『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾

文字の大きさ
46 / 105

第46話 傷だらけのあなた

しおりを挟む
 それは夜半のことだった。
 ドタバタと足音が聞こえて、私は目を覚ました。
 寝室に音が聞こえるのは思えば珍しい。

「……ユリウス?」

 もう帰ってきたのだろうか、そう思っていると――。

「ユリウス!」

 大声が聞こえた。これは、ヴァンパイアの声だ。
 それもずいぶんと切羽詰まっている。
 私はベッドから跳ね起きた。

 ユリウスの部屋との間の扉に一直線に向かう。

「ユリウス!?」

 私は躊躇のひとつもなく扉を開いた。

 そこには慌ただしく走り回るシルフとニンフ、青ざめた顔のヴァンパイア、そしてベッドにうつ伏せに眠るユリウスの姿があった。

「……ゆ、ユリウス?」

「お妃様!? ああ、すみません、起こしてしまいましたか……」

「いえ、あの、ユリウスは、どうしたの?」

「…………」

 ヴァンパイアは答えに窮したように口をつぐんだ。
 その手はせわしなく何やら動いている。

「ど、どうもしない」

 ユリウスがくぐもった声でそう言った。

「大丈夫だ、王妃、心配は要らない」

 それは、何かあったに違いなかった。
 私はもう一歩を踏み出した。
 ユリウスは上半身が裸で、その背中には深々とした傷がついていた。
 傷からは何かモヤのようなものが出ている。

「ユリウス!?」

 思わず手を伸ばした私の手を、ベッドの向こう側にいるヴァンパイアが慌てて掴み留めた。

「いけません。竜の毒が回っています。いかにお妃様でも触っては体に毒です」

「そ、そんな……竜の毒……?」

「事故なのです。レヴィアタンとともに我々は竜息病の竜、バジリスクの元へと向かいました。レヴィアタンがバジリスクを空に掴み上げて……ですが、バジリスクが毒を吐く苦しみに暴れ出して……その爪に陛下はやられたのです。私がついていながら一生の不覚でした……」

「ユリウス……」

「だ……いじょうぶ、だ……」

 ユリウスはこの後に及んで強がりを見せた。

「……手を。手なら大丈夫ですから握ってやってください」

「は、はい」

 ヴァンパイアに促されて、私はベッドの横にひざまずくと、ユリウスの力なくベッドの縁から落ちている手を握った。

「処置を続けます。少し血なまぐさいですよ」

 そう言うとヴァンパイアは、懐からナイフを取り出した。

「さあ、ユリウス、根性見せろ」

「……ああ、頼む」

 ヴァンパイアはナイフをユリウスの傷に差し込んだ。

「な、何をっ!?」

 驚きのあまりに声が裏返った。

「毒をえぐり出しています」

「…………っ」

 ユリウスの手がギュッと握り込まれる。
 私は慌ててその手の平に自分の手を滑り込ませた。
 ユリウスが私の手の甲に爪を立てる。

「み、ミラベル。痛いだろう……手を離して……」

「このくらい、大丈夫です……」

 目の前の痛々しい光景と比べれば、大したことない。

 シルフがたらいを持ってヴァンパイアの隣に控えている。
 ヴァンパイアがえぐり出したモヤのような毒は即座にニンフの水に流され、ナイフは綺麗になる。
 再び違う傷にナイフが差し込まれる。

「ぐうううっ」

 押し殺した声がユリウスから漏れる。

「ああ、駄目だ。お妃様、そいつの口に布を押し込んでください。このままじゃ舌を噛む」

 私は慌てて周囲にあった手頃なサイズの布をユリウスの口の中に押し込んだ。
 ユリウスは何か言いたげにこちらを見たけれど、すぐに痛みにその視線はぶれた。

 ヴァンパイアによる処置はいつまでも終わらないのではないかと思うくらいの間、続いた。
 やがてヴァンパイアが大きなため息をついた。
 その頃にはユリウスの意識はほとんど朦朧としていた。

「よーし……こんなもんだろう」

 ユリウスの体に包帯を巻きつけ、口から布を引っ張り出しながら、ヴァンパイアはそう言った。

「あとは万能薬パナケアを飲ませておけばいい。ニンフ、ユリウスの寝間着を!」

「はい!」

「あ、あの……魔王城にはお医者様とかいないのですか……? それともヴァンパイアさんが、お医者様なのですか……?」

「……医者は竜息病の患者が出た村に置いてきました……。まったく……俺に少し医術の心得があるからと無理をさせる……」

 ヴァンパイアはそう言うと、そのままその場に崩れ落ちた。
 彼も疲れていたのだろう。私が驚く間もなくヴァンパイアの寝息が聞こえてきた。

 ニンフがユリウスの寝間着を持ってきた。
 私も手助けしながら服を着させる。

「お妃様、お妃様ももうお休みになられては……」

 荒い寝息を立て始めたユリウスを見ながら、ニンフがそう言う。

「……いえ、今晩は、そばにいたいの」

「……承知しました」

「あ、あと、ヴァンパイアさんに毛布か何か持ってきてあげて」

「はい」

 私はそれから一睡もせずにユリウスの手を握り続けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...