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公爵令嬢と王太子の想い
しおりを挟むセシールは王宮を、訪ねていた。
テオドールの執務室で待っていると、彼は急いで入って来て、すぐにセシールを抱きしめた。
いつからだろう?
エミリーの事があってから?
婚約が解消されてから?
彼はかつてのテオドールとは思えない程、セシールへの愛をあからさまに現してくれていた。
「セシール、目が覚めて良かった!知らせは聞いたんだけど…中々忙しくてね。貴女が来てくれるとは思わなかった。」
「いえ、テオは王太子ですもの。それに、私の用で貴方に足を運ばせられないわ。」
「そんな、私達は婚や…く者じゃなかったね、もう。」
悲しそうに笑ったテオドールに胸が苦しくなった。
どうして、こんなに胸が痛むの?
彼への愛は確かにある。だけれど男性としてのものではないはずなのに、こんなにも彼と離れる事が悲しいなんて…。
「セシール、貴女の顔を見て何を言われるのか分かったよ。」
テオドールはセシールに眉を下げて笑った。
「だけど一度だけ、引き留めさせて?」
「決して貴女にとってはいい婚約者ではなかったかもしれない。それでも貴女がいるから皆に評価される王太子で居られる。これからは絶対に悲しませたりしないと誓う。」
「どうか…っ私の元へ戻ってくれないか、?」
絞り出したように、言ったテオドールを突き放すことはセシールの胸を酷く締め付けた。
(ああ、彼の事をそれだけ長いこと愛して居たのね。)
「どちらにせよ、簡単に捨てられるものでは無いと思うの…テオと過ごした時間は、それでも一度壊れてしまったものを治すのは難しいわ、テオ」
「努力する。今になって思い出すんだ、貴女を待たせてばかりだったこと、貴女を何度も置いていったこと、貴女の弱さを初めて見た日、貴方が初めて私を引き止めた日…」
「なんで、っ分からなかったんだ。いつもそれでも愛してたし、伝わっていると思っていたんだ。貴女はよく出来た人だから、愛してると何度も笑顔で許してくれるから、平気なわけないのに。」
困っている令嬢を助けて、病院へ連れていった時。
セシールを巻き込む訳にはいかないと店で待っていて貰ったことがあった。簡単な治療で済んだのだが、送り届けると家族がお礼をやら、なんやらややこしくなり時間がかかった。
送る途中で、会ったクロに事情を話すと快く迎えを受けてくれた。
後から侍従にセシールが侍女と店で何時間も待っていた末に、稽古帰りのクロと、侍女を連れて歩いて帰ったと聞いた。
転移で帰れたはずなのに、そうしなかったのはきっと彼女は自分を急いで迎えに来たクロの気持ちが嬉しかったのだろう。
彼女には寄り添ってくれる人が必要だったんだ。
(まだあどけない少女が傷ついて居ないわけがない、)
今から考えると、愚かだった。
令嬢の親は、お礼だなんやと理由をつけていたが結局、セシールを置いて娘を病院へ運び家へ送っていった私に希望を持って、セシールを蹴落とし自分の娘を婚約者にしたいと、永遠と娘を紹介して居たに過ぎなかった。
そんな事は一度や二度とではなかった。
その度セシールは一瞬は悲しそうにしたが、
「殿下は王太子ですもの。皆の心に寄り添われてご立派ね、お疲れにならないように、自分も大切にして下さいね、」
すぐに私の疲れた顔を見ると、労ってくれたし不安げな私の手を恥ずかしげに握って「愛していますわ」と言ってくれた。
「テオ、私も悪い所は沢山あったわ。ただ側に居て欲しいと言えなかったの。」
「セシール、今度は幸せにする。」
セシールは首をゆっくり左右に振り、涙を流した。
「ほんとに…貴方と離れるのは胸を引き裂かれる程辛い。
…だけど、もう前のように想えていないの。
その優しさは、貴方の次期王としてのとても良い所でもあるのに、私は傷ついてしまう。
そして、貴方の居ない事に心が、慣れてしまったの。」
このまま何事もなければ、セシールは次期王妃としてテオドールと添い遂げたであろう。
エミリーに寄り添うテオを見る前は、それが当たり前だと諦めていられたし、そのままテオへの想いを見つめ直すこともなかっただろう。
5歳から、10年もテオドールの背を追い、彼を思い続けてきたし、王妃となる為に努力を積み重ねてきた。
そして、お互いにしか分かり合えない辛さの中、お互いの存在だけを心の支えに生きてきた。
セシールの想いは一種の依存とも言えた。
それが、この解消によって、皆の想いや欲望と向き合い、テオドールと自分と向き合うことで、恋というものが少し分かった気がした。
「セシール、貴方は…クロを愛しているの?」
「ええ。きっと愛しているわ。
テオに言われてずっと考えたの。今の私達なら上手く行ったか…そんな事ばかり考えてしまったのに、
クロの事は、その優しさの沼に沈んでるようだと思った。彼の優しさが私を立たせてくれていると気づいてしまった、」
「ごめんなさい、テオ。ほんとうに、ほんとうに愛していたわ。そしてきっと貴方との日々を忘れる事はないでしょう。これからは恋人ではない家族のように、大切な人として貴方を愛しているわ。」
テオドールはただ涙を流した。
セシールも、涙を流していた。
彼女達の恋は、あまりにも未熟で幼かった。
だけど二人はとてもアルベーリアを想う者であった。
「最後だけ、」
テオドールは強く強く、言葉にならない想いを伝えるようにセシールを抱きしめて、涙を流し続けた。
セシールもそっと肩に手を添えて、涙を流した。
「今までありがとう、テオ。とても幸せだったわ。」
「嘘を…貴女は最後まで優しい。ありがとう、幸せになって、セシール。」
(ずっと、貴女を愛しているよ)
その言葉は伝える事なく、彼の心にそっとしまっておいた。
(本当よ、テオ。貴方が私の全てだったのよ)
「「これからは、幼馴染として。アルベーリアの為に。」」
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