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公爵令嬢は何も知らない
しおりを挟むーーノーフォード邸 セシールside
明日の午後はダグラス様とのお約束があるので、邸も一通り落ち着いて来たと言うことで、先に王宮から連れてきたテオの直属の使用人や護衛達と、うちの使用人の正式な顔合わせをする事になった。
お互い、顔見知りも多い為簡単な挨拶となる。
「では、此方から…」
テオドールがそう言うと、侍従であるクレマンから紹介が始まった。
黒髪にマチルダのものより暗めの紅の瞳、テオドールの2つ上であり彼も、比較的魔法に優れているタイプである。
テオドールの有する王宮の第3騎士団から団長、副団長、軍師、部隊長が2人が。この場に来ていた
団長のアルマンは赤茶の短髪の側面左右を刈り上げ、残りは軽く後ろに流している、背が高く男性らしい顔付きをしている。
見た目のとおり男気があり、朗らかで正義感が強い。
副団長のフェランはブロンドの緩いカーブがかった少しだけ長めの髪と薄い茶色の瞳を持ち、線の細い身体に見えるがかなりの剣の腕前であり、魔法もそこそこ使える。そして女性にモテる。
軍師のグレゴリーは長い前髪で、瞳の色は分かりづらいが、かなり頭のキレる男である。物静かで、紫色の髪は耳の長さでの綺麗に整えられている。
部隊長である トリスタンとシェリーは
トリスタンはまだ若い、黒髪黒目の丸い目が可愛らしい青年だが、剣の腕前はかなりのもで、最年少で部隊長になった。
シェリーは女性騎士であるが、他の騎士に負けぬ程の実力であり、グレーの瞳を持つ。淡い菫色の髪は頭の高いところでまとめられており、騎士とは思えぬその肌の白さがまた彼女の切れ長の目を引き立たせている。
それぞれ、皆王宮で何度も顔を合わせているので、簡単に終えることができた。
そして、食事を摂ることし、皆は解散となった。
食事を終えると、
「セシールっ、食事が終わったらお茶でも…」
伺うようにセシールを見つめ、どうか断られませんようにと、セシールの返事を待った。
少しだけ考えて、
「…では、湯浴みのあとで部屋にうかがいます。」
と、いたって普通に返事をするセシールにほっとした。
一方セシールは、急にセシールに対して興味を示すテオドールに困惑していた。
(テオったら急に昔のように接するのね…私は貴方をどう信じればいいの。)
頭の中で浮かぶのはいつも学園でエミリー嬢に寄り添うテオドールだった。
ーーコンコンッ
湯浴みを終えて、セシールはテオドールの部屋の扉を叩いていた。
「入って!」
扉を開けて笑顔で出てきたテオドールは、セシールの湯上がりの簡単な姿にドキリとした。
プラチナブロンドの髪はキチンと乾かされているが、清潔な甘い香りがテオドールの鼻をくすぐり、
薄く桃色に染まった頬と、化粧っ気のない素顔のセシールはいつもの大人っぽさだけではなく、純粋な少女の愛らしさをも感じさせた。
コルセットのない薄いドレスは歩く度に彼女の太腿の形が分かるし、締め上げなくても細いその腰は彼女の大きすぎない女性の象徴を引き立たせた。
それでも彼女から漂う気品は決して欠けることなく、彼女に簡単に触れてはならないと思いとどまらせる。
高鳴る心臓を悟られないように、セシールをエスコートした。
「ありがとうございます、お菓子を持ってきたの。うちの料理長は料理の腕もかなりなのよ。」
「ああ、ありがとう。是非頂こう。」
2人は他愛もない話をしたり、国の未来を語り、お茶を楽しんだ。
「あら、もうこんな時間ね、」
「本当だね、セシールはもう寝るの?」
「そうね、明日は午前中に仕事をしてしまいたいので、テオは…?」
黙り込んだテオドールにセシールは首を傾げた。
「テオ…っ!?!?」
急に手を引きセシールを抱きしめたテオドールにセシールは困惑する。
いつもと違うテオドールの簡単なシャツ姿は彼の体温をダイレクトに伝えて、いつものハグとはちがう腰に添えられた片手は、まだ、子供の頃に手を繋ぐか、強いハグ程度のスキンシップしか知らないセシールに落ち着かないものだった。
片手は腰に添えられ、もう片方は背中を、いくら強いといっても単純な力で鍛えられたテオドールには敵う訳もなく、
「っ!あの、」
エミリーに触れたテオドールを嫌悪する気持ち、
初めてテオドールがセシールに向けた男性らしさ。
そして、熱っぽい眼でセシールを見つめて、帰らないでとでもいいたげにセシールの頬を撫でるテオドールにセシールの顔はリンゴのように真っ赤に染まった。
「セシール、私は心から貴方を愛しているよ。お願いだから私から離れていかないで…」
(では、エミリー嬢とはなんだったの?彼女のドレスの下に貴方の目が釘付けだったのは?その腕に婚約者ではない者が常にへばり付いていたじゃない、なぜ私の前でそれができたの?)
堪えるような小さな声で言ったテオドールの言葉にセシールの頭には沢山の言葉が浮かんだが、口から出てきたは、何とも模範的な王太子妃らしい言葉だけだった。
「…どこにも行かないわ。婚約者ですもの。」
「ちがう、もっと君のっ…」
「離して、テオ」
彼女の腰を強く抱き寄せたまま、切なく見つめ、セシールの頬を撫でその唇を指でなぞったテオドールに、背中がゾクッとし力が抜けるのを感じ初めて見るテオドールの顔にセシールは怖気付いた。
「セシール、いやだ。」
「テオ、離して、怖いわ、」
セシールがどうしたらいいか分からないと言うようにテオドールの胸を手で押せば、びくともしないテオドールは、その切なげで熱っぽい瞳で何か、セシールに求めている様にも感じた。
(お母様、どうしたらいいの、)
すっかり頭が真っ白になったセシールに、訪れた救世主は扉をノックしたリアムであった。
ノックされた扉に目を向け、無視しようとしたテオドールの代わりに声を出したのはセシールであった。
「…っ入って!」
リアムは入った瞬間のテオドールとセシールの体勢に驚いたが、礼儀正しくテオドールに挨拶をし、そっとセシールのそばに寄り手を取った。
「お嬢様、遅い時間になりましたので。婚約者と言え夜中に男性の部屋におられては、噂が立ちます。」
(お嬢様に、なにしてんだ。テオドール。)
笑っていない目でニコリと、テオドールに形式上の挨拶をして、思わず手を離した隙に、セシールのて手をとって、扉の向こうにいるダンテに引き渡した。
踵を返して戻ってきたリアムは、幼馴染とはいえ侍従であるので、心がけて丁寧にテオドールに牽制した。
「その先は、お嬢様のお心の準備がきちんと出来たときに…。」
(焦ってんじゃーねよ。お嬢様を怖がらせないで。)
礼をして部屋を出たリアムの心の声が聞こえたような気がして、ポカンとした顔でテオドールは見つめていた。
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