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第17話 仕立て部屋
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結局、結婚式のことや先代の魔王については聞けなかった。
どこか気恥ずかしかったというのもある。
「じゃあ、また後で」
食事終わりにそう言われたので後で話せばいいと思ってしまったというのもある。
私室に戻り、お風呂に入り、ベッドに腰掛ける。
しばらく待っていたが、ユリウスは訪れなかった。
「お妃様」
どれだけ時間が経っただろうか囁き声でニンフがドアから呼び掛けてきた。
「は、はい」
「陛下は今夜、夜通し執務に当たられます。先に休んでいるようにと伝言がありました」
「そう……、ありがとうございます。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
ニンフが立ち去っていく。
私はため息をついて、ベッドに潜りこんだ。
目を閉じると、意外にすんなりと眠りにつけた。
翌朝、鐘の音で起きた。
入浴は必要なかったが、そういうことをしているしていないの区別がつくのが恥ずかしくて、私は入浴させてもらった。
これから毎朝毎晩風呂に入ることになるのだろう。
なんと贅沢なことか。
やはり量を少なめにしてもらえた朝食を食べ終えると、私はニンフに連れられて部屋の外に出た。
「仕立て部屋と……音楽室と……書庫と……ああ、美術品の部屋もいいですね」
ニンフが指折り数える。
「気になる部屋はありますか? お妃様」
「そもそもどんな部屋があるのか……」
「そうですよね。とりあえず、まずは仕立て部屋にご案内しますね。それから色々見に行きましょう」
「よろしくお願いします」
「もう、お妃様、そうかしこまらないでくださいませ」
「あ、はい……」
仕立て部屋は階段を3階下ったところにあった。
「ようこそいらっしゃいませ」
仕立て部屋の中では、小人たちが慌ただしく走り回っていた。
代表らしき小人が深々と礼をして私を迎え入れる。
「お妃様、こちらエルフ族です」
ニンフが紹介してくれる。
「お、おはようございます」
「はい、お妃様。本日はこのような騒がしいところにおいでいただき光栄です」
「ど、どうも……」
「よろしければ、お妃様の衣装をご覧くださいませ。こちら間に合いませんでしたが、春物のドレス」
黒一色ながらも華やかさのあるドレスがトルソーに飾られている。
今まで見てきたものと違ってスカートが腰から膨らむのではなく、足元の方で広がっている。
「ええと……?」
間に合わなかった?
そういえば、ユリウスはいつから私を探していたのだろう?
先代の魔王が死んだのは最近だと言うが、最近と言っても人間と寿命の違うらしい魔族とは最近の感覚が違うかもしれないし、そもそも先代の魔王が死ぬ前から探していたのかもしれない。
「来年に着てもらえばいいじゃないの」
ニンフが華やかな声でそう言った。
来年、その頃には私はどうしているのだろう。
ここに馴染んでいるのだろうか。
「そうですね。そしてこちらがサマードレス。公式の式典にも着ていける仕様のものです」
こちらも黒いドレスだが、作りが違うのが見て分かる。
一番の特徴は袖が無いことだろうか。
「あ、ありがとうございます」
「今は秋冬のドレスを用意させています。他にも欲しい宝飾品などありましたらお申し付けください。出来る限りのものを用意させます」
「……は、はい」
なんだかこんなに贅沢をさせてもらって申し訳ない。
「そしてこちらが結婚式のドレス」
「あ……」
やはり黒色だった。深い深い吸い込まれてしまいそうな漆黒のドレス。
今までのドレスの中で一番スカートも袖も膨らんでいて、宝石がたくさんついているドレスだった。
スカートは引きずるほどに長い。胸元は首まで覆われている。
まだ刺繍や飾りつけの途中だった。
「普通のドレスはすぐにサイズを変えられるのですが、さすがにウェディングドレスはお妃様の体型を把握してから作りだしたのでまだ未完成です」
「そう、ですか……あ、あの、この刺繍……ええと……」
自分に刺させてもらえないか、そう言いかけて、やめた。
私の住んでいた地域では自分自身の花嫁衣装には自分で刺繍を施すのがならわしだった。
でも、これほど豪華なドレスに刺繍させてくれと言うのはさすがにためらわれた。
「美しいでしょう?」
エルフは私の態度をどう思ったのかそう言った。
「護符の刺繍をほどこしています。花嫁を魔から守ってくれます」
「…………」
魔界でも魔から守るという概念はあるらしい。
何だか不思議な感じだ。
「ええと、それでご用は……?」
「あ、あの、赤い刺繍糸があれば、分けていただけませんか?」
「もちろんですとも」
エルフは仕立て部屋の奥から箱を持ってきた。
「こちらカーバンクルの毛から取りました色とりどりの刺繍糸です。赤でしたら元祖カーバンクル、ルビー・カーバンクルから取ったものになります」
「わあ……」
その糸はキラキラと艶めいていた。
まるで宝石のようだった。
「…………」
刺繍糸があったのは良いけれど、これでは今まで使っていた糸の続きに刺したら色が違いすぎるだろう。
「あ、ありがとうございます。使っていいのかしら」
「こちらの糸、よろしければ全部を後でお妃様の部屋に届けさせますよ」
「あ、ありがとう……」
恐縮しながら私は礼をした。
「ところでお妃様、寝間着や普段着に困ったところはありませんか。改良しますが」
「ええと……いえ、ないです」
何せ今までボロに近い服を着てきたのだ。
高級で着心地がよすぎて文句をつける気には到底なれない。
「それならよかった」
エルフはにこりと微笑んだ。
「……あ、そうだ。ええと、黒ってその、魔界では基本的な色なのでしょうか」
「ええ、そうですね。一番尊い色だと言われています。魔王城に勤めている者の服装は黒で統一されていますし、魔王陛下やお妃様の服も黒が基本でございます」
「そういうものなのですね……」
「ですが、必ず黒でなくてはならないということもありません。好きな色はございますか?」
「好きな色……。青、かしら、ええと、これみたいな」
刺繍糸を示す。
夜空のような深い青が、私は好きで、刺繍にもよく使っていた。
「わかりました」
エルフは手元のメモ帳に何やら書き付けた。
私とニンフは仕立て部屋を出た。
どこか気恥ずかしかったというのもある。
「じゃあ、また後で」
食事終わりにそう言われたので後で話せばいいと思ってしまったというのもある。
私室に戻り、お風呂に入り、ベッドに腰掛ける。
しばらく待っていたが、ユリウスは訪れなかった。
「お妃様」
どれだけ時間が経っただろうか囁き声でニンフがドアから呼び掛けてきた。
「は、はい」
「陛下は今夜、夜通し執務に当たられます。先に休んでいるようにと伝言がありました」
「そう……、ありがとうございます。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
ニンフが立ち去っていく。
私はため息をついて、ベッドに潜りこんだ。
目を閉じると、意外にすんなりと眠りにつけた。
翌朝、鐘の音で起きた。
入浴は必要なかったが、そういうことをしているしていないの区別がつくのが恥ずかしくて、私は入浴させてもらった。
これから毎朝毎晩風呂に入ることになるのだろう。
なんと贅沢なことか。
やはり量を少なめにしてもらえた朝食を食べ終えると、私はニンフに連れられて部屋の外に出た。
「仕立て部屋と……音楽室と……書庫と……ああ、美術品の部屋もいいですね」
ニンフが指折り数える。
「気になる部屋はありますか? お妃様」
「そもそもどんな部屋があるのか……」
「そうですよね。とりあえず、まずは仕立て部屋にご案内しますね。それから色々見に行きましょう」
「よろしくお願いします」
「もう、お妃様、そうかしこまらないでくださいませ」
「あ、はい……」
仕立て部屋は階段を3階下ったところにあった。
「ようこそいらっしゃいませ」
仕立て部屋の中では、小人たちが慌ただしく走り回っていた。
代表らしき小人が深々と礼をして私を迎え入れる。
「お妃様、こちらエルフ族です」
ニンフが紹介してくれる。
「お、おはようございます」
「はい、お妃様。本日はこのような騒がしいところにおいでいただき光栄です」
「ど、どうも……」
「よろしければ、お妃様の衣装をご覧くださいませ。こちら間に合いませんでしたが、春物のドレス」
黒一色ながらも華やかさのあるドレスがトルソーに飾られている。
今まで見てきたものと違ってスカートが腰から膨らむのではなく、足元の方で広がっている。
「ええと……?」
間に合わなかった?
そういえば、ユリウスはいつから私を探していたのだろう?
先代の魔王が死んだのは最近だと言うが、最近と言っても人間と寿命の違うらしい魔族とは最近の感覚が違うかもしれないし、そもそも先代の魔王が死ぬ前から探していたのかもしれない。
「来年に着てもらえばいいじゃないの」
ニンフが華やかな声でそう言った。
来年、その頃には私はどうしているのだろう。
ここに馴染んでいるのだろうか。
「そうですね。そしてこちらがサマードレス。公式の式典にも着ていける仕様のものです」
こちらも黒いドレスだが、作りが違うのが見て分かる。
一番の特徴は袖が無いことだろうか。
「あ、ありがとうございます」
「今は秋冬のドレスを用意させています。他にも欲しい宝飾品などありましたらお申し付けください。出来る限りのものを用意させます」
「……は、はい」
なんだかこんなに贅沢をさせてもらって申し訳ない。
「そしてこちらが結婚式のドレス」
「あ……」
やはり黒色だった。深い深い吸い込まれてしまいそうな漆黒のドレス。
今までのドレスの中で一番スカートも袖も膨らんでいて、宝石がたくさんついているドレスだった。
スカートは引きずるほどに長い。胸元は首まで覆われている。
まだ刺繍や飾りつけの途中だった。
「普通のドレスはすぐにサイズを変えられるのですが、さすがにウェディングドレスはお妃様の体型を把握してから作りだしたのでまだ未完成です」
「そう、ですか……あ、あの、この刺繍……ええと……」
自分に刺させてもらえないか、そう言いかけて、やめた。
私の住んでいた地域では自分自身の花嫁衣装には自分で刺繍を施すのがならわしだった。
でも、これほど豪華なドレスに刺繍させてくれと言うのはさすがにためらわれた。
「美しいでしょう?」
エルフは私の態度をどう思ったのかそう言った。
「護符の刺繍をほどこしています。花嫁を魔から守ってくれます」
「…………」
魔界でも魔から守るという概念はあるらしい。
何だか不思議な感じだ。
「ええと、それでご用は……?」
「あ、あの、赤い刺繍糸があれば、分けていただけませんか?」
「もちろんですとも」
エルフは仕立て部屋の奥から箱を持ってきた。
「こちらカーバンクルの毛から取りました色とりどりの刺繍糸です。赤でしたら元祖カーバンクル、ルビー・カーバンクルから取ったものになります」
「わあ……」
その糸はキラキラと艶めいていた。
まるで宝石のようだった。
「…………」
刺繍糸があったのは良いけれど、これでは今まで使っていた糸の続きに刺したら色が違いすぎるだろう。
「あ、ありがとうございます。使っていいのかしら」
「こちらの糸、よろしければ全部を後でお妃様の部屋に届けさせますよ」
「あ、ありがとう……」
恐縮しながら私は礼をした。
「ところでお妃様、寝間着や普段着に困ったところはありませんか。改良しますが」
「ええと……いえ、ないです」
何せ今までボロに近い服を着てきたのだ。
高級で着心地がよすぎて文句をつける気には到底なれない。
「それならよかった」
エルフはにこりと微笑んだ。
「……あ、そうだ。ええと、黒ってその、魔界では基本的な色なのでしょうか」
「ええ、そうですね。一番尊い色だと言われています。魔王城に勤めている者の服装は黒で統一されていますし、魔王陛下やお妃様の服も黒が基本でございます」
「そういうものなのですね……」
「ですが、必ず黒でなくてはならないということもありません。好きな色はございますか?」
「好きな色……。青、かしら、ええと、これみたいな」
刺繍糸を示す。
夜空のような深い青が、私は好きで、刺繍にもよく使っていた。
「わかりました」
エルフは手元のメモ帳に何やら書き付けた。
私とニンフは仕立て部屋を出た。
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