

彼女が自分の隣に当たり前のようにいる毎日はどんなものだろうか?このような目で自分を見つめる日がくるのだろうか?


「ヒンメル?あなたのマントに潜ってるわよレイ」

「……やめろ、さっさと演舞場に行くぞ」

「「「やったぁ~!!」」」

三対一、流石にまだまだあしらう程度だが三人は平凡ではない。
成長が嬉しいのか、機嫌が良さそうなドルチェを盗み見てはもう少し付き合ってやるかと、子供達との鍛錬を続ける。

リビイルは勉強熱心で、こう言う時は決まって隠す事なく熱視線を向けてくる。

「やはり、あっちも飼い主に似て遠慮が無いな」

「何の話?」

「ドルチェ……お前は付き合ってやらんのか?」

「たまにね。私とはやりたがらないの」

困った表情をするドルチェだが、ここの者達の忠誠心を考えると頷ける。

訓練とはいえ、主君に剣や拳、魔法を向けるのは気が引けるのだろう。

「俺ならいいと?」

「ふふ、ごめんなさいね」

悪びれる様子もないドルチェ、彼女がこうやって対等に接するたびに胸の辺りが温かい。

「そういえば、ドルチェ」

「なにかしら?」

「パーティーを開く、それと視察にも行く」

大陸を手に入れた際の人手を確保する必要がある。
それにあたってドルチェには人を見る目があるのだ。

「貴方が選んだらどう?」

意図をきちんと汲み取っているようで、ドルチェは片眉を上げて挑発的に笑う。

「勿論だ。だが……力を貸してくれ」

「え……」


目を見開いて、まるで予想外の事を言われたかのような様子のドルチェに今度はこちらが思わず驚く。

「何だ?」

「ええ、あなたの為なら喜んで」


(力を貸してくれだなんて……まるで本当に対等に扱ってくれているようだわ)



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