『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾

文字の大きさ
14 / 105

第14話 知りはじめる

しおりを挟む
「……と、あら、伝令ですね」

 ニンフが部屋のドアに向かって耳を澄ました。
 私には何も聞こえなかったが、彼女には何かが聞こえたらしい。

「ドアを開けてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。お願いします」

 ニンフがドアを開けるとそこには黒い羽根が艶やかな烏が羽ばたいていた。

「はいはい……ええ、わかりました」

 烏が鳴くのをニンフは頷きながら聞いていた。
 私にはただの鳴き声にしか聞こえないが、ニンフには意味がわかるらしい。

「お妃様、陛下が今日の夕食を一緒にとりたいとおっしゃっています」

 ユリウスと、夕食をともに。

「あ、はい、ぜひに」

 私は即答していた。

「わかりました」

 ニンフが烏に私の返答を伝えると、烏は飛び去っていった。

「それでは晩餐用のドレスを用意させますね」

「え? あ、はい、お願いします」

 今着せられているドレスも普段着にするにはなかなかの華美さだと思っていたが、どうやら魔王との晩餐に出席するにはこれでもまだ不釣り合いらしい。

 昼食を終え、ニンフたちが片付けてくれているのを眺めながら、私は口を開いた。

「あ、あの……私、刺繍が趣味で……ええと、針や糸、布を補充することは出来ますか? 赤色の糸がなくなってしまったの」

「わかりました。仕立て部屋に声をかけておきますね。ああ、それとも、仕立て部屋を訪ねてみますか?」

「……いいのかしら? 私、勝手に部屋を出て」

「あら、構いませんよ。お妃様ですもの。自分のお家だと思ってくつろいでくださいな。でも、どうしても気になるというなら、夕食時に陛下に確認してください」

「あ、そうですね。そうします」

「では仕立て部屋の方には私から確認しておきますね」

 ニンフはそう言って微笑んだ。



 昼飯を食べ終えて、私は夜のユリウスとの晩餐に向けて、ゆっくり休むことにした。
 部屋から出てもいいというニンフの申し出は思いもがけないものだった。
 なんとなく魔界に来たからには幽閉されているようなイメージがあったが、ユリウスも別に部屋に閉じこもっていろとは言っていなかった。
 ただ、言われたとおりに自分の家だと思って城の中を歩き回る気にもなれなかった。
 魔物は人間を食うものもいる。それは間違いないのだ。
 そういう魔物に出くわさないとは限らないし、それにユリウスが言っていた。

「心は自分で守れ」、と。

 ユリウスは心を乱されるようなことが起こり得ると思っているのだ、この城では。
 正直に言って、魔王に嫁入りした時点で、もうそれ以上に驚くようなこともないとは思うが、私はそれに従い、警戒をしなくてはいけない。

 ところでニンフやシルフは信頼していいのだろうか?
 ユリウスが私につけて、それ以上、干渉してこない以上、信頼しても良い気がする。
 本当に、私は何もわからないのだ。
 自分で自分を守るしかないのに、知らないことが多すぎる。

 私は知らなくてはいけない。

 きちんとここについて知らなくては。
 自分が何を出来て何が出来ないのか。
 きちんと把握しなくてはいけない。

 子供を産むためだけの存在だとしても、仮にもユリウスの王妃としてここにいるのだから。
 とにもかくにも、晩餐までの時間を私は静かに過ごした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

売られた先は潔癖侯爵とその弟でした

しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。 潔癖で有名な25歳の侯爵である。 多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。 お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。

処理中です...