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公爵令嬢の好きな人2
しおりを挟むセシールが目を覚ましたと通信を貰って、すぐに支度をする。
あれから残されたテオと俺は、もう向き合うしかなかった。
ーーー
「テオ…確かに、俺は優柔不断な態度をとっていたよ。テオにも、セシールにも失礼な態度だった。」
「いや、それは私も同じだったよ。それに、幼かったとは言え、ずっとクロの想いは知っていた上で親友だとクロを牽制して、いつもその想いに蓋をさせるように持って行った。」
「…それはいい。分かっていた。テオとセシールを天秤にかけた訳じゃない。いつも自分で選んで行動してきた。」
「クロ…私はセシールに自分勝手に感情や欲望を押し付けていた。肝心な時、彼女の想いに答えた事は無かったのに。」
「悪いのはお前だけじゃない、俺も、きっとセシールを愛している人間はそうだ。理想を押し付け、心に触れる勇気はない。」
「…、いやクロはいつも彼女の心に寄り添っただろう。私達はかけがえのない友だ。クロ、言ってくれ。」
「一度だけ、臣下としてではなく親友として、セシールを諦めない事を許して欲しい。」
「私も親友として、セシールを諦めない事を許してほしい。」
顔を見合わせて、困ったように笑った。
「頭でっかちで困るな、俺たちは」
「ほんとに大馬鹿ものだよ。」
ーーーー
セシールは目を覚ましてすぐ、ベッドの脇で眠ってしまっているダンテを見て、優しく微笑んだ。
「居てくれたのね…」
「…お嬢様。」
リアムがそっと入って来た。
「リアム、また心配をかけてしまったわね、」
「リアム?」
黙って動かないリアムにそっとベッドから下りて歩み寄ると。
リアムは黙ったまま強くセシールを抱きしめた。
「…お嬢様、あんな奴等のとこに嫁がなくたってお嬢様には僕達が居るし、ノーフォードがあるじゃないですか。」
「そうなると、結局今度は婿を取らなくちゃいけないわね?同じ事よ、どのみちノーフォードは私達が守っていくわ。」
屋敷で一番人の気配に敏感なリアムがピクリと反応する。
「お嬢様、客が来たようです…」
「ええ、そうね。支度をするのでお通ししてくれる?」
「…………。わかりました。」
あからさまに嫌そうな顔で行ったリアムの背中に、
「ありがとう」と言いながら、ダンテに毛布をかけてやり、支度をしに行こうとしたら…パシリと腕を掴まれてしまった。
「セシール様、いけない事だと分かっています。あの方達に比べると私は新参者。でも貴女を行かせたくない。これ以上悩み苦しむお姿をみていられません。」
「ダンテ…、」
「私なら、お嬢様にそんな顔をさせない。きっと見合う男になります。今選んでくれとは言いません。」
ふう、と短く深呼吸して微笑んだダンテは立ち上がって、セシールを優しく抱きしめる。
「もし、選んだ道が辛くて、貴女が幸せではない時。迷わず私の所へ来て下さい。私は貴女の騎士でもあります。この命ごと、私の生涯を愛するセシール様に捧げられて幸せなんです。」
「だから、貴女にも幸せでいて欲しい。」
「…ありがとう。貴方が居てくれて本当に幸せだわ。私の騎士が貴方で良かった。…ごめんなさいダンテ、本当にありがとう…。」
頬を染めて、切なげに、だけど幸せそうに笑ったセシールがダンテの背中を少し抱きしめ返したのが合図のように、二人は部屋を出て、エイダとエイミーの元へ向かった。
ーー
「セシール、目を覚ましたばかりなのにすまない。」
「いえ、クロいいの。私こそ少し取り乱してしまって…」
伏せ目がちな彼だが、何か吹っ切れたような、すっきりしたような顔をしていてきっと、何か話があるのだろうと思った。
「謝らないで欲しい。俺こそ全く隠し切れていないのに、セシールへの気持ちを言わない事で、テオに体裁を保っているつもりでいた。どちらも失ってしまいたくなかった。」
セシールは、軽く目を身開いた後、観念したように、ポツリポツリと話し出したのだ、
テオドールの言葉を脳内で何度も再生し、テオドールへのこの切ない気持ちは恋なのか、または家族と離れるような感情なのか、ずっと考えていた。
確かに、昔のセシールはテオドールの言葉を、想いを、ただその存在が側にいてくれる事を切に願っていたし、その背中をずっと追いかけてきた。
テオを愛していたから、寂しくて、辛かった。
いつから平気になった?いつから辛くなかった?
(セシール、テオとさっき会って…あの、俺も稽古の帰りで馬車ではないんだが一人よりはマシだろう…。)
昔、人助けの為にデートの途中で抜けた彼が帰ってきて抱きしめてくれるまで何時間も店で待つ私を結局迎えに来たのは汗だくで走って来たクロだった。
いつも、テオの万人へ向けられる愛は優しかったが、私はひとりだった。
やがて国王となる彼の妻となるとなら、当たり前の我慢だと言い聞かせていたが、彼はとても優しい人でいつも愛を分け与えていて、私の元へ戻ったときにはとても疲れているように見えて、わがままを言えずに居た。
(どのみちこのような気持ちの私では、王妃など務まらなかったわね…)
「……私はずっと、テオを想っていると言うくせに、クロの気持ちを知らずに甘えてばかりいたわ。凄く嫌な女よね。クロがそうするのも当たり前だったわ。貴方はいつも可能な限り側へ駆けつけてくれていたのに…。」
「ちがう、俺は…前にも言ったけど、…っ愛してる。本当は俺を選んで欲しいと思っている。聞き分けの良いふりをしていただけで、セシールをずっと俺が幸せにしたい。」
「クロ…貴方と居ると、凄く安心するの。
この立場や地位に押し潰されそうな時も、まるで甘い沼へ落ちてしまったように、クロの優しさに深く沈んでしまうの….
貴方の触れた所はほんのり熱くて、最近は、その髪も瞳も、まるで、ノーフォードの、私の為に生まれてきた証ではないのかと錯覚してしまう。」
「セシール…俺と…結婚して欲しい。俺の全ては出会ったあの日からすでにセシールのものだった。」
「………っまだ、テオと別れたばかりで。テオへの切ない想いが踏ん切りをつけられていないのも事実なの、」
「もちろん。分かってる、テオとちゃんと話し合って改めてセシールの気持ちが俺にあるのなら、今度はきちんとプロポーズしようと思う。その時は笑顔で頷いて欲しい。」
「ええ、…それを話しに来てくれたの?」
「ああ。早い方がいいと思ってな。」
「…ちゃんと気持ちに区切りをつけるわ。少しだけ待っててくれる?男性としての形ではなくなったけれど、テオを家族のように愛してるの。」
「少し、不安だな。テオを好きなお前ばかりずっと見てきたものだから。」
苦笑して「冗談だよ、身体を休めて。こんな時にきて悪い」と帰って行ったクロの言葉を思い出して頬をほんのり染めた。
「クロの全てが私のものだなんて、大袈裟よね、ふふ」
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