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第56話 アイドル
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お昼の時間にはパンをトーストして、冷凍されていた手作りコロッケを解凍して食べた。
「冷凍コロッケ手作り……」
そんなの、やったことない。というか揚げ物をそんなにしない。
「……深海さん、料理のこと、特技か趣味って言って良いと思います……」
「あー、考えたこともなかったですね……自分にとって普通なので……」
「ちゃんとした生活をしている人の普通が眩しい」
「……ウチに来れば出来ますよ、ちゃんとした生活」
「あ、また、それ言ってる……」
「ほら、来週からオフなしですし……一緒にいる時間を増やすという意味でも……駄目ですか……?」
深海さんはじっと私を見つめてきた。
そう言われると、確かに寂しい気持ちはしてしまう。
しかしオフなしで毎回深海さんの家に泊まるのでは、私の体がもたない。
「……駄目です」
がっくりと深海さんはうなだれた。
「ほら、今はとにもかくにもシュンくんのドラマの成功を祈りましょう!!」
私は話をそらしてしまった。
私は深海さんの家を夜になる前に辞した。
深海さんは車で家まで送ってくれた。
夕飯は少しがんばろうかとも思ったが、結局コンビニで焼き肉弁当を買ってきてしまった。
「……ちゃんとした生活……」
深海さんの提案は正直に言ってとても魅力的ではあった。
しかしなかなかその覚悟が持てなかった。
コンビニ弁当をお腹に押し込んで、私は眠る準備をした。
「集中できねー!」
リクくんがダンスレッスンの最中にそう叫んで床に転がった。
「リク!」
エイジくんがお叱りの声を飛ばす。
「だって今日だぜ! 今日シュンの初ドラマ! 緊張する!」
そう言って、リクくんは床をゴロゴロ転がり出した。
けっこうリクくんは緊張屋さんなのかもしれない。
「落ち着け」
「シュンは逆に何でそんな落ち着いてんの!?」
リクくんは逆ギレし始めた。
「ほらほら、写真撮るぞー」
深海さんが緩く脅す。
「う~」
リクくんがのろのろと立ち上がった。
「がんばりまーす!」
「集中!」
「……いつもの、やっとく?」
シュンくんが提案した。
「おお! いいね!」
リクくんは顔を輝かせた。
「いつも心に太陽を!」
「爽やかな風のような笑顔を!」
「木陰のように安らげる場所を!」
「トライアングルアルファ! 出陣!」
3人は楽しそうに円陣を組んで、ダンスレッスンに戻った。
「……ところで3人に動画配信の話……」
「しそびれてますね……あ、モラル藤原さんには顛末、報告しましたけど」
「なるほど」
そういえばお姉さんの名前をまだ聞いていない。いつなら会えるだろうか。
「おーい! みんな! ビッグニュース!」
相変わらず三角社長がノックもせずに入ってきた。
「どうした!? 『刑事藤野の初恋』役者の不祥事で延期なった!?」
……過去にそういうことがあったのだろうか。
リクくんがやけに焦っている。
「大丈夫良いニュース。『クイズどれにしようかな?』のオファーが来た! 三角アイドル事務所チームにだ!」
「うおおお!?」
「…………!」
「すごい!」
リクくんシュンくんエイジくんが三者三様に驚く。
「オファーですか?」
深海さんもメガネ越しに目をまん丸くしながら驚く。
「うん! こないだのシュンの評判を見て……とか言ってたけどぶっちゃけ某映画チームの撮影が押してるから穴埋めにって感じ」
「なるほど……」
「穴埋めでもチャンスはチャンス……ですよね?」
「もちろんだよ、高山くん! とりあえずトーク要員でモラル藤原くん、あと誰か1人スケジュール合う中堅俳優、見繕っとくね」
「よろしくお願いします!」
「お願いします!」
深海さんの先導で私達は頭を下げた。
リクくんはすっかりやる気を取り戻し、起き上がってダンスレッスンを再開した。
「あ、高山くん、プレゼント今日の夜には我が家に届くから」
「ありがとうございます……」
「いいね、いいねえ、アイドルっぽくなっていく」
嬉しそうに三角社長はトライアングルアルファの3人を見た。
「……そう言えば、三角社長。三角アイドル事務所ってなんでアイドル事務所なんですか……?」
「ん、ああ、アイドルって偶像って意味があるだろう?」
「偶像、ですか」
「そう。アイドルって言うとどうしても歌って踊れるキラキラしたチームってイメージがあるけど、偶像って意味じゃすべての芸能人は……いや、人間はアイドルだと思ってる。この三角哲三も含めてね」
「人間はアイドル……」
「人は人に自分の見たい姿を見るのさ。恋、みたいなものか」
内心ギクリとする。
「そんな人間たちを売り出したくて、この事務所を打ち立てた。そういう感じ」
「なるほど……ネット辞典、編集しておきます?」
「あはは、あれ、インタビューとかで言わないと[要出典]ではねられるんだよねえ」
そう笑って三角社長はダンススタジオを後にした。
「じゃあ、また夜に」
今日は三角社長の家で、トライアングルアルファの3人と『刑事藤野の初恋』を鑑賞することになっているのだ。
「……楽しみだなあ」
私はしみじみと呟いた。
「……そうですね」
いつの間にやら、隣に来ていた深海さんもうなずいた。
私達はこっそりと見つめ合い、微笑みを交わした。
「冷凍コロッケ手作り……」
そんなの、やったことない。というか揚げ物をそんなにしない。
「……深海さん、料理のこと、特技か趣味って言って良いと思います……」
「あー、考えたこともなかったですね……自分にとって普通なので……」
「ちゃんとした生活をしている人の普通が眩しい」
「……ウチに来れば出来ますよ、ちゃんとした生活」
「あ、また、それ言ってる……」
「ほら、来週からオフなしですし……一緒にいる時間を増やすという意味でも……駄目ですか……?」
深海さんはじっと私を見つめてきた。
そう言われると、確かに寂しい気持ちはしてしまう。
しかしオフなしで毎回深海さんの家に泊まるのでは、私の体がもたない。
「……駄目です」
がっくりと深海さんはうなだれた。
「ほら、今はとにもかくにもシュンくんのドラマの成功を祈りましょう!!」
私は話をそらしてしまった。
私は深海さんの家を夜になる前に辞した。
深海さんは車で家まで送ってくれた。
夕飯は少しがんばろうかとも思ったが、結局コンビニで焼き肉弁当を買ってきてしまった。
「……ちゃんとした生活……」
深海さんの提案は正直に言ってとても魅力的ではあった。
しかしなかなかその覚悟が持てなかった。
コンビニ弁当をお腹に押し込んで、私は眠る準備をした。
「集中できねー!」
リクくんがダンスレッスンの最中にそう叫んで床に転がった。
「リク!」
エイジくんがお叱りの声を飛ばす。
「だって今日だぜ! 今日シュンの初ドラマ! 緊張する!」
そう言って、リクくんは床をゴロゴロ転がり出した。
けっこうリクくんは緊張屋さんなのかもしれない。
「落ち着け」
「シュンは逆に何でそんな落ち着いてんの!?」
リクくんは逆ギレし始めた。
「ほらほら、写真撮るぞー」
深海さんが緩く脅す。
「う~」
リクくんがのろのろと立ち上がった。
「がんばりまーす!」
「集中!」
「……いつもの、やっとく?」
シュンくんが提案した。
「おお! いいね!」
リクくんは顔を輝かせた。
「いつも心に太陽を!」
「爽やかな風のような笑顔を!」
「木陰のように安らげる場所を!」
「トライアングルアルファ! 出陣!」
3人は楽しそうに円陣を組んで、ダンスレッスンに戻った。
「……ところで3人に動画配信の話……」
「しそびれてますね……あ、モラル藤原さんには顛末、報告しましたけど」
「なるほど」
そういえばお姉さんの名前をまだ聞いていない。いつなら会えるだろうか。
「おーい! みんな! ビッグニュース!」
相変わらず三角社長がノックもせずに入ってきた。
「どうした!? 『刑事藤野の初恋』役者の不祥事で延期なった!?」
……過去にそういうことがあったのだろうか。
リクくんがやけに焦っている。
「大丈夫良いニュース。『クイズどれにしようかな?』のオファーが来た! 三角アイドル事務所チームにだ!」
「うおおお!?」
「…………!」
「すごい!」
リクくんシュンくんエイジくんが三者三様に驚く。
「オファーですか?」
深海さんもメガネ越しに目をまん丸くしながら驚く。
「うん! こないだのシュンの評判を見て……とか言ってたけどぶっちゃけ某映画チームの撮影が押してるから穴埋めにって感じ」
「なるほど……」
「穴埋めでもチャンスはチャンス……ですよね?」
「もちろんだよ、高山くん! とりあえずトーク要員でモラル藤原くん、あと誰か1人スケジュール合う中堅俳優、見繕っとくね」
「よろしくお願いします!」
「お願いします!」
深海さんの先導で私達は頭を下げた。
リクくんはすっかりやる気を取り戻し、起き上がってダンスレッスンを再開した。
「あ、高山くん、プレゼント今日の夜には我が家に届くから」
「ありがとうございます……」
「いいね、いいねえ、アイドルっぽくなっていく」
嬉しそうに三角社長はトライアングルアルファの3人を見た。
「……そう言えば、三角社長。三角アイドル事務所ってなんでアイドル事務所なんですか……?」
「ん、ああ、アイドルって偶像って意味があるだろう?」
「偶像、ですか」
「そう。アイドルって言うとどうしても歌って踊れるキラキラしたチームってイメージがあるけど、偶像って意味じゃすべての芸能人は……いや、人間はアイドルだと思ってる。この三角哲三も含めてね」
「人間はアイドル……」
「人は人に自分の見たい姿を見るのさ。恋、みたいなものか」
内心ギクリとする。
「そんな人間たちを売り出したくて、この事務所を打ち立てた。そういう感じ」
「なるほど……ネット辞典、編集しておきます?」
「あはは、あれ、インタビューとかで言わないと[要出典]ではねられるんだよねえ」
そう笑って三角社長はダンススタジオを後にした。
「じゃあ、また夜に」
今日は三角社長の家で、トライアングルアルファの3人と『刑事藤野の初恋』を鑑賞することになっているのだ。
「……楽しみだなあ」
私はしみじみと呟いた。
「……そうですね」
いつの間にやら、隣に来ていた深海さんもうなずいた。
私達はこっそりと見つめ合い、微笑みを交わした。
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